潜入と応戦・上

 ロボットはこれからの時代、必要不可欠になっていくだろう。

 一つの家庭に一台のロボットが共存する…

 なんてことは流石にありえないだろうが…

 だが、ロボットやアンドロイドという物が当たり前になる世界。

 そんな時代が来ると私は思っている。


 ロボット学者、アーノルド氏へのインタビュー


 ********


 大樹防衛戦のち、一行は早めの夕食を取っていた。メニューはオムライスであったりする。

 ちなみにゼルレイシエルとリリアが行った作業は野菜などを切ることだけであり、金属回収から戻ったレオンにリリアが作業を押し付けた。

 レオンは憤慨しながらも引き継いで料理をし、完成させた。ゼルレイシエルは引き続き手伝おうとしたが、アリサに状況確認のために呼ばれたため、実質一人でレオンは作りあげた。


「あぁーくっそ疲れた……」


 オムライスの入った皿を膝の上に乗せながら項垂れる。レオン。


「ごめんって、レオン兄。ちょっと、マロンと話すことあったからさ」

「レオン、ごめんなさいね」

「8人もの料理を一人で作るとかどんだけキツイかわかるか……? そのうち、二人は大喰らいだしよ……」


 レオンはちらりとマオウとシャリ―を見ると、視線を手元のオムライスに戻して一口食べた。


「うーん……? なんとなくは分かるよ……? 私、八人家族だし。」

「八人……!? 多いな」

「おばあちゃん、おじいちゃん、おかあさん、おとうさん、お兄ちゃん、お姉ちゃん、妹二人。それに私で……あ、九人か」

「この御時世にそんな家庭もあったのか……」

「まぁ、うちの家は巨人の中でも特別体が丈夫な血族だからねぇ」


 そう言って再びオムライスを食べる。三口ほど、食べたところでふと、何かを思い出したように匙を置いた。


「そういえば、さっきのアリサ兄と、ゼルシエ姉の技凄かったよね。いつの間に練習してたの?」

「……なんでかしら……なんだか、まだ自分ならいける。って感じがしたのよね……」

「俺も俺も。なんでだろうな?」

「心の成長ってやつ?」

「……え?」

「この二人が同時に……? つーことは……」

「エルフの村の夜の……」


 八人がゆっくりと元となっていそうな出来事をたどっていく。そして、数日前の夜に起きた出来事が出てくると、ゼルレイシエルは顔を真っ赤にした。


「な、ななな…そ、そんな数日前のことなわけな、ないじゃない……! そ、それになんでわ、私がアリサとなんか……や、やめなさいよ! あ、ありえないわよ! というかな、なんでそんなこと知ってるのよ!!」

「そこまでボロクソ言う……? そりゃ、ゼルシエは俺のこと嫌いかもしれねえけどさ……とはいっても流石にひどくねえ……?」

「ご、ごめんなさい、アリサ。べ、別に悪気があったわけじゃ……」


 それを見たシャルロッテを除く五人は、あーこれは、あれだな。と揃ってゼルレイシエルの反応の原因を瞬時に見抜いた。


「なにやってのさ。虐めてるなら混ざるけど?」

「やめろ、ジシ・ボルテオ」

「わーったよ、頭のお固いアクア・エリアス殿〜」

「頭のお固いは余計だ」


 突如、そんな八人以外の声が聞こえてきた。八人が身構えて周囲を見回すと、ゼルレイシエルとアリサの前にそれぞれの武器がひとりでに現れた。そして、そこから水・電気が人型になったものが出ている。なのだが、白鐘の塔で見たものと比べるとひどく小さい。とはいえ電気の人型は地味に眩しいのだが。


「て、天使様……?」

「おう、その通り。心が成長したみたいだからな。……あー、飯食うのは止めろよ?」

「ジシ・ボルテオ……お前はこの子達が空腹でひもじい思いをしてる姿を見たいが為に、食事をするなと言ったな?」

「な、何の話だろうな?」

「……良い、食事をしながらでかまわない」


 六人はおずおずと食事を再開する。マオウとシャルロッテはその言葉を皮切りに思い切りがっついているが。


「天使様、質問があるのですが……」

「一ヶ月。のことだろう?」

「……はい」

「君達に祝福を預けたその日、黒堕の塔で反応があった。」

「黒堕の塔から“黒い目玉のような”の奇妙なものが出てきた。どうやら、お前らを探してたみたいだな……潰すために」


 八人の匙が再び止まる。


「その黒いものは一ヶ月もの間、中央大陸を飛び回ってた。だが、あれは白鐘の塔には近づけなかったんだ。そのために、あそこに居てもらっていたってわけだ。まぁ、修練の意味もあったけどよ……」

「返り討ちにすればよかったのでは……?」

「馬鹿もほどほどに言う事だな。この大陸中の黒花獣が襲ってくるかもしれないのに、今のお前達が生きていられると思うのか? イルミンスールを守ることさえできなかったお前達が?」

「っく……」


 図星をつかれたアリサは悔しそうに歯を重ねる。アクア・エリアスの言葉は冷酷に聞こえるほど落ち着いたものだったが、彼の性質としてはこれがデフォルトなのだ。聞いている方としては嫌な感じはするが。


「もう一つ忠告がある」

「なんですか?」

「お前達は近々、“角王かくおう”と会うことになるだろう」

「か、角王!?」


 見るからに動揺するアルマス。他の花の騎士達も驚いてはいるが、アルマスほど露骨な反応ではない。


「そうだ。角王はお前達を探し回っている。まぁ、それはまだ良いのだが……言いたいことは、“騎士王きしおうとは絶対に会うな”。少なくとも、機壊共の親玉を倒すまでは」


 その言葉にレオンが首を傾げる。


「なんでです? 同じ神獣の一柱ひとはしらなのに……」

「……前から思ってたんだけどよぉ……タメ口で良いぜ? かたっ苦しいしよ!」

「そうだな……戦いを任せてしまっているのだから、普段の口調で構わない。」

「し、しかし……」

「あーほらほら、そーゆう顔やめろって。英雄がそんな顔してたら世界の皆が不安になるぜ?」

「あ、あ~……ほ、ほっぺたが、び、びりびりしまふぅ……あ、あと、眩しいでふ……」


 スーッとジシ・ボルテオはマロンの目の前に移動すると、両手で左頬を引っ張る。元気付けるためなのだろうが、目の前に来てさらに明るさが増したのはジシ・ボルテオの嗜虐心によるものであろう。その後、アクア・エリアスが電気の天使を思い切り叩いたため、夕食の場に似つかわしくない興奮した声音が響く。


「え、えーと……そんで、何故騎士王には会ってはいけないんです?」


 微妙な空気になった食卓で、アリサが質問を続ける。


「騎士王はあまりにも愚直すぎる。確かに、お前達と比べればはるかに強いだろう。だが、騎士王の強さは愛する部下も居るからこそだ。お前達から何らかの情報を得れば、敵を倒すために軍を率いて行くだろう。確かに騎士王の部下達は精強だ。個々の練度も高い」


 一拍置き。


「だが、多くの者はやはりお前達の力には及ばない。だから、多くの者が死ぬ。そして、部下達が死ねば……騎士王は悲哀に暮れ、機壊の群れに特攻して死ぬ……ことは神獣の不死性によって無いが……養療の為に長い間に戦闘能力が大きく低下するのは明白だろう。騎士王が死ねば機壊達のボスを倒したとしても、パワーバランスの崩れた『星屑の降る丘』地方は戦乱に包まれる。この地方は騎士王という堤防で平和が保たれているのだからな」

「なるほど……確かに騎士王の逸話から考えるなら……あり得そうなことです……だな……」

「あぁ…だから戒跡紫炭かいせきしたんの街に行くのも、やめておくことだ」


 八人が思い浮かべるのは金色の鎧を纏った神獣の一柱。【星屑の降る丘】地方での最強戦力を保有する街を治める、“騎士王”アルフォンスである。

 盗賊軍団との一戦、侵略してきた海の向こうの勢力との戦いなど。多くの武勇伝があるが、確かにその中でもアクア・エリアスの語ったような、部下がいるからこそ。そのやうな逸話がちらほらと存在する。

 アリサ、アルマス、ゼルレイシエル、リリアの四人は納得したように頷く。それ以外の四人は頭を横に傾げているが。


「……すまねぇ、もう時間がねぇわ……他に質問が合ったら他のやつかまた降臨出来た時にな」

「すまない」


 天使達はそう言うと徐々にその形を失い、終いにはただ武器が残るだけであった。軽い沈黙が流れる。


「黒堕の塔……か……」


 マロンがポツリと呟いた言葉は夜の闇に溶け、無音へと変わった。しばらくして、場の空気を変えるようにマオウが提案をした。


「とりあえず、明日からの確認をしようぜ。アリサ、どこへ向かうんだ?」

「ん? ……あぁ、どうすっかな……データから読み取れたのはここから東北東だけど……ちょっと距離があるな。俺の村に一旦帰るか?」

「帰った方が近いの?」


 もぐもぐと口に食べ物を入れながら質問するシャルロッテに、ゼルレイシエルの軽い拳骨が入る。


「いや、ここから行ったほうが近いけどよ……疲れてんじゃねぇかと思ってさ」

「帰るのでまた疲れるから直行で良いと思うぞ」

「アルマスの意見に同じー」


 リリアがアルマスの意見に同意を示すと、他の五人も頷いた。


「了解。じゃあ、移動ルート練らないとな……ゼルシエ、食事終わったらで良いから意見聞かせてくれ」

「わかったわ」


 そんな二人の会話を見ていたリリアとマロンの二人は、


「……応援、してあげないとね」

「そうですね」


 などと、小さな声で会話をしていた。

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