9
次の日。登校二日目。
制服に身を包み、空、陸、クニツルは通学路を進む。
クニツルがもっと外を見てみたいと言うので、鞄の外側ポケットに入っている。三分の一程顔を出して。いや、面を出して。
もちろん外では声を出さない約束もしている。
ツインテールを揺らした陸はスキップで進む。
空は鉛のように感じる足を進める。
陸は早速友達を作ったらしく、待ち合わせのため近くのコンビニで別れた。
学校へ到着した空。
教室に入り、中学時代に得た自身を空気にする
机に伏せて寝ているふりをするのだ。
コツもある。鼻息が机に直接あたると結露で濡れてしまう。なので指で鼻息の方向を変えたり、ノートを敷いたり。
休み時間は常にこれで過ごすのだ。
今日の授業は午前のみで、午後からはホームルームがある。
クラス委員。班分け。保健や図書などの委員会決めなど。
空は無難に午前の授業を受けていった。
****
午後になり、ホームルームが始まった。
教壇には担任の
藤崎の担当教科は現国。
清楚な紺のスカートスーツ。長く伸びる足のライン。シャツのボタンはしっかり留められているが、溢れそうな胸の膨らみ。
真ん中分けでさらりと腰まである黒い髪。容姿は一言で言うと美人。メイクも程よい。
その藤崎が言葉を発した。
「まずクラス委員は――そこのお前な」
藤崎は一人の男子生徒を指さす。
当然指された生徒は驚く。
「じ、自分ですか? 立候補とか聞かないんですか?」
「あぁん? 口答えか?」
「あ。いえ。やります」
「よろしい。じゃ、後は適当に決めといて。先生は後ろで見学でもしてるから。決める内容が書いてあるプリントはここに置いておく」
そう言って藤崎は教室の真ん中を通り後ろに向かう。
横を通られた生徒たちは、席で座りながらも体を反らす。
藤崎は壁にもたれ、足を交差させた。
なぜ指名された男子生徒は素直に従ったのか。
皆はなぜ体を反らしたのか。
それは藤崎の態度だけではない。
彼女の右手に握られている鉄パイプがそうさせているのだ。
藤崎園子は容姿端麗であるが、中身が最悪であった。
選ばれた生徒は教壇に進みプリントに目を通す。
彼の名は
辞典を開いたような髪型。顔は中の中といったところ。
ただ、どんな友人グループにも所属しているタイプで、常に話題の中心にいたりする。
空も竹田のことは、目立っていたという意味で知っていた。
竹田が教壇に立ったことで、静かだったクラスも少し活気だつ。
「ええと、竹田満です。クラス委員になりました。よろしくお願いします」
ただの挨拶のはずが、男子達の笑いが起きる。
竹田ははにかみながらも進行を進める。
この様子を後ろで見ていた担任藤崎は鼻息を出し、ニカリと口角を上げた。
空はただ空気のように流れに従っていく。
順調に班分けが進む。
方法はクジ引き。適当に切った紙に番号を振った簡素なクジ。
三十人いるクラスを五人ずつの六班に分ける。
この班は、主に行事の際に行動を共にする。
黒板には、何班はどこと図にして書かれている。廊下側前から三つ目までと、その隣の列前から二つ目までが一班。このように六班まで。
これで席決めも決定してしまうようだ。
空が引いたクジには六と書かれていた。
「引いたら人から班に分かれていって下さい」
竹田の指示のもと、生徒たちは自身の荷物を持って移動する。
六班は窓側後ろ。
空が向かうとすでに二人の生徒が席に着いていた。
一番後ろ二席を確保して話しをしている。窓側が男子、その横が女子。
空は仕方がないので窓側後ろから二つ目に着く。
すると後ろの男子が空の肩を叩いた。
「なぁ。お前海山だよな?」
空は振り返り返事をした。
「――あ゛い。ん゛ん゛。――はい」
空はずっと声を発していなかったため、喉元で声が絡んでしまった。顔が熱くなる。
彼の隣の女子がクスリと笑い、その声が小さく耳に入る。
空は恐怖した。しかし、そんな空を他所に彼は立ち上がり空の元へ寄ってくる。
そして、肩を組んできた。
「やっぱそうだよな! お前昔と全く変わってねーな。俺のこと覚えてる?」
空は分からなかった。というより、それどころではなかった。
急に話しかけられる。声が絡んでしまった。笑われた。知らないやつに肩を組まれた。と。
彼は返事を待たずに続ける。
「やっぱ覚えてねーよな。中一んとき同じクラスだったじゃん。そんときは髪染めてなかったけどさ。
「春君?」
空は思い出した。
小清水が言ったように、中学の同級生。一年のときにほんの少し話したことがある程度の人物。
「そうそう。同じ六班だしこれからよろしくな!」
小清水は肩を離し席に戻った。
小清水春。明るい茶髪をワックスで固めた今風のスタイル。背は高く、少し垂れ目。
スポーツ万能で中学時代はクラスの人気者。気さくな性格から男女問わず人気があった。ちなみにサッカー部だった。
小清水の隣に座る女子は、春の行動を見て二人の輪に入ってくる。
「なになに? 春の知り合い?」
「
小清水に亜樹と言われたその女子の名は
小清水と同じく、空とは中一のとき同じクラスであった。しかし、空の顔を見た反応から、覚えていないのが見て取れた。
しかし空は違った。
湊の特徴的なポニーテール。耳に残る甲高い声。猫のようなつり目。髪色は以前より明るくなっているが変わらないシルエット。
決定的なのは。中学で空を侮蔑していたグループにいたこと。
ただ、湊から直接それを受けたことはない。
小清水は続ける。
「海山空だよ。本当に覚えてねーのか? この丸眼鏡とか昔のまんまじゃん」
湊は小清水に取り繕った態度をとりながら言う。
「あ。あー。いたね! 久しぶりじゃん」
そう言いながら空にも笑顔で取り繕った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます