第3話ドストライクな転校生

 帰りの支度をしているとき、朝倉は俺の近くへ来て、

 

 「10分後に行くから、よろしくね」


 と言いロッカーの方へ鞄を取りに行った。

 俺は「あぁ」とだけ返事をし、準備を再開した。

 

 準備が終わってもまだ7分くらい時間があるので、持ってきた本を読むことにした。

 ペラペラと紙をめくっていると、突然右側から声をかけられた。

 

 「須崎くん、行こう」


 「お、おう……」


 本をめくる力が必要以上に出てしまい、クシャってなった。まぁ、仕方ない。あとで伸ばしておこう……。


 

 朝倉の後に続き、すっかり人のいなくなった教室を出て隣のクラスに行くと、そこには柏倉美彩がいた。


 朝倉は何やら話をし、屋上へ向かうことになった。

 二人の後に続き俺も歩いたのだが、傍から見ればストーカーみたいだなと無意識に感じた。


 屋上まで階段を登り、朝倉が扉を開けて屋上に出た。

 俺もたまに飯を食うとき利用する見慣れた屋上は、近年では珍しくまだ開放されていて誰でも入れるのである。

 

 理由は、2.5mほどの柵があるからである。それも登れないように先端部分が内側に向いているタイプだ。


 うわさだが、前の前の校長が


 「屋上は青春じゃ!閉鎖はせん!」


 と訴えていたそうだ。教育委員会もかなり困っていたらしく、校長は自分の辞職と引き換えに、青春だなーと思う場所を守ったそうだ。

 なんとも馬鹿げた話である。だが生徒からの人望は熱かったとのこと。そんな事はどうでもいいのだが……、二人はずっと笑いながら話している。

 仲が良さそうで何よりだが、俺来る意味なかったんじゃね?とも思い始めた。


 とその時、俺の話題になったそうだ。なんでわかるかって?

 二人がこっちを見たからだ。


 「この人は須崎くんで、付き添いしてくれたの」


 「どうも」


 軽く一礼をする。柏倉は、ふーん……って表情をすると、その瞬間表情が変わった。


 「あっ!今日バスにいた人だ」


 覚えていたのか。まぁ忘れる方が難しいだろ。なんせ今日の話だし……。まぁ俺はとっくに気づいていたけどな。


 「そうです。今朝はすみませんでした」


 俺がテキトーに返すと、柏倉はニコッとした笑みをした。

 今ドキッとしたよ僕。一応一人称は俺なはずなのに、僕になっちゃったよ。


 柏倉は黒っぽいけど少し茶色が混ざった髪色で、肩の上で切っている。顔はかなり整っているが、彼女が人気なのはそれだけではないと俺は思う。

 なんせ雰囲気がもう他の人とは違う。優しく包みこんでくれそうな、でも近寄りずらいそんな感じだ。

 そろそろ俺は抜けたほうがいいかなと思ってきたので、


 「じゃ、俺は先に失礼します」


 と伝えると、二人はわかったと返事をした。俺は頷き、屋上を出た。一息つき、階段を下りる。

 

 1段1段階段を降りていくうちに、あの柏倉美彩の可愛さに虜になりそうだった。

 だってあれ、俺の好きな妹キャラの性格にドストライクだったのだ。


 柏倉が妹だったら、俺は最高の幸せを得ただろう。俺の手料理を振る舞いたい、そんな衝動に心を奪われた。



 家に帰ると、もうすでに妹は帰宅していた。もちろん、ただいまと言っても何の返事も返ってこない。

 リビングに入ると、ソファーの上で携帯を弄っている妹がいた。


 妹がリビングにいる時は、俺は自室に籠もる。

 飯を作るときは別だ。この家はキッチンとリビングがつながっているからな。


 会話も無いと、俺が気まずくなるということが一番の理由だ。



 なぁ、妹よ。なぜ俺を嫌う……。

 

 冷蔵庫から買い置きの天然水を取り出し、コップに氷を入れてから注ぐ。

 少しだけ待ち、冷たくなったかな思ったので一口二口と飲んでから、一気に飲み干す。

 

 一段落ついたところで、

  

 「今晩何食いたい?」


 俺はとっても優しい口調で、不快感なんて絶対に感じないような態度で質問した。これってもう兄じゃなくて奴隷だよな……。

 

 「……」

 

 妹は携帯から目を離さず、しゃべるつもりは一切無いらしい。そうか、そんなつもりなら俺はとっておきの秘策をここでお披露目するしかないようだな。


 妹はたまに、弁当箱へある食べ物だけを残してくる。いつもは空なのに、それが給食で出たときは弁当袋がやけに膨らんでいる。


 とどめに妹はろくに料理ができない。インスタント系はほとんど消費し、そろそろ買いに行こうと思っていた頃だ。



 チャンスは今だ……!。

 

 切り札は俺にもある。もう今日使っちゃおと思い、大きな独り言を喋った。


 「そういえば昨日納豆安くていっぱい買ったんだった。いっけねー……。今日は納豆をたくさん、というかall納豆だな。よし、決まり!」


 妹の肩がギクリと震えるたのがわかった。


 会心の一撃《クリティカルヒット》だ……。


 今日の俺は容赦しないぞ。まだ手札はある。俺にもデュエルさせろ。


 「あ、今日から1週間Wi-Fi回線の不具合でWi-Fi停止するんだった。俺のポケットWi-Fiに繋げなきゃな」


 ここでも妹の肩が……、いや手も震えている。Wi-Fiが無くても外部ネットワークみたいなやつでネットは使えるのだが、ギガをたくさん使ってしまうのだ。

 父親は使い過ぎにうるさいので、なるべくWi-Fiでギガを使わずにネットを利用している。

 でもWi-Fiが切れれば、携帯を弄るには必然的に外部ネットワークを使わざるをえない。


 でもそれだと父親に叱られる。そんなときのために俺は、どこでもドアじゃなくてどこでもWi-Fiを所持していたのだ。


 妹はいっつも携帯を弄っている。それが習慣化してしまった以上、急に変えるのは難しいだろう。

 でもギガはあまり使いたくない……。


 そんなとき俺のどこでもWi-Fiを使いたがるはずだ。


 どうだ妹よ……。俺は手強いぞ……?


 俺はどこでも以下略のSSIDを見つけ、パスワードを入力していく。

 もちろん俺の表情はゲスの極みどころかクズだ。ただのクズでしかない。自分で言うのもなんだが、まじでクソだ。語彙力無いところも引っ括めて。


 横目で妹を見ると、何やら話しそうだった。だが俺はここで逃げる事にした。だっていつも部屋籠もるし。いつもどぉ〜りの生活してますよ俺は。


 俺はわざとらしく、


 「よし!繋がった。部屋でアニメ見てこよぉ〜」


 と言い、リビングから出た。

 俺はさんざん妹と話したくて接していたのに、話せなかった。だから、今度は逆に妹に辛い思いさせてやる。

 今までひどいことされたけど、仕返ししなかったし今日くらいはやらせてくれ。


 これでうまくかかった……!


 不適な笑みを浮かべて自室のベットへダイブした。

 


 


 


 

 


  

 

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