第35話 悪魔のハンマー
真紅のディキマは追撃の手を緩めない。
パースを背負うように降ると、宙に持ち上げられた雑居ビルは真横に倒れ浮遊、ディキマをかすめると風圧で赤く輝く髪をなびかせた。
まるで空中をかき分けて進む、戦艦のようだった。
巨大な凶器は飢えた獣のように、執拗に追いかけて来る。
2棟の赤茶けた高層マンションの間に入り込み抜けた。
その際、モルタは両手を開けたかったに違いない。
そうなれば、今抱えている
「投げるなよぉぉおおお!?」
少年クロトを、乱暴に澄み渡る大虚へとほおると、両手の空いたモルタは腕を広げパースを掴む。
パースを掴んだまま腕を胸の前で交差させた。
それに連なり2棟の高層マンションは屋上から互いに向かうようにお辞儀をし始めた。
折れた曲面から、住人や部屋の家具家電が、地上約100メートルから投げ出れ、雨あられのごとく落ちて行き、合唱すかのように絶叫が合わさる。
外装を歪ませ湾曲する2棟のマンションは、モルタの前を塞ぐと、突っ込んで来る馬鹿でかい凶器を防ぐ。
凶器は除夜の鐘をつくように衝突した。
建造物同士のぶつかり合いにより、コンクリートは崩れ、鉄筋がひしめく振動は、地面に伝わり激しく揺らした。
行く手を塞がれたコンクリートの塊は、そのまま落下。
地上の青い建物を押しつぶし、木っ端微塵にする。
舞い上がる粉塵は登り龍のように、あっという間に高層マンションの高さまで達し、空を覆うのだった。
蒼天のモルタが線による拘束を解くと、ガードに使われた2棟のマンションは元に戻りそびえ立つ。
が、上部は防いだ時の衝撃に耐えきれず、亀裂が水平に駆け抜ける。
対面するマンションは3分の2を残して頭が崩れ、崩れた上部は互いにぶつかり、交わるように砕け真っ逆さまに落ち、粉塵の中へ消えると、地上の粉塵は波紋のように拡散し街を飲みこむ。
モルタは空の大海に放おった、クロトのことを忘れてはいなかった。
彼女が身体の向きを変え、クロトとの距離を縮めるて落ちてくる彼をキャッチしようと、手を差し出す。
だが、まちに待った瞬間は唐突におとずれる。
打つ手打つ手を、ことごとくかわされた真紅のディキマは発狂。
その顔に、女神を思わせる美しさなど、微塵も感じられなかった。
おそらく彼女の中でも、次の攻撃は最大にして最狂に違いない。
その証拠に、ディキマの赤く輝く前髪を、かき分けるように、額から金色の線が頭上に放たれた。
"生命線"の発現だった――――――――。
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