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河川敷に着いた加藤。
視線の先には金髪ツインテールの後ろ姿。
彼女は白いワンピースに身を包み、河川敷階段に腰かけ膝の上に肘をつき黄昏れている。
加藤はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、彼女に近寄る。
コトン。コトンと足音を鳴らしゆっくりと近づく。
そして彼女の斜め後ろに立つ。
「お前。やっぱり海山だなぁ? へっへ」
彼女は振り向かないままこくりと頷く。
「俺の告白を断ってからの生活はどうだい? 楽しいだろぅ? へっへ」
「…………」
彼女はなにも言葉を発しない。ただ、身体はブルブルと震えている。
「へっ。これで俺と付き合う気にはなったかなぁ? それともまだまだこの生活を続けるかい?」
「…………」
加藤は下衆な笑いとともに、彼女の横に腰かけた。そして肩に腕を回そうとして固まった。
「――ん!? なんだそのツラは!?」
彼女は青い覆面マスクをかぶっていた。
この異様な状態に加藤は座ったまま身を引く。
どう異様なのか。それはマスクをかぶっているからではない。マスクの上から金色の髪が生えているからだ。
彼女はギュンと勢いよく首を横に向けて加藤見た。そして言葉を発した。
「確かに自分は海山だ。でも陸じゃない」
加藤は口を開いたまま固まっている。
「加藤先輩。こんな噂を知っていますか? この河川敷で一年生の小清水って生徒が襲われていたという噂です」
加藤はこくりと頷く。
「ですよね。学校でこの噂を知らない生徒はいないほど有名ですから。その襲った生徒の顔もご存じで?」
「――あ、ああ。携帯で、み、見た」
「それはこんな顔ではなかっですかねぇ!!! 先輩ぃ!!!!」
彼女は立ち上がり、かぶっていた金髪の
「――!! そ、その顔は!!!」
彼女は彼だった。
そしてあらわになったその顔は噂のイケメン君。
加藤は気づいていなかった。彼の足元にずっと置いてあった竹刀に。階段の段差の部分に隠してあった竹刀に。
彼は竹刀を持ち剣先を加藤に向けた。
「俺の名前は海山空だ! 男が大好きで大好きでたまらないのさ! 先輩はとても可愛い顔をしていますねぇ! どうです? 俺と遊びましょうよ」
空は見下すような目で加藤を見る。口元は不敵に緩み不気味ささえ漂う。そして、気持ちの悪いうわずった声。
極めつけは空の格好だ。可愛いらしい女性もののサンダル。すね毛。筋肉質のふくらはぎ。可愛らしいワンピース。青くなり始めている顎髭。とがったようなツンツンヘアー。
加藤は立ち上がり、ポケットからメリケンを出して拳を構えた。
「んだおめぇは!? 気持ち悪ぃーなあ! 変なもん見せんじゃねー!」
「ふふふ。そんなに照れなくてもいいんですよ。センパイ。ツンデレですか? 早くデレを見せてくださいよぉ」
加藤は殴りかかる。
「俺は男が大っ嫌いなんだよ!!!」
大きく振りかぶったその拳はバシンと大きく音を立てて空の右方向に大きく逸れた。
空が竹刀で捌いたのだ。
「――ってーな!!」
加藤は崩された体勢を利用し、体を回しながら左の拳で裏拳を放つ。
空は竹刀の
「ドォォォォォォゥゥ!!!!」
「――ぐぅっ!」
空はすぐさま加藤の方を向き残心。
加藤は喧嘩慣れしている。多少の痛みには慣れている。
しかし、空の胴打はしっかりと腰が入っておりとても重い。さらに裏拳のカウンターで入った。
加藤の顔は痛みで歪む。
「ねえ先輩。痛いですか?」
「――うるせぇ!」
空は大きく右足を踏み出し面打ちするように飛び出す。
加藤はすかさず両腕で頭を守った。
しかし。
「ドォォォォォォゥゥ!!!!」
「――がはぁ!」
竹刀は加藤の右わき腹を打ち抜く。空はすぐに残心。
「痛いですよね? 防具もなしで受ければ誰だって痛い」
「――クソッ」
「でもね先輩。その痛みは数日もすれば引くんですよ。綺麗さっぱり」
「ウルセェー!」
加藤は再度大振りで殴り掛かる。
空は先ほどとは違い、受け流さずに小手を打ち抜く。
「コテェェェェェ!!!」
「――!!!! いでぇぇぇ!!」
皮膚の薄い小手まわり。あまりの痛さで加藤はしゃがんでうずくまる。
空はうずくまる加藤の胸ぐらを掴む。
「先輩。いじめられたときの痛みって知ってます?」
「
「聞けぇ!!!!」
「――う、ぐっ」
「誰にも相談できずに! 毎日眠るのが怖くて! 腹が減っても食欲もない! 楽しいはずの学校がつらくて! いつもなにかに怯えて!
それなのに他のやつらには笑顔振りまいて! 心配させないように一人で耐えて!」
「…………」
「こういう痛みはなぁ……一生消えないだよぉ!!! ……陸は女の子だ……あんなちっさい体で耐えてたんだ。無邪気に笑うフリしてさ――。
そんな優しい子がなんでこんな目に遭わなきゃならない!!!」
空は立ち上がり竹刀を構える。
「ククク。あっはっはっは。笑わせんな、そんなの知ったことか! 俺の女にならなかったあいつが悪い」
「――な!? ……分かった。
空は鬼のような表情だった。
****
外はもう暗い。
小清水、竹田、湊は金子にクレープを渡した後、タクシーに乗り急いで河川敷に向かっていた。
そして作戦の場所、河川敷階段手前でタクシーを降りた。
皆空が心配であった。喧嘩上等の加藤にボコボコにされているのではないかと。
走る三人。
暗い河川敷階段でぼんやりと動く影が見えた。
そして何度も何度も響く乾いた音。
一人は屈み丸まっている。もう一人はそれを何度も何度もなにかで打ちつけている。
その二人の状況がはっきりと確認できる距離までくると、小清水は慌てて駆け寄り空を羽交い絞めにした。
「ばかやろー! お前やり過ぎだ」
「――うるさい! 離せ! こいつは陸を! 陸を!」
「おい! 辞典君も手伝え! 早く!」
しかし空は止まらない。
それどころか小清水を振り払い、竹刀を三人に向ける。
「待て待て! 俺らにそれを向けるな。落ち着け。な?」
「そうですよ」
小清水は焦る。
加藤をここまでボコボコにしている空をどう止めるかと。
そのとき声が聞こえた。
「おーい! おーい! 誰かいたらここから俺様を出してくれー! おーい! おーい!」
クニツルの声である。
小清水と竹田は空と対峙している緊張から耳に入っていない。
この声に気づいたのは湊。
湊は声の方に向かう。
すると空の学生鞄があった。クニツルの声はこの中からである。
湊は鞄を開けた。
「おお! やっときたのかお前たち。さっき悲鳴が止んで……空坊のやつは
「大丈夫だと思うけど――それより海山君を止めないと!」
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