第5話 アリエ - その2

アリエ。


背が高くて。

長い髪が頭の上で結ってあって。

小さな眼鏡を鼻上にかけていて。

なんだかボーッとしてるのかそうじゃないのか。


歳は…とりあえず僕らよりかは年上ってことしかわからない。すごい上って感じもしないけどいくつなのかそもそもわからない雰囲気を醸し出している。

瞳は、安心するような色で何だか気になる。そんな感じのひと。


さっきは上下のツナギって思ったけどそれもなんか特別な感じの形で色々とオリジナリティあふれる感じだった。ただ何かどこか引っかかる感じがするな、と空の後ろから見ててなんか思ったけど多分勘違いだったのかもしれない。


「ねぇ」

どこから出たのかわからないくらい、急にアリエがポロッと言った。

そして空の紅いキーボードを軽く持ちあげて色んな角度から眺めだしてこう言った。

「駄目だよ、こんなの持ってきたら。どこで買ってきたのよ、これ。ヒドイもんだよ…」

まずこの接続用ポートの強度がひどい、あと各段の高さがなんかバラバラだし、平らな場所に置いたときにガタツキあるし、少しひねっただけでフレームが歪むし、コレはこーだし、アレはあーだし…………

終いにはおもむろに取り出した工具でバラし始めて、内側に対しても何やら指摘を始めて………


……………


空がなんか動かないと思ってたら完全に気絶していた。


……………


「あっ!!ごめんなさいっ、ついウッカリ悪いクセが出ちゃって…」

そう言うとアリエは、バラしたキーボードを手際よく元に戻していった。それは流れるような手つきで思わず見惚れるほどだった。

あっという間に元通り!と言いたいところだったけど、よく見るとキーが何個かついてなかったり、バネ部品がカウンターに転がっていた。

「ちょ、あの!せめてちゃんと元に戻して…いただきたく…」

いつの間にか蘇生した空がそう言ったが、アリエは悩ましそうな顔でフーッとため息をついた。

「これね。最初から壊れてたパーツだったの。もしかしたら君、パチもの掴まされちゃったのかもしんない。動くといえば動くけど中のコントローラーも粗悪品だったし。運悪かったね」

そっそんな〜……と言わんばかりに肩を落とした空の背中はものすごく小さく見えた。

「最近、競技用流行ってるっていう理由で粗悪品売る量販店多いのよね…、カラーはカッコいいと思うけど中身がコレじゃあね」

「そっそうなんです!カラーはカッコ…いいんです…カラーは…」

ズコーーっとなってる空を眺めていたアリエだったが、ふと僕の方をチラッと見た。目と目が合ったという感じだろうか。なんか瞳の奥をのぞかれて、その奥の何かを掴まれた感じがした。


「……あれ?もしかして君さ、キーボード持ってたりするんじゃない?」


アリエは微かに笑顔を見せてそう言った。僕は急すぎるその質問に答えられなかった。というか単純に予想外の事を言われて驚いたのだ。


キーボード??


家のパソコンはノートだけど。無いですけど…と言おうとした時にアリエがそれを遮るように言った。


「家帰ってお母さんに聞いてみたら?多分あると思うよ、【キーボード】。」


また来てね〜とアリエはお店の扉から手を降って見送ってくれた。空は、まぁガックリ来てるけどまた今度空君もそれ持って一緒に来なよ、とアリエは言っていた。


なんとか!なんとかなりませんかぁあああ!!と空がアリエに無理をずっと言っていて、質問するタイミングを色々失ったけど、「何か」あるようだった。


「オレの…2ヶ月分の小遣いが…うぁあ。アリエさん気になるけど…オレの小遣いがぁあ…」

よくわからないループでうなだれる空をチャリの後ろに乗ってけ、薄暗くなり始めてる住宅街を抜け、駅の方へと走り抜けた。


改札を抜ける前までショボくれた空だったが、改札を抜けたあとは何だかオーバーリアクションに手を振っていた。


何はともあれ。

母さんに聞いてみることができた。


僕は立ち漕ぎで家路についた。

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