第四章 四節 パジャマパーティー(作戦会議)

 ようやく落ち着いたところでそれぞれの部屋に荷物をおろし、エルドの部屋にアリス、ベリル、クレアの三人も集まって作戦会議を開くことになった。


「さてと。それで、明日からどうする?」


 話を切り出したのは、すでにパジャマに着替えているアリスだった。というより、この場にいる全員が漏れなくパジャマ姿だった。

 ちなみに、このパジャマは既製品ではなく、全てベリルの手によって作られたオーダーメイドである。


「どうするも何も、明日には騎士団御一行がこの宿に来るのだから、私たちは鉢合わせしないように、朝にはここを出なくてはいけないでしょ?」


「そんなことはわかってるよ! そうじゃなくて、この宿屋を出てどこに行くかってこと!」


「あの、そのことで少し相談があるのですが……」


 ベリルの冗談にアリスが食ってかかろうとする中で、クレアがおずおずと手を挙げた。


「その……やっぱり、どうしても子供たちのことが気になるんです。明日、もう一度ディアナさんのお屋敷に行ってみませんか?」


「それは私たちも同じだけれど……。あの二人のメイドを見たでしょ? 子供たちのことを素直に教えてくれるとは考えづらいのだけれど」


 クレアはベリルの言葉で今日会った二人のメイドを思い出して、返す言葉が見つからず俯いた。


「別にいーじゃん。あたしは構わないよ。エリスがいるかもしれないし、何よりもアイツらには借りがあるしね」


 理由はどうあれ、アリスはクレアの肩を持ち、俯いていたクレアは顔を上げてアリスに笑顔を向けた。


 乗り気な二人を見てベリルはため息をついた。


「はぁ……。貴方はどう思っているの?」


 ベリルは、一連のやり取りを見守っていたエルドに問い掛けた。エルドは目を伏せ、一拍置いてから目を開けて口を開いた。


「……行こう。子供たちのことを知ってしまった以上、放ってはおけない。それに、アリスの言うとおり、エリスの行方の手掛かりも見つかるかもしれない」


 エルドの肯定の言葉を聞いて、アリスとクレアは顔を見合わせて喜んだ。


「はぁ……。わかったわ。そうと決まった以上、キチンと作戦を練りましょう」


 ベリルは呆れではなく、諦めの深いため息をついた。そして、居住まいを正してから、クレア、アリス、エルドをぐるりと見ると、咳払いをひとつして再び話を切り出した。


「こほん。では先ず、私が考えた作戦を聞いて貰えるかしら。その後で何か意見や質問があれば言って頂戴」


 ベリルは全員が頷いたのを確認すると、考案した作戦を説明し始めた。


「明日の朝にこの宿屋を出たら、今日と同じ所で馬車を借りましょう。そして、ディアナの屋敷から小さな丘をひとつ隔てた場所で夜を待つの。あとは闇に乗じて屋敷に潜入して情報収集ってところかしら。これはC地区で施設潜入したときと同じね。これなら極力戦闘を避けられるでしょう。ちなみに、夜営に必要な物はミランダさんが貸してくれるそうよ」


「いつの間に……。乗り気じゃないみたいな事言ってたクセに、準備いーじゃん。ホントは最初から行く気満々だったんじゃないのぉ?」


 アリスがニヤけながら茶化すように言葉を投げかけると、ベリルはそっぽを向いた。


「か、勘違いしないで頂戴。この作戦は元々、偵察を目的に考えたものよ。貴方の妹がいるかどうかを確認するだけなら危険も少なかったのだけれどね。でも、今回は他の子供たちの安否だけではなく、場合によっては救出も視野に入れなければいけないわ」


 ベリルの言葉に全員が賛同し、強く頷いた。


「あとは屋敷に忍び込んだ後のことを決めておこうか」


「そうね。何か具体的な案はあるかしら?」


 エルドの言葉を受けてベリルは同意し、質問した。


「二人一組で二手に分かれようか。捜索の効率も良いし、万が一あのメイドたちと鉢合わせても対応できると思う」


「妥当な判断だと思うわ。片方が時間を稼いでいる間に、もう片方は捜索や背後からの奇襲、子ども達の救出や脱出経路の確保といった臨機応変な行動ができるものね。それではチーム分けはどうするの?」


 エルドは自分が決めていいものなのかと躊躇い、アリスとクレアを見た。だが二人ともエルドの方を見て言葉を待っているだけだった。

 エルドは決断を委ねられていると悟り、自分の考えを口にした。


「まずはアリスとベリル、そして俺とクレアの二組でどうかな。機動力のあるアリスとベリルにはなるべく捜索に力を入れてもらって、俺とクレアは、捜索はもちろんだけど、できる事ならメイドたちの足止めを担いたい。持久戦なら俺たちの方が向いていると思うんだ。……どうかな?」


「ええ、私はそれで良いと思うわ。お二人はどう?」


 エルドの提案にベリルは二つ返事で引き受けた。そして、ベリルはエルドと同じくアリスとクレアに目をやった。


「捜索か……うん、まあ、いいんじゃない?」


「戦闘は正直苦手ですが、子供たちの為でしたら異論はありません!」


 アリスの歯切れが悪いのは、恐らくメイドとの戦闘を任されなかった不満からなのだろうが、優先すべき目的が妹エリスを含めた子供たちであることを理解していたので、クレアと同様に異論はなかった。

「よし、それじゃあ明日に備えて今日のところは休もうか」


 エルドのその一声でアリスたちは頷いて立ち上がった。

 そして、ベリルが「添い寝してあげましょうか?」とエルドに迫ったのをアリスが引き剥がし、バタバタと自分たちの部屋へ戻っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る