3
「な……なんだ!?」
時刻は夜七時を回った頃だろうか。
空は陸の部屋で信じられないものを目の当たりにしていた。
「やったよ空ニィ! 成功だ!」
「し、信じられん……」
二人の目の前には光り輝くこんにゃく。
こんにゃく芋を原料とし、低カロリーでダイエットにも最適なあのこんにゃくだ。
そして光は消えこんにゃくは
そのこんにゃくはプルンと振動した後音声を発する。
「んあ? ここどこだよ? 俺様を呼び出すとは大した野郎だ!」
空と陸はその音声に驚き固まる。
しかしこんにゃくは続ける。
「しかし久しぶりのシャバの空気はうめぇ。で、俺様の主は……」
そう言ってこんにゃくは直立し続ける。
「ツンツン頭のお前か? ん? そっちのお嬢ちゃんか?」
二人は顔を見合わせる。
「「キェェェアァァァコンニャクガシャァベッタァァァ!!」」
時間を遡ること三時間前。
デンプシーロールにひれ伏した空は、陸に幕の内定食を献上するために、行きつけの定食屋に足を運んでいた。
木造のこじんまりとした汚い店内。入口は開けるのに少しコツがいる。引き戸自体が劣化で曲がっているのか、レールが曲がっているのか、少し持ち上げるようにしないとうまく開かない。
カウンター五席に小上がり席がふたつ。油のしみ込んだ壁には茶色くなったメニューがずっと変わらずのまま貼ってある。
老人夫婦が営んでおり、空と陸は孫のように可愛がられている。
そんな馴染みの定食屋。
思い思いのものを注文し料理が運ばれてくる。
「やっぱりここの幕の内定食は最っ高! なんで空ニィはサバ味噌定食にしたのさ?」
「別にいいだろなに頼んだって。ここのサバ味噌は最高に美味いし」
「リク魚は嫌い! なんで皮光ってるのさ? うー気持ち悪い」
「でも鮭とかは好きだろ? 皮も光ってる」
「鮭は別なの! 嫌いなのはテカリモノ!」
「……光り物な」
陸は唐揚げを頬張りながらスマホを取り出した。
空はその光景を見て心が痛んだ。逝った
「わーい、またフォロワー増えてる。昨日の生放送が好評だったからかなー?」
「食事中は携帯電話しまいなさい」
「もううるさいなぁ。人気生主は忙しいの! レスポンス遅いとダメなの!」
「はいはい」
陸は動画サイトを利用して生放送をしている。
空は知らないが、かなりの人気がある。
放送内容としては、
動画なども投稿していて稼ぎもある。陸が携帯を持っているのはそのためだ。
本人曰く親には内緒らしい。
空は兄として悔しい気持ちだった。
歳は同じなのにこの差。
「そういえば空ニィ。今日って携帯買いに行ったんじゃなかったの? 昨日嬉しそうに言ってたじゃん?」
「……ああ。でも」
「でも?」
「もう……逝っちまったんだ」
陸は卵焼きをリスのように食べながら首をかしげる。
空は今日の出来事を説明した。
「そっか……壊れちゃったんだ……」
「うん」
おばちゃんがお冷を注ぐ。
空はそれを横目で見る。
陸はなにを思ったのか急に立ち上がる。
「いいこと思いついた!」
****
帰宅するやいなや陸は自分の部屋に駆け込む。
空はリビングで待っててと言われソファーに腰かける。
しばらくすると陸が戻ってくる。満面の笑みで。
「じゃーん! これを見よ!」
両手で真っ黒い本を掲げている。百科事典サイズの大きな本。
「で?」
空はそっけなく言った。
陸は頬を膨らませる。
「これは昨日ママがお土産で買ってきてくれた新しい黒魔術の本!」
「…………」
「でね、これに物体時間移動の魔術が書いてあったの!」
「…………」
「だからこの魔術を使って、スマホを壊れる前の時間に戻すってわけ!」
「…………」
空は呆れた。
――なにを言い出すかと思えば、黒魔術ときた。そんな非現実的なことできるわけがない。
暗示でもかけて、壊れたスマホを壊れてないスマホに思い込ませる。そんな感じだろう。くだらない。
「俺は寝る」
陸は本を置き空の前に立つ。
ピーカブースタイルで。
「……わ、わかった。陸にそれをお願いするよ。そ、その黒魔術」
「ほんと? じゃ準備しなきゃ!」
満面の笑みである。
空は苦渋の笑みを浮かべる。
――脅迫じゃないか。やってみてなにも起こらなければ陸本人も納得するだろう。付き合ってやるか。
空は諦めて従うことにした。
陸は食卓テーブルで本を開きながらメモを取り、そのメモを空に渡した。
メモには『壊れたスマホとスマホっぽい形のもの(生命があった、もしくはあるもの)』と書かれている。
陸は空に告げる
自室で準備がある。神聖なものなので準備が終わるまで見てはいけない。と。
空は黒魔術が神聖なのかと突っ込みたいのを抑えつつメモを見つめる。
リビングで適当に探しながら陸の準備を待つことにした。
二十分程で陸に呼ばれ、空は陸の部屋に向かった。
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