05

忍「…冷泉」


冷「はいはい、ここに居ますよ~」


忍「…外に、出てみたくはない?」


冷「………え?」


忍「この本殿の外よ」


冷「どうしたの急に」


忍「あなたは、ウィッグって知っているかしら」


冷「うぃっぐ?」


忍「簡単に言えばかつらよ。でもただ隠すためじゃなくて、最近は自分の髪型を自由にデザインする目的で、色んな種類が出ているのよ」


冷「へぇ、なんだかおしゃれなのね」


忍「それで、このウィッグを使ってその目立つ水色の髪を隠して外に出たら、誰も気がつかないんじゃないかって思ったのよ」


冷「それは魅力的な提案ね。でもどうしてそんな事を?」


忍「あなたが外に出たのはいつの話?」


冷「それは…その」


冷「あはは…」


冷「少なくともあなたが生まれるよりも前から外には出てないわね」


忍「でしょうね」


忍「だから、何十年も世間を見ていない神様にも、ちょっとは外の世界を見せてあげようかと思ったのよ」


冷「ふふっ、言い方が素直じゃないのね」


忍「隠すことなんて無いわ。それも一つの本心だから」


冷「ありがとう忍。じゃあせっかくのお誘いなんだし、ご案内されようかしら?」


忍「それと、ちょっと待って」


冷「はいはい?」


忍「あなたに名前を一つあげるわ」


冷「名前?」


忍「冷泉なんて呼んでちゃすぐに怪しまれるでしょう。だから、私とあなただけが知っている名前で呼ぶのよ」


冷「それはいいわね。それになんだか楽しそうじゃないの」


忍「だから…私はあなたの事を”夏野なつの 小折こおり”と呼ぶことにしたわ」


冷「なつの………こおり………?」


忍「………何よ、訝しげな顔をして」


冷「い、いえ?なんだかとても涼しそうな名前だなぁ…って、ね?」


忍「顔が正直じゃないわよ。大体…分かってるわよ、正直言って唐突に思いついた名前で捻りがないことなんて…」


冷(小)「ま、まぁまぁあなたがせっかく私にくれた名前ですもの。どういうものであれ大事に使わせてもらうわよ」


忍「すごく同情を感じるんだけれど」


………


小「やっぱり、冷泉町は涼しいわね~」


忍「、あまり悠長にしていると迷子になるわよ」


小「自分の生まれ育った町で早々迷子になることなんてないわよ~」


忍「はいはい。しかし、上手に隠れるものね。あなた結構髪長いのに」


小「その辺は年の功よ」


忍「言ってて悲しくならない?」


小「まあ、そう言う取り繕いは外に居たとか居なかったとかは関係なく身に付くものですからね」


忍「そういうものかしら………あ」


た「あ、えっと…更月…先輩?」


忍「今日はお出かけ?」


た「はい…まぁ」


小「ねえ忍、この人は?」


忍「あぁ、この人はうちの高校の後輩よ。祭ヶ原まつりがはらたくま君」


た「は、初めまして」


小「祭ヶ原、それって冷泉町では有名人なんじゃないの?だって、夏会なつのえを歴任したこともあるお家でしょう?」


た「あっ………」


忍「小折、余計なことは言わないで。彼は今の祭ヶ原家のなんだから」


小「あ、あら…そうだったの。ごめんなさいね、お姉さん気が利かなくって」


忍「祭ヶ原君、この人の言ったことは気にしなくていいわ。この人は家の居候で夏野小折。この町の事については多少理解がある人よ」


た「小折さん、よろしくおねがいします」


小「純朴な子ね。ねえ忍、こんな純粋な人をあなたの彼にしたらいいのに」


た「ええっ!?」


忍「つねるわよ小折。余計なことを言って祭ヶ原君を困らせないで」


小「はいはーい」


忍「重ねてごめんなさい。小折は人の事をおちょくるのが好きなのよ。まともに受け取っても良いことはないわよ」


小「もう、忍も祭ヶ原君もつれないわね」


忍「あなたのせいよ、あなたの」


………


小「じゃあね~祭ヶ原く~ん」


忍「あなたがどうして長らく外に出してもらえなかったのか、ちょっと理解できた気がするわ」


小「そう?私の事を知ってもらえたみたいで嬉しいわ」


忍「そうやって人をおちょくる癖直しなさいよ。見てて気が気じゃないわ」


小「ふふっ、根を詰めすぎると早く死んじゃうわよ?ちょっとくらい気を抜いて人と接した方がいいわ」


忍「どこかの誰かがいらぬ心配を掛けてくれなければもう少し気楽なんだけ…ど」


小「………」


忍「れ、いや…小折?」


小「本当に、少しでいいから…ね?」


忍「あなた…」


小「………」


小「少しでも、一秒でも長く、私のそばに居る人には、生きていて欲しいものよ」


忍「………そう、ね。あなたは、あなたの神生じんせいの中で…何人も…」


小「………ふふっ」


忍「…まぁ、性分は仕方ないけど、少し位気楽に生きてもいいかもしれないわね」


小「そうそう、もっと自分を大切にするべきよ。どうせだから私の事も自由にしてもらって…」


忍「それは却下」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る