4

 二人は陸の部屋にいる。


 全体的に黒を基調とした物で統一されている。

 黒いカーペット。黒い机。黒いベッド。黒いテーブル。黒い椅子。黒い棚。黒いカーテン。

 壁には鹿の剥製。角部分は帽子ラックとして機能している。

 他にも動画配信をするための器材やパソコンなども置かれている。


 照明器具の明かりは消されており、テーブルの上に置かれてある数本の蝋燭が唯一の光源。


 黒魔術の準備なのか黒い円形テーブルには白い術式が書かれていて、魔法陣のように見える。

 魔法陣は空が見たこともない文字で書かれていた。

 

「空ニィ。頼んだものは持ってきた?」

「まあ、これでいいのか分からないから適当に持ってきた」


 黒いフード付きマントを羽織っている陸は、空が持ってきた四角い物シリーズを眺める。


 空が持ってきた物は。

 電卓。クーラーのリモコン。小さな四角い手鏡。こんにゃく。アルミ製の弁当箱。


「ねえ空ニィ。こんにゃくって原料何?」

「たしか芋じゃなかったか? こんにゃく芋」


「ふーん。植物か。ならこれにしましょ」


 陸はこんにゃくの入ったパックを手に取り封を切る。

 びちゃびちゃと内包されている水が床にこぼれた。


「うげぇ、くっさぁ! イカくさぁ。もうサイアクー。調理前ってこんな臭いするの? あー超サイアク」


 空は知っていた。つい先日黒いカーペットが代引きで送られてきていたことを。

 

 陸はぶつぶつ言いながらもこんにゃくをつまみ、魔法陣の真ん中に置く。さらに、壊れたスマホもその上に置いた。

 空はこんにゃくオンスマホを静かに見守る。


「△□〇×#$%――」


 陸は何語か不明の言葉の羅列を発していく。


 なんだかんだ馬鹿にしていた空だが、近くで見るとなんとも迫力のあるものだと感じていた。

 こういうことを動画などで配信しているのであれば、確かに興味は引くかもしれない。と。

 

 謎の言葉を聞き続けてどのくらい経っただろうか。


 空は若干飽きていた。


「なあ陸。いつまでこれ続けるんだ?」


 しかし陸からの返事はない。

 今も呪文のようななにかをぶつぶつと続けている。


 空は部屋に戻って寝ようと、立ち上がろうとしたとき事態は急変した。


 まるでカメラのフラッシュをたいたような強い光があたりを包む。


 発生源は魔法陣の真ん中にある――こんにゃく。


「な……なんだ!?」


 空は腰を抜かした。


 こんにゃくに置かれていた壊れたスマホは、まるで吸収されるようにこんにゃくに吸い込まれていく。


「やったよ空ニィ! 成功だ!」

「し、信じられん……」


 そして光は消えこんにゃくは起動・・した。

 そのこんにゃくはプルンと振動した後音声を発する。


「んあ? ここどこだよ? 俺様を呼び出すとは大した野郎だ!」


 空と陸はその音声に驚き固まる。

 しかしこんにゃくは続ける。


「しかし久しぶりのシャバの空気はうめぇ。で、俺様の主は……」


 そう言ってこんにゃくは直立し続ける。


「ツンツン頭のお前か? ん? そっちのお嬢ちゃんか?」


 二人は顔を見合わせる。


「「キェェェアァァァコンニャクガシャァベッタァァァ!!」」


 陸は空に抱き着く。


「そ、空ニィ――こ、こんにゃくが……」 

「な、なんだよ、これ……」


 混乱している兄妹を気にもせずこんにゃくは続ける。


「なんだか動きにくいな……なにに俺様を宿しやが――こ、この体は!?」


 こんにゃくは意思を持ったようにくねくねと動く。

 まるで一頭身のキャラクターが自分の体を確認するかのように。


 そして兄妹の方を向く。


 それはこんにゃくであり、顔など無い。しかし、確かに二人の方を向いたのだ。

 こんにゃくからはそれほど強いなにかが感じられる。


「お前ら! この体は一体なんだ! この俺様を誰だと思っている! 俺様はル――」


 そのとき、こんにゃくの言葉を遮るように『ピロリン』という電子音がこんにゃくのどこかから発せられた。


「あ?」


 そして表面が光った。

 こんにゃくの体に文字が浮かび上がる。


『海山空様 新規アカウントの登録が完了しました――』


 その光景はまるでスマホ。

 陸がなにかを察したようにこんにゃくを手に取り、その文字をフリックした。

 

 こんにゃくはプルリと体が揺れる。


「な、なにをする! くすぐったいではないか!」


 すると本文が表示された。

 メールアドレスの登録が完了したという画面。

 アドレスは空が携帯ショップで店員に打ち込んでもらったものと同じ。


「もしかして!」


 陸はさらにこんにゃくを操作していく。

 両手で持ち、すさまじい速さで文字をフリックで打ち込んでいく。


 こんにゃくはプルプルと体が揺れる。


「あはは、くすぐったいではないか! ――はう、そ、そこは触るな!」

 

 すると陸の携帯が音を立てた。


「やっぱり!」 


 空は理解が追い付かない。


「そ、空ニィ! このこんにゃく。スマホなの!」

「……は?」

「お前ら何をわけのわからぬことを話しておる! おい少女、俺様を放せ!」


「今、このこんにゃくからリクのアドレスにメールしたの。そしたらほら」


 そう言って陸は携帯画面を空に見せる。


 確かに空のアドレスからメールを受信していた。


「てことは、陸の携帯から返信したらどうなるんだ?」

「やってみる」


 こんにゃくから放たれる『ピロリン』という電子音。そして、表面にメール受信の表示がついた。


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