潜入と応戦・中

 まばらに木が生えた林の中に八人はいた。散らばってキョロキョロと辺りを探っている。探すことに飽きたのか、シャルロッテが大声で叫んだ。


「ねぇー! 本当にここであってるのー!!」


 その声を聞き取ったアリサがパソコンを取り出して再び座標を確認する。

 一致。ある程度こういったものの知識がある者ならば、皆が縦に頭を振って答えるであろう。


「合ってる! すまんが、もうちょっと探してみてくれ!」


 シャルロッテはその言葉を聞いて飽きたのに……と、頬を膨らませる。

 ふと、自身の足に巻いたリボンを思い出す。これを外せば、しっかり探せるようになるのでは無いかと。


「……ううん、やっぱりやめとこ」


 彼女は雑念を振り払うように頬を叩くと、木の幹の上にある自分の足に力を込める。


「ピョン! ……ピョン! ……ピョンと!」


 まるで軽業師の如き動きで木から木へと飛び移るシャルロッテ。いや、木の幹という形も大きさもまばらな物を飛び移っているのだから曲芸師の動きも凌駕しているかもしれない。

 再び止まると、辺りを見回す。何もおかしなところは見られない。そこに、アルマスが同じように木々を飛び移って、シャルロッテの居る木の下部の幹に座る。


「見つけたか?」

「ううん。なーんにもない」

「そうか……となると……地中か……? それとも罠……?」

「わかんない」


 そう二人が話をしていると、遠くから「何かの建物を見つけましたー」というマロンの声。


「……行ってみるか」


 ☆


 マロンが見つけた建物は随分とボロボロな小屋であった。木で出来た壁や戸口は朽ち、強風が吹けばすぐに倒れそうである。


「うっわー……なにこれ……物置小屋とか?」

「そうだな……大きさ的に」

「汚いんだけど……なんか虫とか多そう……」


 リリアは嫌そうに男性陣を見る。捜索は任せたということだろう。他の女性陣も一様に頷く。


「……マジで? いや、そんな虫嫌なら仕方ないし、良いけどよ……」


 ここですぐに了承するあたり、流石イケメンのアルマスと言える。


「……お願い。あと、探した後もあんまり近づかないでくれると嬉しい……かな……」


 なお女性陣は非情であった。


「その前に、マロン。地中を調べたり出来ねえか?大地花の力で」

「うーん……ごめんなさい、出来ないです……」

「いや、良いんだ。すまん」

「たぶん、それなら俺が出来る。……あいつらが来ればの話だけど……」


 名乗り出たのはアリサであった。アリサは片膝をつき、両手を地面に当てると怪しい言葉を連ね始めた。


「あいつらって?」

「……大地に遊ぶ小さき老子(ろうし)よ。我の頼みに応じ姿を現したまえ」


 アリサがそう唱えると、地面に亀裂のような物が入りそこから小さな手が出てきた。そして、その手の主が姿を現す。

 小さな老人である。


「ノーム、来てくれたか。……この地中を調べたいんだが……手を貸してくれるか?」

「……」


 こくりと、ノームは頷く。そして右手を伸ばすとアリサの額に当てる。そして、右足で足踏みを一回。アリサは耳を澄ますように目を瞑る。七人はジッとアリサを見つめる。


「……わかった。ノーム、ありがとな。帰っていいぞ。おう、今度お礼にスコップ買ってやるから、ありがとなー」

「……」


 ノームは小さく頷くと、亀裂に飛び込んだ。亀裂は小さくなっていき、やがて消えた。

 アリサは立ち上がる。


「地中に大きな空間があるな……詳しいことはわからねぇけど……ってどうした?」


 七人の自分を見る目がおかしい。と、アリサは思った。ゼルレイシエルが口を開く。


「アリサ……? 大丈夫?一人でぶつぶつ喋って…」

「は?」

「アリサのことだからどっかに頭でもぶつけたんじゃない?」

「俺、どう思われてんの? じゃなくて、ノームだって。土精霊のノーム!」

「本格的にどうにかなったみたいだな……」

「……もしかして、お前ら見えて無かった…?」

「あぁ、アリサがブツクサ独りごと言ってるようにしか見えなかったぞ」


「マジかよ……」と、アリサは頭を押さえる。


「……まぁいいや。そこの小屋、床のとこに地下の入口があるぞ」

「本当か? つっても……いろいろ、廃材とか多いから見つけにくいし……崩れるかもな」

「俺に任せろ」


 そういうと、マオウは小屋の入口に立った。小屋の中に手をかざすと、手から黄緑色の気体を出す。


「……塩素?」

「あぁ。塩素は空気よりも比重が重い。空気の出入りする入口なら……塩素が吸い込まれていくんじゃねぇかと思ってな」


 黄緑色の気体はある地点に収束していった。マオウはその上にある木材をどかしはじめる。

 虫や爬虫類がワッとその姿を現す。蜘蛛が壁を登り、ヤモリが地を這う。一匹のヤモリが女性陣の方へ向かっていき、シャルロッテ以外の三人が悲鳴を上げた。


「うるせぇな……」


 レオンがそう呟くと、三人の乙女からブーイングの嵐を受ける。


「あ?」

「おい、マオウそれって毒蛇……!」


 マオウの指に蛇が噛みついていた。オニトラモンヨウヘビと呼ばれる猛毒を持つ蛇である。噛まれれば意識不明となり、悪ければ死に至るというものである。毒蛇について知識の無い六人は首を傾げたが、アルマスは多いに慌てた。


「……」


 マオウはヘビの首を掴むと、力を入れて握力で首を切断する。そして、ヘビの頭を外すと、牙をへし折って食べた。


「……はぁ!? マオウさん、何やってるんですか!」


 流石に牙に毒があることくらいは知っているため、七人は一斉に動揺の声をあげる。


「……るっせぇな。毒龍は体内で抗体を作れんだよ。その為に牙を食ったんだっつの……毒龍が毒で死ぬわきゃねぇだろうが」

「そ、そうなの……?」


 そして、再びマオウが作業を開始する。アルマスやアリサが手伝おうとしたとき、マオウが入口らしき物を見つけた。


「な? あっただろ?」

「そうだな……すまん」


 レオンが穴に近づいて金属の塊を落とす。時間からしてそれなりに深いようだ。中は暗いために見ることが出来ない。


「何があるかわかんねぇからな。良く準備をしてから行こう」

「おう」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇


 地下は何かのアジト……のようであった。金属の壁に金属の床。一行はそんな通路をただ進む。リリアとアリサが手に火と電気と出して辺りを明るくさせる。


「ちょっと待て……リリア、ちょっと火借りるぞ」


 アルマスが角で立ち止まる。そして、木の枝を作り出すとその枝に火を灯した。数は二本。まず、一本を前方に投げる。


「異常なし」


 今度は角から身を乗り出して奥へと投げる。


 ダダダダダダダダダダダダ……ズドン


 木の枝の通った場所に左右から無数の銃撃。その後、天井が落ちてきた。アルマスが仲間を見渡すと軽く顔が青くなっている。


「は、はは……どんだけ殺す気マンマンだよ……洒落になってねぇわ……」

「そりゃあ、敵の拠点みたいなもんだからな……」


 八人は気を取り直し、前へと進む。


 モーションセンサーによって落下してくる天井は物を投げて発動させて無力化し、巡回する機壊は背後から破壊。定期的に槍の飛び出す床は鋼で蓋を。


「つ、疲れるわね……」

「そうだよなぁ……どこまで続いてんだ……?」

「さっき、ノームで調べたらもう少し先に一番大きな空間があったな……でもおかしいな……道中に大きい部屋があったはずなんだが……」


 安全を確保した場所で休憩を取る八人。ずっと緊張していたためか異様に疲れているようだ。各々、水分を補給したり軽食をとったりなどして休憩している。


「ふぁほ、ほふぇふらひ?」

「あと、どれくらい? だってさ。……いや、だからもう少しだっての……」

「あーふぉっふぁー」

「食いながらしゃべるな、行儀わりぃ」

「ふっはい!」

「なんて?」

「漫才してなくていいから行こうよ。夜になっちゃう」


 八人は休憩を終えると、再び歩きだす。わずかな罠の解除をしながら進み、一行は金属製の扉の前に来た。


「確か……この奥の辺りだな大きい空間は」

「いよいよですか……」

「まぁ何がいるかわからないからね…なんとも言えないなぁ……」

「そりゃそうだ」

「……準備は良い?」


 ゼルレイシエルの言葉に皆が頷く。そして、重い扉を開けた。

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