第2話 中編 魔法が当たり前の世界
「なぁグラン」
転移された場所へ向かう途中、当然シュンが歩きながらグランに話しかける。
「お前んちを出るときにいた『羊』だけどよぉ、あれは俺の知ってる普通の『羊』だったぞ?ここ本当に異世界なのか?」
「そうなんですか?あの羊はバヴィと言って水魔法を使う羊で、あの毛の中に水を含む、こちらでは珍しい生き物なんですが…」
魔法…
さっきも聞いたが、あの時は驚きで聞きそびれてしまった。
今のうちに聞いておくか。
「なぁ、その魔法ってのは、俺の所では無くてさ。
わりぃけど、教えてくんねぇ?」
シュンは頭に手を乗せて、申し訳なさそうにしながらグランに聞く。
「魔法、無いんですか?」
「ないない、全くない。俺らの世界じゃあ魔法なんておとぎ話の世界だぜ?」
「そ、そうなんですか。
なんだか、あなたのいた世界が想像できません」
シュンからすればこの世界がその想像できない世界。
その住人から逆に想像できないと言われて、シュンはなんだか不思議な気持ちになる。
「この世界にとって、魔法は僕らの暮らしを助けたり獣から身を守る武器になったり、ここでは無くてはならない存在なんです。
魔法は五大元素と呼ばれ、火、水、土、風、雷の五つに分けられていて、生まれて始めて必要とした種類がその人の魔法として執着するんです」
「へぇー」
感心無さそうに返事をするシュン。
だが、不意にあることが気になり、シュンはグランに尋ねた。
「てことは、グランも魔法使えんのか?」
「え?ま、まぁ、一応…」
「マジ!?何が使えんの?」
「火を、ちょっとだけ…」
グランは誤魔化すように笑いながら答えるが、シュンはそんな事お構い無しに質問をする。
「火かぁ、魔法の王道って感じでいいな!
ちょっと魔法見してよ」
「それは、ちょっと…」
「ちょっとだけいいじゃねぇか」
「今日は、その、調子悪くて…
そ、それより、そっちの世界はどうなんですか?」
あからさまに誤魔化すグランにシュンは少し不満に思いながらも、話を聞いた以上、自分のいた世界の事を言うのが道理と感じ、魔法のことは諦めて話をすることにした。
「俺がいた世界は…なんつうか、何もないつまんねぇとこさ…
朝起きて、飯食って学校行って、部活して帰る。ただそれを繰り返してるだけ」
つまんなそうに答えたシュンに、グランは異世界ならではの質問をする。
「部活って何ですか?」
「ん?あぁ、習い事みてぇなもんかな」
「へぇー。学校以外にも習い事を出来るなんて、あなたはお金持ちなんですね!」
「…」
別にシュンは奨学金で高校に通ってるから、特別金があるというわけではないのだが、シュンはそれよりも気になっていた事があった。
「グラン、お前歳いくつ?」
「え?16ですが」
「タメじゃねぇか。
んじゃあさ、その敬語やめてくんねぇ?
こっちまで話ずらくなる。
あと、俺のことはシュンって呼んでくれ」
「わ、わかりました。頑張ります」
グランは返事を返すがシュンはそれにムッと眉を寄せる。
「『わかりました』じゃなく『わかった』だよ!」
「わ、わかった」
シュンの勢いに乗せられながら敬語ではない返事をするグラン。
そのようすにようやく納得のいったシュンはニコッと笑みを見せる。
「それじゃあ、ここにいる間よろしくな、グラン」
シュンはそう言いながらグランの肩に手をかける。
その時のシュンは、諦めていたはずの夢が叶いかけていたことへの喜びで胸がいっぱいだった。
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