天使の試練

 七番目に銀色の種の花が咲いた。その花は理性を持つ生き物に金属の知識と貨幣の概念を授けた。

 八番目に黄色の種の花が咲いた。その花は雷を落とし動物達に花々への畏怖と尊敬を与えた。


 黒き花は大きくなっていた。その地は不幸にまみれ幸福とは程遠くなっていた。

 白き花は混沌としたその地に葉を落としその葉を食んだ動物達に生き物をまとめる力を授けた。

 白き花の葉を食んだ動物達は神獣と呼ばれた。神獣達は混沌を治め世に平静をもたらした。


             創世記第一章より


 ********


 閃光が収まり、広間に先ほどまでの暗さが戻った。

 八人は突然の閃光に視力が弱くなっていた。彼らが石造の影に隠れて視力の回復を図っていると背後から声のような音が聞こえた。


「ナゼ、カクれるんだ?センシさんタチよぉ」


とても中性的な声だ。そして、それに続く声も、


「タタカいにイきてきたモノタチのシュウセイだろう。スコしはカンガえてはハツゲンしたらどうだ。」

「ワカったっての。うるさい。」


 やはり中性的な声であった。心なしか聞き取りにくく、棒読みのようにも聞こえる。

 種族的に光というものに比較的強いアリサが視力を回復させ石造の影から広間を覗くと、広間に八体の人影を見つけた。

 燃え盛る火に包まれた、いや、火が人の形をしている。砂が人の形をしている。

 他にもそんな感じのものが六体。


 その八体の人影を見たアリサの脳内には当てはまる存在があった。


「天使……?」


「そのトオりー。さすがサイネンチョウのセンシー」


 寝そべる砂の人型が、拍手のようなジェスチャーをした。ただカチカチと小石がぶつかる音がするだけだが。


「まだセイチョウしていないカレラのチカラではシカタノのないことですよ」

「ぼ、ボクはこのままでもイいよ。どうせ、ボクのスガタなんかミてもナンにもイいことなんてナいんだから……」

「ナニヨワキなこといってるんだ! メメしいからやめたまえ! キミもスバらしいソンザイだろう!?」


 白や黄色の煙の人型が呟く。かなりのネガティブ思考である。そしてその後に空間が歪んで人型のものが見える場所からたしなめる声が聞こえる。ちょうどその頃にはアリサ以外の他の戦士達も視力を回復させ、目の前の物体達に驚いていた。


「て、天使…? っていうことはあのピカピカ光ってるやつが“電気と悦楽のジシ・ボルテオ”……?」


「ゴメイトウ。そのトオりだ。しっかしまぁ、ワラえたぜオマエさんタチがゴーレムからニげるスガタは。やっぱりロア・ロックスにタノんでセイカイだったな」

「……え?あれって悪戯だったんですか?」

「そうそう。どんだけ慌てるか見たかったからさ」


 たちの悪い台詞を吐くと、電気の人型は腹を抱えて笑うようなジェスチャーをした。いや、聞こえてくる笑い声と動きが完全に合致しているため、本当に笑っているのだろう。言うまでも無く八人は猛烈な怒りを持った。


「うっるさい!!」


 と、火の人型が笑う人型の傍に行き、その腹を蹴り上げた。天井に当たって弾かれ、床に叩きつけられる。八人はそれを見て怒りが霧散した。だが、


「あぁー。もっと! もっとケってーー!」


 電気の人型が棒読みで叫ぶ。その台詞を聞いた戦士たち八人と七体の人型は、思い思いに「うわぁ……」や「キモ……」などと呟きながら後ずさった。畏怖や怒りよりも、生理的な畏怖感が勝つほどであった。


「……ま、こんなキモいヤツはホオっておいて、なんでおめぇらのマエにワタシタチがイるのかわかるか?」


 金属光沢を放つ人型が語りかける。


「力を授ける為……じゃないのですか?」

「サズけるだけならコウリンするヒツヨウもナイ。リユウはオマエタチのリキリョウをハカるタメだ」


 水の人型が答える。


「力量を測るですって? 何をするって言うんですか」


 レオンが気怠そうかつ、自分なりに丁寧に質問する。


「そいつはカンタンー。ワタシタチとタタカってカつだけー」


 仰向け(?)に寝転がる土の人型が指ぱっちんのような動作をした。すると、広間の床から壁が生えてきた。広間を十等分する壁。中央奥の二つの台座と出口を塞ぎ、そして八つの石造を囲うように生える。戦士達はバラバラになった。


 ◆◇◆◇


 狼の石造の間。


「……っ!!」


 アルマスは構えをとった。アルマスと相対するのは木の人型。


「こんなことはやりたくないのですが、シュジョウサマのメイレイならシカタナいですよね」


 そう呟きながら木の人型は佇む。


 ☆


「あぁ……もうイヤだなぁ……テカゲンしてくれるよね?」


 マオウと対峙するのはマオウの背丈以上はあろうかという煙でできたハルバードを片手で持つ小柄な人型。


「……っけ。上等だよ全力で潰してやる!!」


 ☆


 シャルロッテは獲物を構えた。目の前にいるのは透明な人型。


「ねぇねぇ!早く戦(や)ろうよ!」

「イいだろう、さぁかかってキたまえ!!」


 ☆


「……私の相手は“水氷と冷静のアクア・エリアス”ね」

「そのトオりだ。ヴァンパイアのムスメよ。……さて、タタカうとするか」


二者はそれぞれの得物を構えた。


 ☆


“電気と悦楽のジシ・ボルテオ”と戦うのはアリサ。


「カタナとかツカわねぇけど…まあイいやかかってコいよ。ハジさらしてやる」


「ですけど…俺が刀で斬ったら感電するでしょう。不公平じゃないですか」

「あ?そのへんはシンパイするな。そんなことにはならねぇ。オレらのカラダがジッタイカするカわりにそのヘンのコウカはナくなってる…タンジュンにフツウのタイジンセンとオナじだ」

「それを聞いて安心しました」


アリサは不敵に笑う。そして、刀を正眼に構えた。


「くっくっく…おもしれぇな。じゃあ、イくぞ!!」


 雷気の天使は思い切り床を蹴り、高速の突きを繰り出す。二者の間には10mほどの距離はあったがその差を一瞬で詰めたのだから、どれだけ早いかわかるだろう。

 実体化した電気の刀の先はアリサの胸に吸い込まれる。…が、アリサは少しばかり体を右にずらし、自身の刀の腹と相手の刀の腹を合わせ滑らせる、そして刃を突っ込んでくる相手に向けた。そのまま進めば頭から斬れるだろう。


「うわっ! あっぶねぇな!」


 雷気の天使は勢いを殺すために足を前に向けて踏ん張った。が、簡単に止まるわけも無い。雷気の天使は体でバランスを取ることを止め、後ろの方に倒れる。そのままスライディングの姿勢になり伸ばされた脚の先には、アリサの左足。


「……っふん!!」


 アリサは右足で突っ込んでくる天使の足に蹴りを入れ、軌道を逸らす。


「ぬぐ……」


 天使は弁慶を蹴飛ばされたためか苦痛のうめき声をだす。しかしやっと勢いは無くなったため、振り下ろされるアリサの刀を弾き返した後に痛みをこらえながら跳ね起きる。

 天使は起きたあと、後ろに飛んでアリサから距離を取った。痛そうに弁慶をさすったあと、アリサの方に顔を向けた。


「……おマエ、ホンキじゃねぇだろ」

「そういう、天使様もそうではないですかねぇ」

「はっ! ちげぇねぇ」


 天使は再び接近しアリサ達は肉迫した。それぞれの得物がぶつかりあう。


 一合、二合、三合。


 ぶつかるたびに電撃が文字通りに飛び散る。

アリサが右から横に薙ぐと、天使が受け止め、押し返した後に反撃する。が、アリサがその攻撃を防ぎ反撃し返す。

 幾度も幾度も電気が飛び散る。素人目には互角の戦いに見えるが、ある程度の力量のある戦士はこう答えるだろう。アリサが押していると。

 実際に攻撃に転じることが多いのはアリサである。


「……やはり、天使様は刀術を使ったことがありませんよね。動きがぎこちないですからっ!!」


 アリサが叫びながら左下より斬り上げる。天使はそれを防ごうとした。しかし、達人の域に達しているアリサはそんなガードを技術によって突破。つまり弾き、返す太刀で天使を両断した。

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