第3話 紅いキーボード
商店街に寄ったあの日、僕は少しだけモヤっとした気持ちが晴れたのか、割と自然体で学校に行けるようになった。
もちろん中学を過ごしていた空気感とは違うし、居場所としても別物なんだけど、知らない連中のクラスメイトとも多少なりともコミュニケーションを取るようにしたら、ちょっと楽しいかもしれないと感じ始めていた。
前の席のカロリーゲート(赤司 空という名前だった)とも少しは話すようになり、彼のテンションにも割とついていけるようになったと思う。おそらく。
ある程度、クラス全体で各々個性が出始めて、休み時間はそれが特に顕著に見られるようになった。昨日やってたテレビの話、ゲームの話、部活の話、休日の予定の話、ムカつく先生の話、恋愛の話…そんなような話がほぼ毎日のようにループして聞こえてきて、ただ単純に「なんかすごいな」、そう思えた。
そんな中、ある空が新たな「新作☆個人的盛り上がり情報」を僕に話してきた。
それは体育の授業の後、たまたま数学が自習となりクラス全体がダルダルな空気感になった時の話だ。
教室の窓は全開、レースのカーテンがゆっくりゆらぎ入ってくる風が心地よい時間だった。自習に真面目に取り組むやつ。うたた寝するやつ。こっそり漫画読むやつ。とても静かな時間で心地よい。
「エンド、これみてこれ」
そう言って空がカバンからソ〜っと取り出してきたのは紅いキーボード?だった。それは、僕が知ってるのとはちょっと違う幅が短い気がするキーボード。
「かっこよくない?」
僕は頷いたものの、出てきたものが意外すぎてちょっとポカーンとしてしまった。
「これさ、今密かな話題になってるって噂の競技用キーボードだよ。熱くない?」
………あーー、いや熱いか熱くないかはちょっとわからないけど、あれか。商店街のあの店で見たあれの事か。
「アリエキーボードファクトリーだっけ?」
「え?」
空がキョトンとしてる。あれ?違ったのかな。
「これはウチの近所の電気街で買ったやつ。いや〜なんか高いものらしいんだけどこれは比較的安くてさ!悩んだけどアカが在庫残りわずかって書いてあったからもう即決だよね。で、アリエキーボードファクトリーってその気になる単語何?」
色々と突っ込みたい事が多いけど、空に商店街の怪しいお店の事を話してみた。
その結果、何故か今日またこの夕方に商店街に行くことになった。正確には空に激しく迫られて案内するとことになったわけだが。
空の家は、隣の隣町にあり、そこから電車通学しているので、この商店街の事は全く知らないとの事だった。さらに家の近所にはこういう雰囲気の場所は無いらしく、なんだか目が輝いて見えた。
「さぁ、エンド君。案内してくれたまえ!」
なんだか微妙に面倒くさいなと思ってしまったけど、
今日は、
高校生活初めての、
2人での下校だ。
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