25
次の日、月曜日。
空は登校し教室に入った。
六班メンバーは全員先にきていた。席に座り話をしている。
空はおはようと手を軽く上げ席に着く。
川谷と湊は挨拶を返す。小清水は青ざめた顔で『おー』とテンションの低い返事をした。
そして大きく返事を返してくるもう一人の六班メンバー。
「やー海山君おはよう! さあ、君も話に混ざりたまえ!」
話を仕切っていたのは辞典君こと
空は思い出す。
竹田が盛り上がっているときはろくなことがない。謎の金髪美少女のときもそうだった。と。
しかし、前回の美少女の話とは逆で、女子二人が異様に盛り上がっている。
空は気になるので混ざることにした。
「さあ、全員揃いました! 続きをしましょう。おおっと、海山君に簡単に説明しておかないと」
竹田は椅子に座ったまま空の耳元に近づき囁いた。
「じつはですね。小清水君にモテ期がきたんですよ」
空はこれを聞き、後ろの席にいる小清水を見た。
小清水は浮かない顔をしている。
「春君やったじゃん。モテ期きたんだね」
「おー」
元気のない返事である。
竹田は続きを話し始める。
「で。小清水君を狙っていたのは誰なんでしょうね? 相手はとても顔立ちが良いんですが……」
湊は目が輝いていた。目から小さな星が出ているのではないかと錯覚するほど。
川谷は恥じらいの表情。しかし、口が緩んでいる。
空はまだ話が見えてこない。竹田の発言にも違和感がある。
そして、狙っていたという単語で、ストーカー事件を思い出してしまう。
空は尋ねた。
「狙っていた? どういうこと?」
「自分も人伝いに聞いただけなので詳しくは分かりませんが。どうやら一二週間前に小清水君は押し倒されていたと。しかも夜の河川敷でです。
小清水君にさっき聞いたのですが、そのときは暗くて相手の顔なんて見てないと言うのです」
「――な!」
「ね。驚くでしょう? しかも、その相手はうちの学校の制服を着た男子なんですよ。お、と、こ」
空は脳に電気が走ったように気づいた。その相手は俺だ。と。
空は川谷と湊を見る。
二人は笑いをこらえ、今にも吹き出しそうである。
「そ、そうなんだ。男ねぇ。そりゃ噂にもなるな」
空は冷や汗を流しながら適当に返事する。
竹田は続ける。
「で。じつの本題はここからです。うちの学校の腐った女子たちの間で、その相手を探そうと動いているのです。ただ、なぜか見つからない。
うちの制服を着ていたのですから、うちの生徒なのは間違いないのですが。全学年を探しても見つからないと」
空は疑問が浮かんだ。
「いや。ちょっと待って。探すったって、相手の顔分からないんじゃないのか?」
竹田はチッチと指を振った。
「あるんですよ。写真が! まあスマホで撮影された画像なんですけど。恐らく現場を見ていた生徒が隠し撮りしたんでしょう。
暗いしピントも少しズレているのではっきりと確認はできませんが。見ます?」
空はごくりと生唾を飲み込む。
そして首を縦に振った。
竹田は自分のスマホを取り出し、画像を表示させ空に見せた。
「ん?」
その画像は空が覚悟していた画像とは違っていた。
暗い河川敷階段の下で横になっている小清水。被さるように手をついているイケメン。
イケメンの顔は下を向いているので、明かりの陰となりはっきりとは見えない。しかしイケメンと認識はできる。
空は自分が写っていると思っていた。しかし、そのイケメンは空の知らない顔。
「確かにイケメンだな。これならすぐに見つかりそうな気もするけど」
「ですよね。しかし見つからないらしいのです」
この会話を聞いていた他の三人は首をかしげた。
川谷は湊に耳打ちする。
「亜樹ちゃん。なんかおかしくない? 私たちが見たときは完全に眼鏡外した海山君だったよね?」
「う、うん。そのはずだけど」
チャイムが鳴り響き、六班の話は中断された。
****
学校が終わり、ここは海山家。
リビングには五人の姿があった。
川谷はキッチンで夕飯の準備。川谷のいる光景は海山家で普通となっている。
陸は川谷の料理する姿を隣で見ている。
そしてリビングのソファに小清水と湊。その向かいにある一人掛けソファに空。
クニツルはテーブルの上でテレビを見ている。
川谷と湊は空に疑問を感じていた。
なぜ自分の画像を見てあのような返答をしたのか。まるでそこに写っているのが自分ではないかのような発言。
そして、第二の事件となってしまった小清水男にモテる事件。
これについて緊急会議を行うため海山家に集合した。
湊は手鏡を持ち空の横に立つ。
「海山君、眼鏡を外して」
「なんだよ急に」
空には会議を行うことを知らせていない。
「いいから」
「……分かったよ」
空は眼鏡を外す。
湊はすかさず手鏡を向ける。空に自身の顔が見えるように。
「さあ鏡に映っているのは誰?」
「ごめん。なにも見えないんだ。鏡が目の前にあって、そこに自分の顔が映っているんだろうとは思うけど」
「はあ? あんたそんなに目が悪いの?」
「うん。眼鏡がないと歩くのすら危うい。家ん中くらいならなんとかなるかもしれないけど」
「もしかしてさ。裸眼だと自分の顔すら分からないってこと?」
「もちろん」
「なるほど。そういうわけね」
湊は納得した。
するとキッチンから声が上がった。陸の声である。
「花菜ちゃん? どしたの固まっちゃって」
「――ううん、なんでもない」
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