勇者の旅の裏側で

八月森

プロローグ

 子供のころ、好きだった絵本がある。

 題名はもう思い出せないけれど、内容は、勇者が仲間と共に旅をして魔王を倒しに行く、というありふれたものだった。

 神さまが造ったというすごい剣を手に入れた勇者は、仲間と一緒に旅をしながら、立ち寄った村や街の困りごとを解決していく。

 弱い人や困っている人の味方で、強くて悪い魔物を退治して、最後には一番悪い魔王も倒して、たくさんの人を助ける勇者さま。

 そんな、どこにでもあるようなそのお話が、わたしは大好きだった。

 うちに一冊だけあったその絵本を、わたしは擦り切れるくらいに何度も、何度も、読み返した。

 時には、夢の中でその続きを見ることさえあった。

 ずっとずっと、勇者に憧れていた。

 ――あの日、本物の勇者に会うその時までは。

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