第16話 蒼天の乙女・モルタ

 男のクロトよりも、華奢な身体の美少女に抱えられ、天高く舞い上がると街を一望出来た。


 今は地上よりも、満天の輝く星の方が近い気がする。


 洪水で飲まれた街は、煙で覆われたことで、街明かりが消えポッカリと穴が空いたように見えた。


 青髪の少女は、クロトを抱える腕とは逆の腕を上げて、何本もの光の線を掴んでいる。

 

 線の先に繋がっているのは、更に上空を飛ぶジャンボジェット機。

 鳥の大きさくらいのシルエットとなった、ジャンボ機を考えれば、高度はさして高くない。


 少女はジャンボ機のパース線にぶら下がり、青髪を突風に馴染ませ、夜空の輝きと区別がつかないワンピースのスカートをなびかせた。


 しばらく線に揺られると、急降下。

 内臓にまで空気圧が伝わる感覚を覚え、吐き気がする。


 圧が弱まると、静かに着地。

 少女に抱えられたまま、クロトは辺りを見回すと、太い幹に囲まれたとある一画。

 ベンチや滑り台があること考えれば、どこかの公園に降り立った。


 抱えられた彼は、その場に雑に落とされる。

 

「ぐえ!? 痛い……」


 腰を摩りながら、少女へ目を向ける。


 背を向け、単線で模した地平線の髪が、風と共に崩れ見え隠れすると、鬼火のように青く燃えるような髪は、次第に光を失って行き、青から黒に染まった。

 黒髪をひるがえし、こちらへ視線を合わせる。


 雲が風で流され、綺麗な満月が現れると、改めてその美しき美貌が照らされた。


 月光に浮かび上がる少女は、やはりこの世のもののとは思えない麗しさを兼ね備え、物静かに見えて、芯の強さを感じる出で立ちに、心を奪われそうになる。


 その唇が桜の開花のように開くと、クロトは第一声を心して聞く。




「…………無事か? おぬし



 ………………………………んんっ?


 クロトは耳に粉塵がつまり、正確に聞き取れなかったのではないかと、自身の耳を疑った。


 ――――――――嘘だ!

 まさかの武士言葉。

 そんなまさか?

 昔から青髪を持つ無表情の美少は、おしとやかで優等生、感情を押し殺し仲間の為に戦うか、人型決戦兵器に乗り、戦場で主人公を支えると相場が決まっているんだ。

 それなのに武士言葉。

 ありえない、きっと聞き間違いだ。

 いや、そうだ。


 彼女は聞き返す。


「そうか、まだワシの名を名乗っておらんなんだ」


 やっぱり武士言葉!

 聞き間違いじゃなかった。

 全然、可愛くない。

 これじゃ、オッサンだよ!


「ワシの名は"モルタ"。主ら人類が"神"と崇める存在だ」


 しかも、デジャヴ。

 どこかで聞いたような自己紹介。

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