第四章 五節 ディアナと二人のメイド

 翌朝、ミランダが早くから用意してくれた朝食をエルドたちとウォレス夫妻の全員で食べ始めた。


「ミランダさん、昨日頼んでおいた物は用意していただけました?」


「ええもちろんよ。夜のキャンプに必要な物は一通り揃っているわ。それにしても、皆で夜に星を見に行くなんてロマンチックねぇ! 私も若い頃に何度かこの人に連れていってもらったのを覚えているわ。懐かしいわねぇ……」


 おそらく照れ隠しなのだろうが、ミランダの視線から顔を逸らしたウォレスを見て、ミランダは肩を竦めた。


「あなた達も、うんと楽しんでいらっしゃいな!」


「感謝するわ。終わったら必ず返しに来ます」


 ベリルとミランダのやり取りを見ていたエルドは、昨夜ベリルがミランダに「夜営に必要なものは頼んでおいた」と言っていたのを、パンを口に運びながら思い出していた。

 朝食を食べ終わるとエルドたちは馬車を借りるため、ミランダから借りた荷物を持って宿屋を後にした。

 特に手続きに時間を取られることもなく馬車を借りることができたエルドたちは、荷物を荷台に詰め込むと、予定通りディアナの屋敷から小さな丘をひとつ隔てた場所へ向かうため出発した。






――同時刻――

 ディアナの屋敷の一室では、優雅に椅子に腰掛けてティータイムを過ごしているひとりの女性と、その後ろに白と黒のメイド二人が立って控えていた。

 上品にティータイムを過ごしているこの女性は、真紅のドレスに身を包んでおり、紅茶を口元に運ぶ姿は、一国の姫と言われても何の違和感も無いほどに気品に満ちていた。


「そういえば、昨日は来訪者を追い返したそうね、レイナ?」


「……はい。その時、ディアナお嬢様は地下に籠っておいででしたので……お引取り願いました」


 屋敷の主であるディアナと呼ばれたその女性は、勝手をしたメイドを咎めるような口調ではなく、むしろ他愛のない世間話のような気軽い口調だった。

 それはレイナも承知しているようで、申し訳ないという気持ちはあまりなく、いつも通り淡々と言葉を紡ぐだけだった。


「でもですね~。あの様子だと、また近いうちにここに来ますよ~。そのときはどうします~?」


 もう一人のメイドであるモニカの軽すぎる口調にもディアナは気にする素振りもなく、一口飲んだ後カップをソーサーの上に置いた。


「いつも通りよ。誰であろうと、この屋敷に踏み入ろうとするのなら容赦する必要はないわ。二人とも、任せたわよ」


「「かしこまりました」」


ディアナの言葉を受けて、モニカとレイナは息の合った返事と丁寧なお辞儀をした。

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