異次元人・ドミネーター
第17話 異次元人・ドミネーター
木々の間から空を見上げると、大きな黒煙が夜空を覆った。
陥落した武蔵境駅から、そう遠くない場所にいることが解る。
通りに面した入り口に、まん丸顔の2人の棒人間が笑っている看板が立てられ、「本村第2 公園」とあった。
「主よ。怪我はないようじゃのう?」
光る青い髪から、並の日本人と同じ、黒い髪へと変わった少女は、見下ろした少年の無事を確かめる。
腰から根が生えたように、起き上がれなくなった18歳の男子、那由多・クロトは、目の前に現れた神を名乗るモルタに、困惑したいた。
女子との会話…………何も思い浮かばない。
というより、女子以前に武士言葉の人と何話せばいいの?
会話、会話、会話…………きょ、今日は大変お日柄も良く、ま、まことに――――違う違う。
結婚式の挨拶じゃん!?
んんー、お、おぉ! おいどんは、元気ぜよ!
………………なんか違う。
隣に設置された恐竜の石像が、嘲笑っているように感じる。
寸胴な4足歩行、頭に襟巻きを付けた、ブロトケラトプスが憎らしく思えた。
自分の頭では考えが足らないと気付いたクロトは、率直に返す。
とは言え、彼は大破壊を乗り越えたばかりの為、口も喉も乾き、年寄りのようなガラガラした声で聞いた。
「ぁあ、あの……何で、ザムライみだいなじゃべりがだなの? ……ですか?」
手探りで気を使いつつ、質問を投げる少年に、少女はあどけない顔で首を傾げる。
言葉使いで独特の風格を醸し出す少女は答える。
「む? そうか、現世に来るのは500年ぶりじゃからな、言葉も変わっておるのか」
「ご、500年?」
「うむ、主の国では、この言葉が習わしじゃて。合に従えば合にと言うてな。まだ、信長が健在だった頃じゃ」
「信長? 織田信長!? 戦国時代? き、君、いくつなの?」
モルタと名乗った少女は、少し困ったような表情を見せた後、答える。
「む? 時間の概念が人と違う。ワシは歳というのがよく理解出来んが、有史が始まるよりも前に存在していた」
――――スケールが大き過ぎて話に付いて行けない。
「モ、モルタさん?」
「気を使うでない。モルタで良い」
鈴の音色を思わせる声とは相反して、強張った喋り方に、違和感が薙ぐ得ない。
クロトは彼女に調子を合わせた。
「は、はぁ……モル……タ……変わった名前です……だね」
そういえば、尾角・美智――――ディキマとか言ってた、悪魔みたいな女が叫んでた言葉だ。
あれは、この子の名前だったんだ。
「この名は、この世界での仮の名にすぎん。ワシの名は、主ら人間の言葉では、ちと発音しづらい。住む次元が違うからな」
「次元が違う?」
「さよう。その時代、土地によって名前や姿は違った。モルタの名の前は、アトロポスやスクルドと言われておった」
「アトロポスにスクルド? アニメとかゲームに出てくる名前だ。確か、女神かなんかの名前だったような?」
「ほう? この時代でも、まだ語り継がれておったか。その女神がワシじゃ」
「は?」
「いや、じゃから、ワシじゃ。ワシ、ワシ。ワシじゃ」
一昔前に「俺。俺、俺」で年寄りが詐欺に引っかかってた言うけど、これ、同じ詐欺なのかな?
これまで若者に騙された、年寄りの積年の恨みが、女の子に「ワシ、ワシ」って、言わせて、自分達を騙した若者に、復讐しようとしてるとか?
モルタは
「ギリシャ神話や北欧神話、ローマ神話の神は、ワシのような、住む世界が違う者を元に作られた」
「し、神話の元ネタ? 嘘でしょ?」
「同じく、主の前に現れたディキマも、ラケシスやヴェルザンディという女神の名を介しておった」
クロトの脳裏に、空中で自分を掴もうとした時、垣間見えたディキマの蛇のような醜悪な顔が過ぎり、悪寒走る。
「あれが女神? 悪魔にしか見えなかった」
「運命の糸を司る女神として、古代人はワシやディキマを崇めておった。ギリシャ神話ではモイラ。北欧神話ではノルン。最後にはローマ神話のパルカと呼ばれるようになった」
思っていたより、よく喋るな。
でも、話の内容なほとんど訳わからない。
口をあんぐりとさせるクロトに、構うことなく女神モルタは続ける。
「女神、軍神、魔女、アリアドネ、ヴァルキリー、アヌビス、オオヒルメ、鬼、死神…………呼ばれ方は引く手あまた。しかし、今は"ドミネーター"と呼ばれとる」
「な、何それ? どういう意味」
「この国の言葉で"支配者"を意味しておる」
「支配者? ははは……ホント、意味不なんだけど」彼の言葉は、ガスが抜けるように、力が入っていない。
「ワシらドミネーターは、その次元で進化の頂点にいる、生ける者の姿を借りておる」
「進化の頂点?」小首を傾げるクロトは首を傾げた。
「恐竜がいた世界では、肉食の猛者や翼を持つ者の利点を集めた姿、いわばドラゴンじゃ。哺乳類が闊歩し始める世には、人よりも大きい巨人の姿を借りておった」
神話の最強クラスを制覇しちゃってるよ。
もう、どんなリアクションすればいいか解らないよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます