第2話 前編 魔法が当たり前の世界
木々の間から射す眩しい太陽。
それがシュンが目を開けた時に出迎えた景色だった。
「…は?」
シュンは、驚きのあまり硬直してしまう。
生き生きと生い茂る変な形の木々、その側面を這う見たこともない虫や動物。
さっきまで夜だったにも関わらず輝く太陽。
ここはどう見ても彼の知っている『東京』では無かったからだ。
「ほ、本当に来た…」
下から声が聞こえ、その方向に視線を向けると、そこにはシュン以上に驚いて腰を抜かしている同い年くらいの男がいた。
「あんた、これはどういう…ッ!」
腰を抜かしている青年にシュンが近づこうと足を踏み出した途端、足がカクンと膝から折れ、シュンは地面に倒れてしまった。
(あ、頭がめちゃくちゃいてぇ…
長距離やった後の酸欠みてぇだ…)
「え、だ、大丈夫ですか!」
青年が突然倒れるシュンに急いで駆け寄るが、シュンは答える事が出来ず、そのまま眠ってしまった。
───────────────────
シュンが目を覚ましたところは少し硬めのベッドだった。
木造の天井と、壁が回りを覆っていて、コンクリートなんて一切使われていない。
(また知らないところだ…)
まさかタイムスリップしたのか?なんて考えながらベッドから体を起こす。
「だ、大丈夫ですか?」
意識がなくなる前に聞こえた情けない声。
シュンが振り向くと、そこにはやはりあの青年がいた。
「あんたは?」
「僕は『グラン』
ここで羊の世話をしています」
「羊って…
ここ東京じゃねぇの?」
グランと名乗る青年は、やましそうにしながら答える。
「…本当に、違う世界から来たんですね」
「?」
「ここはあなたがいた世界とは違う世界。
あなたのいた世界がどんなところかわからないので説明しずらいのですが、ここはマナを使って生き物が生活している世界なんです」
「違う世界って、何言って…」
シュンはグランの話を聞いて、前に国男から聞いた話を思い出す。
それは、現代の人間がいわゆる『異世界』に転送あるいは転生して活躍する、『異世界物』が最近流行っているという話だ。
その時は「また萌え系の話か」と聞き流していたが、ここに来て初めて見た光景とグランの話は、その『異世界』そのものだった。
「ここは、日本じゃ…て言うか地球じゃねぇのか?」
「すみません、まさか本当に来るなんて思わなくて…」
「お前が連れてきたのかよ!」
「す、すみません」
興味だけで連れてこられたことにシュンは怒り、グランをボコボコにしてやろうかと思ったが、怒鳴るとすぐ縮こまって謝るグランを見ると、まるで自分が虐めてるように思えて、逆に申し訳なくなってしまう。
「ですが、再びあの場所へ行けば帰れるはずなので…」
「え、帰れんのかよ!」
シュンが驚き、身を乗り出しながら大声を出すが、グランはさらに驚き縮こまる。
国男の話では、異世界に行った主人公は帰れないのが当たり前らしき事を言っていたから、てっきりここに強制的に骨を埋めなければいけないものだと思っていたが…
「はぁ…んだよもぉ~、驚いて損したわ」
「すみません」
また謝ってる…
謝らない奴よりは謝る奴が好きだが、ここまで簡単に謝る奴はそれはそれで好きになれない。
シュンは「ふぅ…」と息を吐いてから、グランに話を切り出す。
「…ま、そうなら、とりあえずそこを見に行こう」
そう言いベッドから降りるシュンを、グランが心配そうに見守る。
「お体は大丈夫何ですか?」
「全然平気だつーの、むしろ絶好調だ!」
腕をグルグル回しながら大丈夫なことをグランに伝える。
「そんじゃさっさと行こうぜ。ここのことももっと聞きたいしな」
グランにそういって、シュンは上機嫌なまま外に出ていった。
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