08

た「更月先輩、どうして冷泉神社に来るように言ったんですか?それに望ちゃんを連れるだなんて…」


望「?」


忍「大丈夫、すぐに終わるから。とりあえず本殿に入ってちょうだい。あなたが奉納演舞をする場所でもあるのだし、そういう意味でも足を踏み入れておく必要があるわ」


た「あ、うん………行こうか、望ちゃん」


望「分かった」



………



忍「………」


小「そう…彼に娘が見えるようになっちゃったのね」


忍「…ごめんなさい」


小「まあ、何十年もすれば人も一巡する。記憶は風化して中身の無い慣習だけが残る。遅かれ早かれこうなる事はわかっていたわよね」


忍「とにかく、私は彼に…たくま君に伝え続けるわ。これがどういう事で、彼が何を守らなければならないのかを」


小「忍、あまり無理をしてはいけないわ。あなたにはまだ母親が居る。あなたが無理に全てを背負う必要はまだ無いのよ」


忍「でも、同じ学校に通っている後輩よ。私は近くに居る必要があるわ」


小「もう、頑張り屋さんなんだから…よいしょ…っと」


忍「小折、何処へ?」


小「ちょっと、変装を借りるわね。私も、久しぶりに姿を表した私の娘の顔が見てみたくなったから」


忍「小折………」


………


小「あら、意外と早く見つかったのね」


望「えっ………?」


小「こんにちは、望ちゃん。久しぶりね」


望「えっ………私の事、見えるの?」


小「勿論よ。娘の事を目に入れても痛くない母親なんて居ないわ」


望「へっ?あ………お母さん!?」


小「お久しぶり~」


望「どうしたの?急に…」


小「…新しい舞い手、決まったんでしょう?」


望「え、あっうん!そうだよ。今までの人、今年は見えなくなっちゃったみたいで、私から手を振っても全然反応してくれなくて…」


小「代わりに、あなたを見ることの出来る男の子が現れた?」


望「う………うん、まぁ…ね?」


小「珍しいこともあるわよね。男の子の舞い手なんて」


望「お母さん、よく知ってるね」


小「だって、私はあなたのお母さんだもの」


小「それで、望はその男の子の事、どう思っているの?」


望「どう………?」


望「…よく、わからないかな。まだ何回も出会ってないし、男の子って言うのが…そもそも私にはよくわかんない」


小「そうよね~、あなたにとっては女の子が全てだったものね~」


望「あ、でも!その人…たくまくんって言うんだけど、私の事見えても驚かなかったよ。と言うかむしろ私………」


小「ん?」


望「その、見えてないって思い込んでて、うっかり前で座り込んだりして…その」


小「あらあら、ちょっと恥ずかしいところ見られちゃったのね~」


望「言わないでよ~」


小「うふふー。それで、あなたはその男の子は嫌い?」


望「え?うーん…嫌い、という訳じゃないかな。ちょっと難しいかも」


小「わかったわ。じゃあね、お母さんのお願い一つ聞いてもらっていいかしら?」


望「お願い?」


小「そ。もしね、あなたがその男の子の事が気になってどうしようもなくなったら、私の事を探してちょうだい」


望「どうしようもなくなったら」


小「そう。あなたはきっとその男の子とこれからよく出会うでしょうけど、出会っていく内にその子を考え続けるようになったら、私にも教えてね」


望「よくわかんないけど、わかった。その時はお母さんに教えるね」


小「楽しみにまってるわ。よい…しょっと」


望「もう帰るの?」


小「えぇ、私の親友をあまり長く待たせるわけには行かないわ」


小「望も一緒に来る?」


望「………ううん。私は町を歩き回ってる」


望「もしかしたら、今日もたくまくんは練習してるかもだし」


小「わかった、じゃあまたね」


望「うん」

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