09
忍「ねぇ、祭ヶ原君」
た「うん」
忍「もうすぐ冷泉の夏祭りよね」
た「………うん」
忍「夏会の舞いは順調?」
た「そう…だね。町の人たちがとても真剣に教えてくれたよ」
た「その………望ちゃんも、ずっと僕に付き添ってくれたし」
忍「そう………」
忍「ねぇ、祭ヶ原君」
た「うん?」
忍「まず、私は謝らないといけないわ」
た「謝る?」
忍「ごめんなさい。私はあなたを守ることは出来ないわ」
忍「私は、この町を管理する冷泉神社の人間だから、祭ヶ原君がしている事、祭ヶ原君がしようとしていることを許すことが出来ない」
た「ぼくが、しようとしている事…?」
忍「…望ちゃんの事、好き?」
た「っ………!」
忍「やっぱりね。いくら取り繕っても、そういう事はよく見ることが出来るものよ」
た「それを言いに来たってことは、更月先輩はやっぱり…」
忍「そうよ。正直に言えば、私はあなたと望ちゃんにはあまり近づいてほしくないわ。これ以上近づけば………」
忍「祭ヶ原君も知っているわよね。冷泉の夏会の禁忌のこと」
た「お母さんから聞きました」
忍「そう、ただでさえ、あなたが選ばれたこと自体が異例なんだから、祭ヶ原君にはこれ以上…危険なことはしてほしくない」
た「…それは、わかっています」
忍「…祭ヶ原君、いえ………たくま君」
た「っ!先輩、て、手っ………」
忍「たくま君。もし嫌じゃなかったら、私が代わりになってあげてもいいのよ」
忍「私は構わない。あなたが望むのなら、私はあなたの思うようにしてあげる。そういう努力だってして見せるわ」
忍「私には、そうする覚悟だって………」
た「さ、更月先輩っ!」
忍「ほら、ここ…私の鼓動、感じる?」
忍「私も高鳴っているのが自分でわかるわ。私だってこんな経験は今までにないのだから」
忍「だから、初めて同士………」
た「や………」
忍「そんなに怖がらなくてもいいのよ」
忍「私もこういう経験はないのだから」
忍「私だって………初めての………」
た「せ、せんぱっ………!足を絡めて、何を………!?」
忍「あなたは、男らしい朗々とした人ではないけれど、見つめていると放っておけなくなる」
忍「もしかしたら、私じゃなくてもあなたの事を好きな人は少なくないのかもしれないわね」
忍「そういう人たちには悪いけれど………」
忍「私が………あなたを………」
た「やめてくださいっっ!!!」
忍「きゃっ………!」
た「…どうしたんですか、先輩」
た「僕は、今の先輩が………怖いです」
た「どうして急に僕にそんなことをっ」
忍「ごめんなさい………」
忍「本当は…こんなことをしたくなかったの」
忍「でもたくま君」
忍「あなたが望ちゃんと一緒に居たいのなら」
忍「………あなたが、望ちゃんを好きになっては駄目なのよ」
た「そんな………事………」
忍「分かっているのよね?でも、分かっていながらあなたは迷っているのよね」
忍「だから、私はあなたを迷わせたくないから………」
た「僕は、今の更月先輩が………怖いです」
た「よく、分からないんです」
忍「お願い」
た「だから、今はここから逃げ出したい」
忍「おねがい………」
た「もう、先輩とも顔を合わせられる自信がない」
忍「おねがいだから…あなたはあなたの心を………」
忍「うらぎって………」
た「僕、もう帰ります………また、夏祭りで会いましょう」
忍「まって………待って………!」
………
忍「………おねがいだから」
忍「あなたは今まで例外と違うと信じてるから………」
忍「………お願いします」
忍「どうか、この町が今のままであり続けるように」
忍「お願い………します………」
………
小「無理をし過ぎよ、忍」
忍「………」
小「忍、祭ヶ原君を本殿に呼んだ時からずっと震えてたじゃない」
小「それにそもそもあなたは奥手で経験のない子。私もあまり人の事は言えないけれど、あんな無茶をしたら祭ヶ原君も、あなたも傷つくだけじゃないの」
忍「……私だって、怖かったわよ。けど、私が怖がっても、彼が恐れても、例え彼が私を嫌っても…何があっても、彼と望ちゃんは………」
小「ふう………ここら辺が潮時かしらね」
忍「…小折?」
小「忍、悪いんだけれどしばらく出掛けてくるわね。ちょっと神様として大事な用事に出掛けくちゃいけないから」
忍「神様って…」
小「ウィッグ、借りていくわね。それと麦わら帽子も」
忍「ま、待って…」
やだ
小「あぁ御母様の事は気にしないで。多分、少しもしない内に私の事なんて忘れちゃうでしょうから」
忍「まって」
だめ
小「それと、今は傷付いた心を休めなさいな。あなたも祭ヶ原君も無理をしているんだから」
忍「まってっ!」
やさしくしないで
小「それじゃあ、お出かけしてくるからね」
忍「待ってよっ!こおりっっ!」
パタン…
………
忍「…何よ、出掛けてくるだなんて」
忍「わざわざ言わなくてもいいのに」
忍「どうして不安が抜けないの」
忍「戻ってくるのよね?」
忍「大丈夫…なのよね?」
忍「頼むから、小折じゃなくてもいいから、誰か大丈夫だって………言って?」
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