第2話 ライバル現る?

「アイデアヲダシテヤルッテイッテルダロ!」

『今だらのちゃん!』

読書玉リードボールいっけぇぇ!!」


バチバチバチィ


「チシキガニワカナンダヨ!」

『今だらのちゃん!』

「必殺読書玉リードボールシュートォォ!!」


バチバチバチィ


「ギオンバッカリジャネエカ!」

『今だらのちゃん!』

「プリズムらのインパクト!!」


バチバチバチィ






「ふぅ、今日も疲れたなぁ」


 お風呂でゆったりとしながら、この一ヶ月の事を思い出す。

 私は白い狐(ハクメンって名前らしい)に呼び出されて、何回かアンチ獣と戦って読書熱量リーディングカロリーを回収した。

 どうやらアンチ獣というのは読書家の人達が作品に対する熱意が行き過ぎてしまうとなってしまう物らしくて、ハクメンはアンチ獣から作品に対する熱意の読書熱量リーディングカロリーっていうのを吸い取って周っているらしい。

 本当ならアンチ獣になる前に処置したいらしいんだけど、中には熱意が急激に上昇して間に合わないことがあるとかなんとか。

 そうなるとハクメン一人ではアンチ獣の相手が出来ないみたいで、選ばれた力を持つ私の助けが必要になるんだって。


「私が本都の平和を守ってるなんて嘘みたい。ふふっ」


 なんだか私(と言っても変身後のブックマウンテンらの《この名前は先週決めた》)にファンクラブまであるみたいだし、私の時代来ちゃう?来ちゃう?

 あの露出度の高い服装にも慣れたし、メガネもお面から出して貰えばぬとぬとして無い事が分かったし、今の私は順風満帆。ちょっと忙しくてラノベが読めてないけど、ラノベよりも街の平和のほうが大事だもんね!


「ら~の~お客さんよ~」


 と、お風呂場の外からお母さんの声がかかる。

 お客さん?こんな時間に誰だろ?

 とりあえず簡単に体を拭き、お客さんの前でもお風呂の後だから仕方ないよねって理由でパジャマに着替えて応接間に向かう。






「あんたがブックマウンテンらのだな」


 応接間に居たのは赤い髪にインテリな感じのメガネをかけた白衣の美人な女性。

 ソファーに座って組んだ足がとってもセクシー。

 っと、いけないいけない。おみ足に見惚れている場合じゃなかった。何故だか私の正体がバレているみたいだし、ここは慎重に…


「ひ、ひひひひとちがいじゃないででで、です。ですか?」

「それは『人違い』と言っているのか『人違いじゃない』と言っているのかどっちなんだ?」

「ひぃっ!」


 お姉さんの美人オーラに緊張して吃ってしまう私。これは決して普段から他人と喋る機会が少ないからじゃないから…


「まあいい。どっちだろうが言う事は同じだ。これ以上人々から読書熱量リーディングカロリーを奪うんじゃない。いいな」


 お姉さんはそう言うと、組んでいた脚をすっと解き、そのまま立ち上がる。あ、ちょっとパンツ見えた。赤のレースだ。大人だなぁ。

 って、だから見惚れている場合じゃないって。


「ななななんんおのことことことだまかわかららら…」

「それは図星なのか人に慣れてないのかどっちなんだよ」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」


 いや、これはちょっと大人のパンツの魅力に中てられただけで…


「……伝えるべき事は伝えた。覚えておけよ。それと、面と向かって話すのが恥ずかしいのなら筆談で慣らすといいぞ」


 お姉さんはそう言うと、お母さんに夜分遅く住みませんでしたと挨拶をして出て行った。

 なんだ、めちゃくちゃ良い人じゃない。緊張して損した。明日も学校あるし寝よっと。






『それは読書強化集団の連中だね』

「読書強化集団?」


 翌日、いつものようにアンチ獣を倒してからハクメンに昨日の赤いパンツの美人さんの事を話してみた。


『アンチ獣を保護して周っている団体さ。人がアンチ獣になる原因を科学的に解明して薬で読書熱量リーディングカロリーを抑えようとしているんだ』

「へーえ、薬で何とかなる物なの?」

『一時的に治める事は出来るだろうけど、そもそも人の感情を薬で押さえつけるのはどうなのかな?』

「う~ん、私にはちょっと難しいかな」


 最早流れ作業になっているアンチ獣退治後の読書熱量リーディングカロリーの回収。

 魔本を掲げて(集まれ)って念じるだけだから楽でいいんだけど、ちょっと腕が疲れるのよね。地面に置いてやっちゃダメなのかな?


『でもらのちゃんの正体がバレているのは怖いな。その気になれば家族を人質に取れるわけだし』

「え、怖っ!ハクメンの発想怖っ!」

『可能性はゼロじゃないだろ?』

「え~、あのお姉さん美人だったし大人の女性だったし、多分大丈夫だって~」


 ハクメンはまだ何かぶつくさ言っているけど、私はあのお姉さんが乱暴するわけないって信じてるから。


バキュウン! バサァ!!


「動くな!忠告はしたはずだぞ!!」


 振り向いた先に居たのは昨日のお姉さん。今日は全身にピッチリするスーツを着ていて、胸や腰にいくつものポーチを付けている。

 そして手には大きな銃。詳しく無いから分からないけど、結構離れた距離なのに私が持っていた魔本だけを撃ち抜くのは相当の手練だと思う。

 っていうか、お姉さんめっちゃ乱暴するじゃん。


『らのちゃん!魔本を拾って!!』


 腰帯のお面から聞こえるハクメンの声に従い、腰を屈めようとする私。


バキュンバキュン!! チィンチィン!!


「動くなと言った筈だ!!」


 でも、お姉さんはそれを許してはくれなかった。


「そのままじっとしていろ。それは回収させてもらう」

『魔本を彼らの手に渡しちゃダメだ!らのちゃん!!』


 銃を構えたままゆっくりと近付いてくるお姉さん。

 本を渡すなと叫ぶハクメン。

 私は体を動かさず、視線だけお姉さんを追いながら訪ねる。


「どうしてこんな事をするの?」

「どうして?それはこちらのセリフだ。あんたのせいで街はこんな事になっているんだぞ」

「私のせい?」

『らのちゃん!敵の言う事を聞いちゃダメだ!!』


 ここに来て気付いたけど、どうやらお面状態のハクメンの声は私にしか聞こえないみたい。でなきゃお姉さんはハクメンの声にも反応しているはずだ。

 お姉さんは銃を私に向けたままゆっくりと近付いてきている。もしも私が動いたら即座に撃つつもりだろう。


「そうだ。あんたが人々から読書熱量リーディングカロリーを奪っているのだろう?読書熱量リーディングカロリーを失った人間がどうなるのか分かっていないのか?」

『僕らは暴走している分の読書熱量リーディングカロリーを吸い取っているだけだ!!現に死人は出ていない!!』


 正直、ハクメンは怪しい。よくよく考えるとやっている事は謎だし、あの魔本の存在も謎。

 でも、アンチ獣を人間に戻す為に魔本を使っているのは確かだ。

 だから、これはきっとお互いに話し合えば分かるタイプの勘違いなのだろう。

 大体のラノベは登場人物達がちゃんと冷静になって話し合えば問題が起きなかっただろうってのが多いし、大体が気持ちのすれ違い。

 なので、ここは一度お姉さんに落ち着いてもらうのがベストなはず。


「ねえ、お姉さん。昨日も今日も一方的だったけど、話し合いの余地は無いの?」

「話し合い?しようと思ったがあんたがまともに話せなかったんだろうが」

「う゛っ」


 痛い…これは痛い……


「それに、俺はお姉さんじゃないぞ?」


 とうとう魔本の側にまで近付いたお姉さんが、ゆっくりとしゃがみながら言う。


「俺は男だ」

「えっ!!マジ???」


 男?男って言った?

 え、男なのにそんなに綺麗なの?全身ピチピチスーツなのに男なの?

 そんな…じゃあ、私、???

 あ、ダメ…ショック、凄いショック、膝から崩れ落ちちゃう…


バタリ


「おわっ!動くなって言っただろ!!」

「なんで…女の人の格好を……」


 私は崩れ落ちたまま、声を搾り出すようにしてお姉さん?お兄さん?に訪ねた。


「わ、悪いかよ…趣味だよ…」


 お姉兄さんはちょっとはにかみながら応える。

 悪いよ!とっても目に悪いよ!!そのピチピチスーツ股間の部分がポーチで隠れているだけでチラッと見えそうで本当に目に悪いよ!!


「そう…ですか……」

「お、おう……」


 急に流れる微妙な空気。

 お姉兄さんは恥ずかしくなったのか、銃はこちらに向けたまま目線を横に反らした。


『今だ!!』


 その瞬間、ハクメンがお面形態から狐形態へと戻り、魔本の元へと飛び跳ねる。

 同時に私の変身が解けて制服姿に戻る。


「くっ!会話で油断させる作戦か!!」


 最初はそのつもりだったけど、途中からはマジだよ!マジショック!!


「ハクメン!今のうちに!!」

「うわっ!」


 私はハクメンに狙いをつけようとしていたお姉兄さんに体当たりをする。

 流石に銃を落としたりはしなかったけど、これでハクメンが逃げる時間ぐらいは稼げれるはず。

 そしてお姉兄さんのピチピチスーツを触ってみて分かった。お姉兄さんは体つきもすごく女性っぽい。髪の毛から良い匂いもするし、これはもう女性で良いのでは?


『らのちゃん!』

「私は大丈夫!後で合流しよ!!」

「このっ!離せっ!本当に撃つぞ!!」


 お姉さん(私の中ではもうお姉さんで統一する)は制服姿になった私に戸惑っているのか、銃で撃つような事はしない。

 だから今のうちに逃げて、ハクメン!


『らのちゃん。ありがとう』

「うん!だから早く!!」

「逃がすか!!離れろ!!」

『本当にありがとう。今回ので満タンになったみたいだ』

「ん、ハクメン?」


 ハクメンは魔本を持ったまま逃げようともせず、こちらを見つめている。


『だから、もうこれはいらないね…今までごめんね、らのちゃん』

「え?どういう…」


 ハクメンが小さな手をクイッとすると、私のかけていたメガネがスーッとハクメンの元へと飛んでいく。


『これはもう、らのちゃんには必要無いんだ。そして、出来ればどこか遠くへ行って欲しいな』

「貴様!アンチ獣か!!」


 お姉さんの叫びと共に、ハクメンの白い毛並みが黒く染まっていく。

 そんな、嘘…だって、ハクメンはアンチ獣と戦っていて、アンチ獣を治すために読書熱量リーディングカロリーを…


バキュンバキュン!! キンキン!!


 私を払いのけたお姉さんが、黒く染まったハクメンへと銃を撃つ。

 でもそれは黒い毛並みによって弾かれてしまい、ハクメンには傷一つ付かない。


「嘘…ハクメン……私……なんのために………」

『全ては読書熱量リーディングカロリーを集める為だよ、らのちゃん…』

「やはりその魔本か!!」

『ああそうさ。僕のご主人様はこの魔本を使い、世界を一つにする。らのちゃんは僕に騙されてその手伝いをしていただけなんだよ』


 黒いハクメンが何か言っている。

 私は、ずっと騙されていたの……?


『君達読書強化集団が最大の脅威だったんだ。わざとらのちゃんを目立たせることで、僕の存在を隠していたんだよ』

「アンチ獣め!姑息な手を!!」

『でも、もうそれもお仕舞いだ。計画は最終段階に入る。もう誰にも止める事は出来ない』


ズモーン!!


 ハクメンが言い終わると同時に、ハクメンの後ろのほうに見えていた本都タワーが膨れ上がり、黒い巨大な塔になるのが見えた。


「あ、あれは…」

『あの塔は本の柱。この世全ての人間にたった一つの作品だけを崇めさせる装置さ。僕のご主人様は世の中には自分の作品だけあれば言いと思っていらっしゃる』

「そんな…そんなのって無いよ……」


 私は目から大粒の涙を流すのを堪えれず、地面にお尻をぺたんと付けて手で目を拭う。


『だから、さよならだ。らのちゃん。出来れば本都を離れて欲しい。この装置はゆっくりと広がっていくから、離れれば離れるほど影響が訪れるのは後になる』

「何をふざけた事を!!貴様はここで倒す!!」


バキュンバキュンバキュン!! キンキンキン!!


 お姉さんは弾を入れ直した銃でハクメンを撃つけれど、やっぱりそれは弾かれてしまう。


『無駄さ、諦めなよ』


ブォン


「ぐわぁ!!」


 ハクメンの尻尾が伸び、無造作に振るわれるだけでお姉さんは吹き飛んだ。

 私は、それを泣きながら見ているだけ。


『じゃあ、らのちゃん。僕はもう行くよ。この一ヶ月は結構楽しかったな。さよなら』


 ハクメンはそう言うと、俊敏に飛び跳ねながら本都タワーの方へと跳んで行った。

 後に残されたのは何の力も持っていない私と、倒れているお姉さんだけ。


 私はハクメンに騙されていた事がショックで、ずっと泣いていた。

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