第4話 アリエ - その1

店中は、外からはよく分からなかったけど、天井までの鉄ラックに様々な部品が入った箱が綺麗に並んでいた。そのラックが何列か並んでいて、ラックの間は人ひとりくらいの幅しかないそこそこ狭い店内だった。ガチャガチャしているように見えて、実は整理されているようにも見えて、なんだか不思議な感じだ。

カウンターには、鑑定士っぽい感じの眼鏡のようなもの(それがなんという名前なのかはよくわからない)を片目にかけた上下つなぎのお姉さんが、先にいたお客さんと話し込んでいる。そのお姉さんは、おそらくそのお客さんのと思われるキーボードを手に取って、様々な角度から眺めて、「2段目と3段目の流れがなんかおかしいなぁ…」とか、「ここは競技平均的に使用率高いキーだからこのスイッチよりもうちょっと滑らかなやつにしたほうがいいのかなぁ…」とか何やらブツブツ言っていた。


(勢いで入ったはいいけど何が何だか全然わからんな…)

口の端にコロッケ辺がついた空※が小声で耳打ちする。僕らは店内での居場所に困って、ひとまず端っこにあるガラスケース内を見るふりしてしゃがんでいた。

店の外に貼ってあるポスターやステッカーにテンションマックスになった空が、もう躊躇なくお店のドアを開いたらこんな感じだ。勢いはすごいんだけどな、空君。

(ドアを開けたらもう入るしかないでしょう…)

うーん、まぁそれはそうだけど。


ガラスケース内は二段になっており、下段は色とりどりの小さな部品が色ごとに箱に入った状態で陳列されていた。それらは見た目からは全然想像つかない金額だったけど、そもそも何が高くて何が安いのかサッパリわからない世界だ。とりあえずこれがこの値段なのか・・・という感じだ。


上段には、電子部品(基板?)みたいなものが置いてあった。【OmegaMicro(x3ドライブ仕様 大会規定準拠)】と書いてある赤い基板が置いてあったけど値札は貼ってなくて、ほかにも似たような基板が数枚高級品のように陳列してあった。その端には、「これ以外にも希望があれば取り寄せ、または特注で設計いたします」という手書き文が貼り付けてあった。

ガラスケースの上には小さなカゴがあって、アクセサリーっぽい個性豊かなキーホルダーやステッカーが入っていた。【バナホルダー再入荷!】とピンクの蛍光ペンで書いてあったがバナホルダー??らしきものは入ってなかった。


うーーん……と二人で首を傾げているとお店のドアが開いた音がした。

さっきのお客さんがどうやら出ていったようだ。


「よし、エンド、さっそくあのお姉さんに競技用キーボードの事聞いてくるぞ」

うぉお、空君勢いあるな。僕も空の後ろに金魚の糞のようについてカウンターの方に向かった。


カウンターまで行くとさっきのお姉さんは少し奥の作業場のようなところに腰かけて、さっきのお客さんが持ってきたと思われるキーボードのキーを小さなハンマーのような物で一つずつ、

コツンッ

コツンッ

と小突いて、何やらノートに数字を細かく書き込んでいた。たまに「あーここねー」言いながら数字以外にも何か書き込んでるように見えた。


「あの、すいみませ」

空がそう声をかけようとしたら、お姉さんはこちらに背を向けたまま、ハンマーを持った手を少しだけ挙げて、

「うん、ちょっと待っててね。もうちょいで終わるから。これ途中で止めると結構調子狂っちゃうのよね」

そういって作業を続けていた。なんだか変わった雰囲気の人だ。

「はッ、はぃい!!!」

空君、君のテンションは一体何なんだ。



※ここに来る前にナイスローカルフード、コロッケパンを食べてきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る