幕間

 赤い少女が、そこにいた。

 髪も瞳も真っ赤で、そして、これから子ども達の血で真っ赤になる少女の名はエリーゼ。

 彼女は〈超能力覚醒器〉の失敗作として、これから殺処分される予定であった。

 しかし、

「……やあ、初めまして」 

「誰?」

「怖がらなくていい、もう大丈夫だ」

「だから誰なの、貴方は?」

「俺は――道継。都城道継だ」

 研究所の地下深くにある牢部屋に、たった一人だけ閉じ込められた彼女にとって、まるで彼はヒーローのように颯爽と現れた。

 そして、予感していた自身の末路を彼から告げられる。  

「廃棄処分……やっぱり、私は出来損ないなんだ」

「ああ、あいつらはそう言っている。だが俺は、そう思わない」

「え?」

「君を助けたい。いや、君が力を振るう勇気の助けになりたいんだ――君を救うのは、君自身の異能だ。もう気付いているんだろう、生き残る手段は一つしかないと」

「…………」

「〝自分を超能力に覚醒させる〟――それだけだ」

「でも、どんな超能力に覚醒すればいいのか分からない」

「それを俺が決めてやる。今は、まだ様子を見る。時期を見計らって、これから君に指示をする。ここを君が脱出するためにな。だから俺を信じてくれ。俺の言うとおりに、これから動いてくれ」

「……うん」

 こくり、と彼女は小さくうなずいた。


         *


 それから七年後。

 俺――都城道継は、とあるアパートの一室を前に立っていた。

「…………」

 インターフォンを押して、中にいるであろう人を呼び出す。

 しばらくしても何ひとつ反応は帰ってこない。なので強引に押し入ることにした。

「やってくれ」

「了解です」

 俺が連れてきた超過能力者の少年に命令すると、少年は手にした幾つかの針金を自在に動かしながら先端部を鍵穴に挿す。しばらくガチャガチャと動かして手応えを感じると、彼は手首を捻り上げるようにして開錠した。

 単身で〝彼女〟の元へと向かうべく、俺は少年に手を振りかざして同行を制止する。

「……綺麗なもんだ、空の苦労が窺える」

 廊下を通り、リビングで飲んだくれているであろう空の母を見つけた。


         *


溜息を吐いて、俺はアパートの階段を下りて少女の元へと戻る。

「道継、どうだった?」 

「駄目だった」

「ふーん、そっか」

 真っ赤な髪を風に揺らしながら、駐車場の車止めブロックに腰かけていた少女――エリーゼは、立ち上がると俺の元へと駆け寄ってゆく。

「どういうことを話してたの?」

「下らないことだ。いつまでも空を美作大地の代わりにするな、空を自由にしてやれと言っただけ。だが彼女からの返事が酷すぎた。最期の忠告だったのに残念だ」


 ――他に、あの子ができることなんて無いじゃない。無才能者なんだから。


「つくづく同情するよ、空。父親から研究に利用され、母親からはいなくなった父の代用品にされる」

 俺は、おまえをそういう風にしない。

「行くぞ、エリーゼ。あいつを自由にしてやろう」

 空を解放してやる決意をして、その場から早々に立ち去ることにした。

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