第四章 十三節 いざE地区へ
子供たちとの別れも済ませ、レイナの用意した馬車に乗ってエルドたちはE地区へ繋がるゲートへ向かった。
昼ごろにゲートの前に着くと、例のごとく門番が二人、ゲートを見張っていた。
「では皆さん、手筈通りに」
ディアナの言葉にエルドたちは頷いた。そして馬車を降りて歩みを進めると、ゲートの前にいる門番がエルドたちに近づいてきた。
「はーい、止まってくださいよっと。……おや、アンタひょっとしてディアナ嬢ですかい? あの屋敷から出てくるなんて珍しい。今日はどのようなご用件で?」
随分と軽そうな門番がディアナに話しかけてきた。この門番はディアナのことを知っているようだったが、ディアナは初対面のようだった。
D地区ではディアナは有名人だったので、どうやらこの門番がディアナのことを一方的に知っているだけのようだ。
「ここへ来る用なんて一つしかありませんわ。私たち、E地区へ行きます。ですから、そこを通して頂けるかしら」
門番もこの回答は予想していたようで特に驚いた様子はなかったが、疑問はあったようだ。
「何だってまたこんな時期に? アンタも知ってると思うが、年に一度の『身体測定』はもうすぐですぜ? まあアンタに限って自己測定ミスなんてのは無いと思うが、万が一ってこともある。……何をそんなに急いでるんで?」
軽そうに見える門番もやはり騎士の端くれ。鋭い目付きでディアナの挙動を観察している。
「別に急いでいるわけではありませんわ。ただ、E地区へ行ける資格があるのに、D地区に留まっている理由なんて無いでしょう?」
ディアナもこれまでにいくつもの修羅場は潜ってきているようで、動揺を表に出すようなことは無かった。
「…………ふぅ。それもそっすね。いいですよ、お通りください……ん? いつものメイドさんとは一緒じゃないんすね」
門番の張り詰めた空気も一瞬で消え、元の軽い調子に戻った。そこでようやく他の面子を見たのか、ディアナの後ろにいるのがレイナとモニカではないことに門番は気づいた。
「ええ、残念ながらあの子達はお留守番ですわ。ですが、代わりの従者としてE地区へ行ける者たちを何人か選出しましたの」
「…………(誰が従者だ……痛ッ!)」
門番に聞こえないように小声で悪態を吐いたアリスのお尻をベリルが抓った。
「へぇそうかい、こんなにいるとはね。アンタのところの従者は優秀だねぇ。まあ女性陣は良いとして、この兄さんも従者?」
門番はエルドを指差しながらディアナに尋ねた。
「ええそうです。こう見えても彼は従騎士の称号を持っていますので、問題はないかと思いますが?」
「まあ勲章も付けてますし……特に問題はないんですがね。なに、この兄さんの実力が本当に『従騎士』なのかと思ってね」
勲章があれば、前のように門番と戦闘をしなくて済むと思っていたので、ディアナたちは少し身構えた。
「私の従者が実力不足だとでも? そんな偏見で通さないとでも言うつもりですの?」
「いえいえ、その逆。ウチの相方は少しばかり鼻がキクんですよ。手練れに会うと、あんな風に眉間にシワを寄せちゃってね」
そう言って軽い門番はもうひとりの門番を指差した。
ずっと無言だったのでディアナたちもあまり気にしていなかったが、確かにもうひとりの門番は眉間に深いシワを寄せてエルドを睨んでいた。
エルドと門番のにらみ合いが少し続いたかと思うと、門番は壁に背中を預けて、腕を組んで目を瞑った。
「……どうやら、相方の方も問題ないっぽいですわ。それじゃ改めて、どうぞお通りください」
一悶着ありそうな雰囲気だったが、何の疑いも持たれることなく、エルドたちはE地区へ続くゲートを無事に通過した。
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