花の騎士は降臨せし
「いやー……やるねぇ……」
「いや、その姿で喋んないでくださいよ。マジでブっキミーなんですって」
真面目な口調でふざけたことを言い、アリサは一人で大笑いしていた。天使は上半身と下半身に別れているため、形がリアルだったらさぞ怖いであろう。
「ホカのヤツらもカったみたいだな」
“電気と悦楽のジシ・ボルテオ”がそう呟くと周りを囲んでいた壁が床に引っ込んでいく。
「リキリョウはジュウブンだな」
「そのようだ」
金属の天使は同意を求めるように言うと、それに答えるように流暢な声が聞こえた。その声を聞いた雷の天使は慌てて体をくっつける。そして、八体の天使は広間奥の二体の台座の方を向いて跪いた。八人は突然のことに驚く。
「な、なんで天使が跪く……そうか、神様!!」
リリアの答えに八人も天使達と同じ向きに慌てて跪く。そして、彼らが跪いた直後、台座の間に光が現れ、溢れだした。光はやがて形を変え、白い人型のものが現れた。
「別に跪かなくとも良い。花の騎士達よ。顔を上げてくれ」
八人は頭を上げた。花の騎士である為か、はたまた天使を見たためか、神を見てもあまり動揺は見られない。
神は花の騎士達を順に見渡しながら言った。
「……世の理を追い求める探究心深き魔法使い族の娘、マロン・ホープよ。そなたには“大地花(だいちか)”の祝福を受ける」
「私が、大地花……」
「夜の静寂に身を委ねる気高きヴァンパイア族の娘、ゼルレイシエル・Q・ヴァルキュリアよ。そなたには “水氷花(すいひょうか)”の祝福を授ける。」
「……ありがとうございます」
「森樹林を駆ける勇猛な一族、人狼族のアルマス・レイグルよ。そなたはその気高き獣の血により、“樹草花(じゅそうか)”の祝福を授ける。」
「樹草花、ですか。ありがとうございます」
「悠久の時を生きる至高の種族、古龍族のマオウ・ラグナロクよ。そなたには“煙毒花(えんどくか)”の祝福を授ける。」
「ほぅ? いや、有り難い」
「剛力と巨体を生かし大地に生きる巨人族の娘、リリア・トールよ。そなたには“獄炎花(ごくえんか)”の祝福を授ける。」
「……」
「小さな羽で世を渡り自由を守護する種族、妖精族のシャルロッテ…フロルよ。そなたには“烈風花(れっぷうか)”の祝福を授ける。」
「…………感謝いたします」
「その技を磨き物を作り続けるドワーフ族の息子、レオン・オルギアよ。そなたには“金鋼花(きんこうか)”の祝福を授ける。」
「金属ね……」
「世界と調和し精霊と共に生きるエルフ族の息子、アリサ・ルシュエールよ。そなたには“閃雷花(せんらいか)”の祝福を授ける。」
「ははっ、真にありがたき幸せ!!」
神はうなずいた。すると八人の元に、授けられる祝福の花の天使が向かっていった。
八体の天使は八人に向かって手をかざした。それぞれの手が握られる。そして天使達が手から光を放った。赤、青、黄、銀、緑、紫、空、茶。光は手をかざした花の騎士に向かっていき体に宿っていく。
光が収まると神が喋った。
「これで、祝福は完了した」
「祝福って……何も変わって無いように思うんですけどー!」
シャルロッテが神に意見する。すると、風の天使が代弁する。
「とりあえず、これから私が言うことをイメージしてみたまえ!」
八人は驚愕した。今まで棒読みだった声が急に流暢になったからだ。依然、中性的な声ではあるが。
「まず、指を一本たてたまえ。そしてその後、自身が授けられた花の属性を思い浮かべるのだ。…閃雷花(せんらいか)は指を二本たてた方が良いだろう。金鋼花(きんこうか)、水氷花(すいひょうか)は指を下げた方が良いかもしれんな。」
マロンは大地花の属性として、目を閉じて砂を思い浮かべた。すると、手に違和感がある。
「え? え、え?」
彼女の手に砂が乗っかっていた。他の七人は指先から火や水やそよ風が出たり、植物が生えてきたり、煙がもくもくと出てきたり、指の間に電気がバチバチなっていたり、金属が床に落下してカキンカキンと音をたてたりしている。
「あ、あっつい! あっついあつ……熱く……ない……?」
「そりゃそうよ。貴女の体から出してるんだから」
「わ、私たちの体から…!? じゃ、じゃあ出し続けたら死ぬとかですか!?」
その心配そうなリリアの声に水の天使が答える。
「……いや、死ぬことは無い。例えば君であれば、火を吸収して自分の中にストック出来る。そして、それを引き出して使っているわけだ」
「魔法……じゃないんですか?」
マロンがキョトンとした表情で、おずおずと尋ねた。
「魔法はマナを使って虚像と結果を生みだすものだから根本的に違う。我らの祝福……【花祝(かしゅく)】の力は、言うなれば万物を使役する力だからな!」
「私達が流暢に喋れるようになったのは、あなた達を媒介として降臨したからよ」
それに神が補足する。
「その能力は、心の成長と共に自由に扱えるようになっていく。初めは簡単なことしか出来ない。と言うわけで我らの中性的な声になっているんだ。……それと、武器か」
神は右手を左から右へ薙いだ。手から、八つの光球が飛び八人の前で止まる。すると、光球の中から金属の塊が落ちてきた。
「え? な、なんで金属の塊?」
「それぞれ目の前の金属に触れてみたまえ」
八人が触れると金属はグニャグニャと動きだし、形を変え、それぞれの武器の形になった。
「“神聖銀(ミスティリシス)”。天使達が八つの属性を注ぎ込んで作った金属だ。その金属は所有者の望む形に姿を変える。では、武器が手から消えることをイメージしながら、戻れ。とでも言ってみてくれ」
八人が言われた通りにすると、手の中から武器が消えた。
「消えた……どこに行ったんですか?」
「次は逆に、武器が手元に現れることをイメージしながら、来い。と、言ってみなさい」
すると、今度は手元に武器が現れた。
「……リリア・トール。君は、二刀流の他にも大剣で戦うことが出来ただろう?」
「はい。そうですが……」
「二つの剣を重ね合わせて、大きな剣を自分が持っているイメージをしてくれ」
二本あった剣が合体し、一つの大きな剣になる。似たようなことが起きているためか八人はあまり驚いていないようである。
「武器の形をいちいちイメージして戦うのは命取りになるだろう。一度イメージしたものは神聖銀(ミスティリシス)が記憶するから形の名前を唱えれば即座にその形になるだろう」
「……主上」
「そうだな。花の騎士達よ。聞いて欲しい」
「その前に質問良いですか。神様」
レオンが神に向かって言った。
「この塔に入ってくる前から気になってたんだが、…破邪の騎士はどこにいるんです?」
「……そのことについて話そうと思っていた。君達はもう既に会っているよ、破邪の騎士と」
「会っている……もしかして……旅人?」
ゼルレイシエルの言葉に、神はゆっくりと頷いた。
「そう、彼女こそ破邪の騎士だ」
「だったら、何故ここにいないんですか?」
「……彼女と私は、強くなった“黒妖花(こくようか)”を弱体化させる為に戦い、負けた。そして、多くの力を取られてしまった。」
「……な!?」
八人は愕然とした。今まで聞いたことも無い話だったからだ。
「私達は負け、今はほぼ無力だ。今まで黒花獣の力が発達してこなかったのは天使達のおかげだ。…彼女がこの中に入っても邪魔になるだけだろう」
「……どうしろってんだよ」
「黒妖花(こくようか)は奪った力を黒花獣達を生み出し強化するのに使ったのだ。そなた達には黒花獣達の親玉の破壊・討伐を頼みたい。……虫のいい話だとは分かっている」
「親玉……そんなのがいたのか……」
八人は無言になった。それもそうだろう。信奉していた者が負け、さらには力を奪われたというのだから。自分達が勝てるのか、神が負けたから世の中が黒花獣によって脅かされているのでは無いか。
重い空気が流れる。天使達と神は無言で言葉を待つ。
一時間にも感じる時間が経ち、シャルロッテが勢いよく立ち上がった。
「もう良いよ! めんどくさい!! 考えたってなんも進まないんだし! 私は戦って壊せればそれでいいんだ!!」
シャルロッテの言葉を聞いた七人はハッとして立ち上がった。
「そうだな……俺たちは世界を救うためにここに来たんだよな。別に、うじうじ悩む必要も、無いんだもんな」
八人はまっすぐに神と天使達を見る。そして宣誓した。
「わかりました。俺たち花の騎士は、神の意志に従い黒花獣と戦います! 世界を救う為に!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます