第25話 神様、地球1周旅行

 夜が明け、辺りが朝日に照らされると、幹や根の顔が見えてくる。


 言葉だけで貫禄をかもし出す、少女のワンピースは、自然とお色直しをする。

 紺色に散りばめられたラメから、次第に透き通るようなスカイブルーに変化していた。


 彼女のワンピースだけ見ると、海外旅行で人気の、ウユニ塩湖を彷彿とさせる、霞がかった青空が映り、彩雲により拡散した虹が部分的に見える。


 間近で、その様子を観察していたクロトは、聞かずにはいられない、


「モルタ? 服の色が」


 彼女は目を落として答える。


「これか? 天を引き剥がして作られた服じゃ。日が登れば、色も変わる」


「そ、そういうものなんだ」


 もう、非日常の出来事が渋滞して、驚くのも疲れてきた。


 夏の生暖かい風が、木々を揺らしながら潜り抜けると、モルタの長い黒髪がなびく。

 その髪は、陽の光りを水面のように、キラキラと反射した。


 古代人は異能の力を持つ彼女を、女神と呼んでたらしいけど、それだけが理由ではない気がする。


 凛とした立ち振る舞いは、あらゆる厄災を、跳ね除けてくれそうな勇ましさだ。


 神秘的な美しさは禁忌とも言える。


 モルタは頭上を見上げて、肌で風を受け取めると、心地良さそうに口を緩ませた。


 ここまで来て、蝋人形のような表情に、人間味が垣間見える。

 

 人類よりも長い時を過ごした女神は、懐かしむように当たりを見た。


「この辺りも、全て田んぼであった。この公園も元は川だったが…………のう? 主。この戦いが終わったら、ワシに主の現世を案内してくれぬか?」


 クロトは苦笑しながら返す。


「それ、死亡フラグだよね?」


「何じゃ? その死亡ふらぁぐぅとは?」


「女神でも解らなくことがあるんだね」


 少年がからかうように笑うと、モルタは不服そうに顔をしかめた。


 一時の安心を得ても、やはり懸念は掴まとう。

 クロトは腹を据えて、モルタに聞いた。


「モルタ…………僕達、いつまで隠れてればいいんだよ?」


「隠れるとな?」


 あっけらかんとした彼女は、何の悪意も無く答える。


「ディキマは主の居場所なんぞ、とうに知っておる」


「は?」少年は目をしばたいた


「ワシらドミネーターは、現世に生きる人々のパースが見えておる。ディキマもワシも、主のパースを手繰って来たのじゃ」


「地球に住む、何十億人もの人間の中から、僕のパースを見つけたっていうの?」


「ワシもディキマも主の現世を見て回った」


 言葉の意味が理解出来ない、クロトを置いて、モルタは話を進める。


「この世界の外で、天上まで延びる、主のパースを見つけた」 

 

 毎回解りづらい言葉で返して来る。

 モルタが答える度に、クロトは脳内で連想ゲームを繰り返す。

 

「外? 現世の外……人間の外の世界……地球の外? もしかして……宇宙にから僕を見つけたの?」


「うむ」


「最初から、そう言ってよ? じゃぁ、地球を1周したってこと?」


「外の世界には、身体を縛るパースが無い。縦横無尽じゃ」


「そ、それで見つかるの?」


「ノーナの生まれ変わりである主のパースは、その他の人よりも強く、隠しようがないゆえ、天上まで伸びでおる」


「宇宙の方が、むしろ見つけやすいってこと?」


「さよう。主も段々、飲み込めて来たな」


 褒められても、あまり嬉しくない。

 神様に質問すると、答えと疑問が同時に返ってきて、疲れる。


 クロトは付け足す。


「待ってよ。じゃぁ、君は何の為に、駅から離れた公園に来たんだ?」


「ワシは現世に来たばかりで、力が充分に発揮出来ん。奴と距離を取り、力を回復させる為の備え、言わば持久戦じゃ」


「そんなぁ!?」

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