第四章 一節 D地区
ゲートを通って無事D地区に着いたエルドたちは、C地区との街並みの違いに唖然としていた。
D地区の人口はC地区の半分ほどにも関わらず、C地区以上の賑わいを見せていた。
この地区まで来ると昔の貴族たちを思い出せるほどには、人の装いも建物も豪華になっていた。女性は煌びやかなドレスを着飾り、男性はスーツやコートを身に纏っていて、まさに紳士といった装いで、道行く人たちは何処となく気品のようなものが漂っていた。
「こ、これがD地区かぁ……」
「……あのドレス、手を加えればもっと……」
「私、場違いでしょうか……?」
アリスやベリル、そしてクレアまでもが、D地区の雰囲気に何だか落ち着かない様子だった。
ゲート前に突っ立っていても仕方がないので、一行はとりあえず適当に街を歩いて回ることにした。
しばらく店を見て回りながらそれとなくエリスの情報を集めていると、気の良さそうな老紳士がアリスたちに話しかけてきた。
「おや? あなた方ひょっとして、今しがたC地区から来られたのですかな?」
「ん? そうだけど……じいさん、あたし達に何か用か?」
「いえいえ、少し珍しかったものでつい。この地区にはあまり子供が居りませんので」
老紳士に悪気は全くなかったのが、視線はアリスとベリルを確実に捉えていた。
子供扱いされたアリスは見るからに機嫌を悪くした様子だったが、その反面ベリルは怒りの感情を内にしまい、平常心を装って老紳士に話しかけた。
「確かにあまり見かけないようだけど、いないわけではないのでしょう? そんなに珍しがるものかしら?」
ベリルのやや好戦的な物言いに老紳士は気を悪くした様子はなかったが、少しだけ神妙な面持ちになって口を開いた。
「……実は、この地区に来る子供たちは、ひとりの人間によって、とある屋敷に集められているのです」
老紳士のきな臭い話に、エルドたちは顔を強張らせた。
アリスは屋敷に集められている子どもたちの中に、妹のエリスがいるのではないかと考えを巡らせ、詳しい話を聞こうと老紳士に訪ねることにした。
「じいさん、そいつはどんな奴だ? 名前とかわかるのか?」
「え、ええ、わかりますよ。この地区に住んでいて彼女の名前を知らぬ者はおりません。彼女の名は『ディアナ』。……何でも、子供たちを集めているのは、自分よりも胸を大きくさせないようにする為だとか」
「こ、子供たちは無事なのでしょうか⁉」
クレアは子供のことが話題に上がったことで、少し前のめりになった。おそらくC地区に残してきた教会の子供たちと重なったのだろう。
「……生きてはいます。街でも何度か見かけたことがありますが……あれは酷すぎる。子ども達は皆、胸に拘束具のようなものが取り付けられていて、とても苦しそうだった。声を掛けようとしても、怯えて逃げられてしまって……。私は子供たちを助けることができませんでした」
老紳士は悔しそうに拳を握り締めた。その老紳士の様子と子供たちの話を聞いたクレアも、俯いて自分の服の裾を強く握った。
その様子を見たエルドは、少しでも安心させようとクレアの肩に手を置いた。
「そのディアナという人が住んでいる屋敷の場所を教えてください」
「え? や、屋敷なら、ここから東の丘を越えたところにありますが……決して近づいてはいけません。あそこの屋敷には、ディアナが手懐けている傭兵たちがおります」
老紳士は穏やかな表情から一変して、とても神妙な面持ちになった。
「傭兵……ですか。ご親切にありがとうございます」
エルドは老紳士に笑顔を見せて感謝を述べた。老紳士は今一つ心配が拭えない様子だったが、買い物の途中だったらしく、そのままエルドたちとは別れた。
老紳士と別れたエルドたちは、近くのベンチに腰掛けて、今後の方針を話し合うことにした。
しかし、先ほどの老紳士が語ったことからもわかるが、ディアナの屋敷へ向かうのであれば多少なりともリスクが生じる。何よりも、エリスがディアナの屋敷にいるという保証はない。
そうしたことを理解して皆が黙っている中、最初に口を開いたのはアリスだった。
「……ディアナの屋敷に行こう」
このアリスの発言に、エルドたちは特に驚かなかった。
「当然ね。D地区に来た子供たちのほとんどが、そのディアナって女の屋敷に連れて行かれているのなら、貴女の妹のエリスだって恐らくそこにいるでしょう。仮に居なかったとしても、何かしらの情報は手に入るでしょうしね」
「私も賛成です。エリスちゃんのことも気になりますし、連れて行かれた他の子供たちも心配です……」
ベリルとクレアはアリスに賛同した。それを見たエルドはベンチから腰を上げ、アリスたちに向き直った。
「よし。そうと決まれば早速ディアナの屋敷へ向かおうか」
エルドの言葉を受けてアリスたちもベンチから腰を上げて頷き、街で馬車を借りてからディアナの屋敷がある東へ向かうことにした。
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