第2話 夢中

静まる会場、身を焦がすように照りつける照明、今まで経験したことがないくらい心臓の鼓動だけが聴こえてくる。


……………!

心臓の鼓動にノイズが紛れる。


………ス!


…ザス!

(…なんだよ、うるさいな)


メザス!!!聞こえてる?!?!


ハッと我に返った。僕の目の前には、幼馴染の三重(ミエ)が汗だくで立っていた。そして横には…オイオイ、まさかのカロリーゲートが立ってるぞ。そして後ろには、年上のお姉さん………ん?誰だこの人?

「オイ!メザス!しっかりしろよ!ここまで来たんだから最後までやりきろうぜ!」

(……うんうん、そうだね)

「そうだよ!諦めるなんて早いよ!アリエさんがちゃんとチューンナップしてくれたからきっと大丈夫だよ!!」

(そうそう、そうだよな。アリエさんがやってくれてるから大丈夫だ!)


ん?アリエ?


あぁそうだった。今全部思い出した。一瞬、ほんの一瞬だけどこかに彷徨ってた気分だ。

そう、僕らはいろいろあってあの日から3ヶ月後に開かれた競技用キーボードの大会になぜか出てる。メカニックはアリエさんだ。もちろんアリエキーボードファクトリーのアリエさん。


確かに僕は諦めかけた。残念ながら半端な気持ちでなんとなくの流れで大会にも出てる。

でもなんかこうアレコレするうちにあっという間に大会は近づいてきて、今この場に僕と仲間が一緒に時間を共にしている。今この場にして、不思議と。そして「なんとなく」ではいられない気持ちの方が強くなってきたんだ。きっかけはふとしたことに過ぎないし、正直キーボードでよかったのか?とも思うけれど。

でもあながち間違いではなかったのかもしれないと。

照明の眩しさの向こうから、アリエが微笑みながら差し出してくれた「The END TKB-02」を受け取って、僕は素直にそうに思ったんだ。


ーーーーー


話は、僕視点で行ったり来たりわけがわからないかと思うけど勘弁してほしい。

さて、少し話を戻すことにしようと思う。あの日僕が商店街でアリエのお店を発見した数日後の事だ。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る