第34話 ルージュ・ドラゴン。悪しき真紅の龍
マンションの高層階に住む主婦は、夫と10歳の長男をおくり出すと、掃除、洗濯のお祭り騒ぎ。
家事の間も、3歳になり走り回る次男から目が離せない。
食器を洗っていると、次男は窓の外を指し大はしゃぎしていた。
「マァマァー。お空に妖精さんだよぉー!」
「はーぁい。妖精さんがいたねー」
二児の母ともなれば、子供の
洗っている食器から目を離さず、声だけであやす。
次男の無邪気な声だけで、何をしているかは大抵解る。
「こんにちはぁー! こんにちはぁー!」
「ちゃんと挨拶出来ましたねー」
だが、この日は全く予測が付かなかった。
主婦は洗い物が終わり、タオルで手の水っ気を払うと、次男の元へ足を運ぶ。
彼女は幼き次男が、何に対してお辞儀したのかをしると、短く悲鳴を上げる。
「きゃぁ!? 人が……浮いてる……」
直後、主婦のいる部屋全体が揺れ、壁際の家具が倒れ始めた。
何が起きたのか、主婦が知ることのないまま、床が滑り台のように傾き、主婦と次男は窓に押し付けられ身動きが取れなくなる。
ぶつかった衝撃で次男が泣き叫ぶと、主婦はそれを気にする間もなく、家具が一斉に襲って来た。
✡✡✡✡
赤い髪をなびかせる妖魔の次なる手は、30階建ての高層マンションをパース線で持ち上げること。
ロケットのように街のから浮く、1棟のマンションは、神話に出てくる神が住む塔のような光景だった。
クロトは唖然としつつも、なおも語る口をやめられない。
「でかい……でかいマンションが浮いてる……何んだよアレ? どうするんだよ……」
これだけ異様な景色には、不吉な予感しかしない。
ディキマは砲丸投げのように、パース線を振り回すと、捕縛された高層マンションは、その動きに合わせて移動する。
マンションは屋上から徐々に倒れて行き、真横に倒れたまま浮遊。
これだけの建造物が傾けば、室内にいた住人はふるいにかけられた粉のように、パラパラと落ちて行く。
住人をふるい落とすと、マンションは迫りくる。
やはり高層マンションともなれば桁違い。
まるで野球ボールの視点から、バットのクリーンヒットを待っている気分になった。
モルタが身体を見る返し、マンションの外壁を乗り越えようとするが、やはり巨大すぎる。
避けきれず壁がみるみると迫って来た。
「モル、タァ!?」
彼女は避けられないと踏み、肩に担いだクロトを胸に抱きよせて、大きな壁に背を向けてかばう。
壁に当たると、モルタの背で受け衝撃が、彼女の肉体を通してクロトに伝わる。
普通の人間なら間違いなく絶命するダメージだ。
それでもクロトは、彼女にしがみつくことしか出来ない。
蒼天の乙女は少年をかばったまま、マンションの壁を転がり続け、角まで来ると空へと投げ出された。
モルタはクロトを抱えたまま、片手をかざすと数百メートル先へ線を放ち、その線を伝い移動することで高層マンションの攻撃から逃れようとする。
三鷹駅を過ぎると、北口にある2棟の赤茶けた高層マンションへ、避難を試みる。
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