第4話 魔本少女ブックマウンテンらの
「え、多すぎない…?」
決意を固めて本都タワーまで来たはいいものの、タワーの周りは動物型のアンチ獣でいっぱいだった。
どうしよう、一体一体倒すには時間がかかりすぎる。
装置が起動する時間は分からないけど、ハクメンがああ言っていたって事はそう遅くは無い筈。もしかしたらもう始まっている可能性もある。
「こんな時、ハクメンが居てくれたら…」
誰に向けるともなく、自然とハクメンの事が口から零れた。
私がアンチ獣と戦う時、いつもハクメンがサポートをしてくれていた。
あのアンチ獣は動きが遅いとか、右手の武器が危ないとか、胃腸が弱いから油物を食べると下痢になるとか、作戦だって考えてくれていた。
ハクメンを助けに行くのにハクメンが必要だなんて変な話だけど、私はハクメンに頼ってばかりだったんだなって今更になって思う。
「でも、ここからは私一人でハクメンを助けに行かなくちゃいけないんだ!」
小さく、それでいても力強く、自分を鼓舞する為に呟く。
さっきの戦いで分かったけど、この動物型のアンチ獣はどうやら
なんて言ったらいいんだろう?核が無いって言うのかな?その影響か
だから、多少無茶でも強引に突破を!
「お前ら!ここが正念場だ!行くぞ!!」
『『応!!』』
私がガレキの陰から飛び出そうとした時、反対側から大きな声が聞こえた。
ババババ チュインチュインチュイン ドォンドォン
続けて聞こえる、銃声と爆発音。
「街を取り戻せ!!」
何者かの集団がアンチ獣に向かって銃撃戦を始めている。
ガレキから顔だけ出してその集団を見ると、隊列を組んでいる真ん中に赤い髪の美人の姿が見えた。
カケルさんだ!じゃあ戦ってる人達は読書強化集団の人?ほぼテロリストじゃん!!
ドォンドォン ギャーグワーグフー キンキンキンキン
読者強化集団とアンチ獣の戦いは激しく、既に双方に結構な被害が出ている。
アンチ獣は読者強化集団の人達と戦うのに夢中でこちらを見ていない。タワーの中に入るなら今がチャンスかも。
ありがとうカケルさん。後でちゃんとお礼を言います。
ちょっと卑怯だけど、あのアンチ獣はカケルさん達に任せて先に行こう。
なりふり構っている時間は無いのだから。
ッティーン!
エレベーターが最上階の展望室に着いた。
外から見た時は全然違う形になっていた本都タワーだけど、どうやら内部はそんなに変わりは無いみたい。
社会見学で訪れた時の間取りを思い出しながら、薄暗い通路を進む。
ハクメンに会ったらなんて言おうか。
ハクメンは遠くに行って欲しいなんて言っていたけど、私はそんな素直な子じゃない。逆にこうやって乗り込んで来ている。
恨む?怒る?それともお礼を言うべき?色々と言いたい事はあるけど、とりあえず最初に言う事は決まってる。
絶対に、これだけは言わないといけない。
そうして色々と考えているうちに通路を渡りきり、展望室の扉までやってきた。
きっとこの先にはハクメンが居て、そしてハクメンのご主人様っていうのが居るはず。
ゴゴゴゴゴ
「らのちゃん、来てしまっ…」
「あんな汚いメガネ必要なかったじゃん!!プリらのパンチ!!!」
ドゴォ!!
「うっ!」
シュゥゥゥ ポンッ
扉が開くと同時に、都合よく扉の前に居たハクメンに直接
ハクメンはその場で崩れ落ち、アンチ化が解けて元の白い狐に……あれ?男の子?
え?これって、もしかして、そういう事?
……あ゛~~!!あ゛あ゛~~~!!!だからお風呂一緒に入るの嫌がってたっていうか下着!!自分の部屋だからって下着だけでハクメンと話してた!!!キャミ付けてたけど下はパンツ!!!あ~~~!!!あ~~~も~~~~!!うぅ~~~~!!!
『ほぅ、問答無用で変化を解除させるとは、中々やるではないか』
「くっ、らのちゃんには手を出さない約束だぞ!」
私が頭を抱えていると、真っ暗な部屋の奥からとても厳かな女性の声が聞こえ、その声の主に足元をふらつかせながらハクメンだった男の子が叫ぶ。
っていうかこの男の子めっちゃかわいい顔してる。かわいい。
「あなたが全ての原因ね!洗脳を止めるのと、ハクメンを返してもらいに来たわ!!」
まだ恥ずかしさで顔が熱いけど、大声を出す事でなんとかそれを誤魔化す。
そう、こいつを倒せば全てが解決する!そしてハクメンは後でもう一回殴る!
『面白い、私を倒すと言うか!世界の支配者の、この私を!!』
ブォン
「危ない!」
「きゃっ!?」
ズガァン!!
部屋の奥から黒い何かが飛んでくると同時に男の子に突き飛ばされ、二人して廊下に飛び出す。
飛んできた何かはそのまま展望室の壁を削り取り、暗かった室内に光が差し込んだ。
『フフッ、その女を庇うか。母は悲しいぞ』
差し込んだ光に照らされ、奥に居た大きな物の姿が顕わになる。
それは、とても大きな、真っ黒な狐。
まるでアンチ獣になったハクメンが、そのまま大きくなったかのような。
「止めてくれ母さん!約束が違う!!」
その巨大な狐に向かって、男の子が叫ぶ。
なるほどね。大体理解出来た。やっぱり後でハクメンはもう一回殴る。
「ハクメン!メガネ!!」
「え?ら、らのちゃん今はそれどころじゃ…」
「いいから!メガネ!!」
私はズンズンと男の子に近付き、右手を顔の前に差し出す。
この男の子(もうハクメンでいいや)にはちょっと、いや、大分イラっとしてる。
手を出さない約束?なにそれ?
結局はこの装置が発動したら洗脳はされちゃうわけじゃん?それまでの短い間だけ自由に逃げろって?それはラノベ何冊分の時間なの?そんな窮屈な思いしなきゃいけないぐらいなら!!
「私が全部止める!洗脳も!このおばさんの妄想も!ハクメンの逆に迷惑なカッコつけも!!」
「え、えぇ!?洗脳だけじゃなくて母さ、僕!!?」
「だから!メガネ!!ぬとぬとしてていいから!!」
「いや、僕もうアンチ獣じゃなくなっちゃったし、この状態だと補助メガネ出せない…」
「は!!?」
なにそれ!先に言ってよ!だったら
ああもう!どうするのこれ!もう一回アンチ獣になってよ!なんでもいいから!さっさと変身して…変身!!?
「これ、使って」
「これは……うん、分かった。いけると思う」
私は帯に挟んでいたステテコのおじさんのメガネをハクメンに渡す。
そしてハクメンはメガネをかけながら、力強く叫ぶ。
「メガネは!本好きの!証!!」
シュゥゥゥゥ ギャーン!!
ハクメンが光に包まれ、いつもの白い狐になる。
そして、
「らのちゃん!メガネだ!!」
オェェ グチャァ
汚いぬとぬとしているメガネ。
私は躊躇せずに今のメガネを外し、ハクメンのメガネを付けて叫ぶ。
「メガネは!本好きの!証!!」
ピカーッ!! ビカビカビカー!! メガネー!! メーガーネー!!!
謎の光と謎の効果音と共に、謎の空間をくるくる回りながら裸のシルエットになる私。
ピーン! パシューン! プリリリーン!! ッテテー!!
まずはレオタード、そして着物みたいな服と袖とブーツ、最後に狐耳や腰の後ろの鈴なんかが現れ、お面になったハクメンが腰帯に付く。
「魔本少女ブックマウンテンらの!」
『魔本少女ブックマウンテンらの!』
私とハクメンは同時に叫び、ポーズを決めた。
そう、これこれ。私だけじゃなくてハクメンが居てこそしっくりくる。
『茶番はもう良いか?』
ご丁寧に待ってくれていたハクメンのお母さんがこちらに向かってくる。
そもそも時間が経てば洗脳は終わるんだから、向こうからしたら急ぐ必要は無い。
「ええ、決着をつけましょう」
ハクメンのお母さんが相手でも、絶対に負けてなんかやらないんだから。
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