LASTART

姫川真

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 残り5分。


 泣いても笑ってもそれが彼ら、姫路涼ひめじりょう川野流かわのりゅう真矢咲まやさきに残されたアイドルとしての最後の時間でした。


「ご報告していた通り、次の曲を持って俺たち『R2S1』は解散します」


 涼は衣装を強く握りしめながらもアイドルとして100点いえ120点の笑顔を見せながらはっきりと言いました。


「僕らの事を忘れないで下さいなんてわがままは言いません。ただ、僕らはここまで応援してくれた皆様の事を一生忘れません」


 流はマイクを介さず自分自身の声を2万5000人の観客がいるドームに響かせながら、自身の拳を天高くつき上げました。


「最後に聴いていただくのは、ただの一般人だった私たちがアイドルになって初めて歌わせて頂いた曲。アイドルである私たちがただの一般人に戻る前に改めて歌わせていただいた曲です」


 咲は目に大粒の涙を浮かべながら湿度100パーセントの声でそう言いました。


「始まりがあれば終わりがある」


「終わればまた始まる」


「聴いて下さい。涼、流、咲『R2S1』で」


 『R2S1』のアイドルとしての残り時間、残り4分15秒。3人は声を揃えて言いました。


「「「LASTARTラスタート」」」


 観客の全力のコールが見どころであり楽しみどころである『R2S1』の曲の中で唯一コールが一切存在しない『LASTARTラスタート』という曲が始まると誰が指示した訳でもないのに、


 赤色がトレードマークの涼が立つステージ上手側の客席に赤色のサイリウムが、


 青色がトレードマークの流が立つステージ中央側の客席に青色のサイリウムが、


 橙色がトレードマークの咲が立つステージ下手側の客席に橙色のサイリウムが、


 一色たりとも混ざることなく綺麗に灯りました。


 曲の終盤、『R2S1』のアイドルとしての残り時間が残り1分に差し掛かった頃。感極まり歌うことが出来なくなってしまった咲を皮切りに涼、流が歌えなくなると客席で合唱が始まった。


 そして、残り30秒。


「今日まで応援ありがとうございました」


「僕らがこうして終われるのも皆様の応援があったからです」


「この曲にとって最後で最初のコール思いっきり叫びましょう!」


 何十回、何百回、何千回、何万回と聴いて来たファンは掛け声が無くても揃うという自信があるようで2万5000人の内誰一人として


「せーの!」


 なんて言う人は居ませんでした。


「LASTART!」


 残り5秒。2万5003人の声でドームの中の空気はビリビリと痺れました。


 残り4秒。シンと静まった空間で赤、青、橙のサイリウムが涼、流、咲を照らしました。


 残り3秒。大きな拍手がドーム中に響き渡りました。


 残り2秒。『R2S1』の3人が「ありがとうございました!」と言いました。


 残り1秒。『R2S1』の3人は深々とお辞儀をしました。


 残り0秒。『R2S1』の3人を照らしていたサイリウムという名の魔法が消えドームは暗闇に包まれました。

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LASTART 姫川真 @HimekawaMakoto

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