異世界チート物語
ダイゴロウ
一章 異世界転移物語
第1話 ヒーローに憧れる青年
雲ひとつ無い青空──
地面をガンガン照らす太陽───
あまりの暑さに俊は流れ出る汗を拭う。
「どうぞー!」
遠くにいる陸上部のマネージャーが、拡声器を使って俊に合図を送る。
それを確認した俊は槍を手に持ち、いつものように目を閉じてから、自分が遥か遠くへ槍を投げる姿をじっくりイメージする。
…よし。
心の中でイメージを固めた俊は、間を置かずして、槍を掲げながら走り出した。
俊は徐々にスピードを上げていき、コントロールとパワーのバランスを即座に調整。
左手で槍の先を確認し、力一杯投げ飛ばした。
手から放たれた槍はぐんぐんのびていく。
「わっ!」
勢いに乗ったまま飛ぶ槍は、驚くマネージャーの頭を軽々と超えていき
そして
ザクッ
槍はフィールドの芝に刺さり、ようやく止まった。
「え~と…53m!!」
マネージャーの拡声器の声。
それを聞き、隣で見ていたコーチが満足そうに腕を組む。
「よーし、全員集合だ!」
コーチの一声に、各自で練習やストレッチをしていた部員がゾロゾロと周りに集まり、投げたばかりの俊もそこに混じる。
「記録を測った結果、逢川 俊が全ての競技で一番だった。
インターハイに一年を出すことに異論がある奴がいるようだが、俺は3年だからと言って実力の無いやつを出すことはしない!
各自異論はある奴は実力で示せ。以上」
部活が終わり更衣室で、俊は汗でビショビショの服から制服に着替える。
すると、スマホがチャットが来たことを教えるライトを点滅させていることに気がついた。
「…」
どうやら、彼の親友である太田 国男が良いものを手に入れたらしく、今すぐに会いたいそうだ。
こうしてはいられない。
俊はさっさと荷物をバックに積め、睨んでくる先輩達に「お疲れ様でした!」と挨拶をし、国男が待つ校門に急いで向かった。
校門前。
俊は国男が来いと言ってきた校門にたどり着くが、肝心の国男がいない。
オレンジの光が差す校門で、国男が来るのを待っていると、国男はほどなくして校舎からやって来た。
「俊よ…速かったな…」
ボサボサの長髪を揺らしながら、黒ぶち眼鏡を光らせ堂々と俊の方へゆっくりと歩いてくる。
「自分から呼び出しといて遅れんなよ」
「貴様が来るより遥か前に、俺は校門で待っていた。遅れたとは言わん」
「じゃあなんであとから来たんだよ」
「俺を不審者と勘違いした警備員に事情聴取を受けてた。全く、奴はとんだ『素人』だな!」
きっと『新人』と言いたいのだろう。
「だがそんなことはどうでもいい!
今回貴様を呼んだのは、ついにあれを手に入れたのだ!」
「!
それじゃあ、あの話はマジだったのかよ」
「あぁ…だが、今ここでは言えない…」
「はぁ?なんでだよ、もったいぶんなって」
「警備員がこっちを睨んでくるからだ」
国男は、目でその睨んでくる警備員を教える。
きっと国男を事情聴取した警備員も彼なのだろう。
「ラーメン屋に移動しよう。ついてこい」
そう言いスタスタと校門から出ていく国男。
俊は焦れったく思いながらも、仕方なく国男についていった。
俊と国男は、小学校の頃からの親友である。
彼らはヒーロー好きという共通点から知り合い、後に俊はヒーローに憧れて体を鍛えるため八種競技を始めた。
しかし、国男は体を動かすことが嫌いで、俊とは別で、ただヒーローを求めるオタクとなったのだ。
ラーメン屋にたどり着き、俊と国男はいつもの席に座ると、早速俊が話を切り出した。
「なぁ、さっさと見せろって」
「慌てるな、今見せてやる」
国男はニヤニヤしながらスクールバッグに手を突っ込み、文字がズラリと並べられ、その上に『リベンジャーズ』と大きく書かれた紙を取り出した。
「おお!」
一気に興奮した俊は、思わず大声を上げる。
間違いない、これは夢にまで見たリベンジャーズの試写会のチケットだ!
「スゲー!!お前これどこで手に入れたんだよ!」
「ふふっ。安心しろ、不正なことはしとらん。応募して普通に当たったのだ」
「マジか!」
国男は何かと危ない事をしているイメージがあったから、俊は何かしらの不正をして手に入れたと思ったのだろう。
「しかし、非常に残念なことにその日、俺はアメリカに行って直接鉄男と会う用事があってな。
これは貴様に譲ってやろう」
「マジでか!
お前最高かよ!!」
思わずさっきよりも大きな声を上げる俊。
それもそのはず。
俊は鉄男という映画の大ファンで、出る度に映画館に向かおうとするが、八種競技の練習と金の問題で毎回家のテレビで見ていたのだ。
リベンジャーズは『鉄男』の他にも『米国主任』などの他のヒーローも出てくると聞いて、俊はインターハイをサボったとしても行くつもりだったのだ。
「国男。お礼にラーメン奢らせろ!」
「当たり前だな。
それじゃあとんこつラーメンを…」
「500円しか持ってないから醤油ラーメンにしてくれ」
「…」
結局俊は金がなく、国男だけがラーメンを食べ、店を出て国男と別れた俊は、一人で帰るときも、リベンジャーズのことで頭がいっぱいだった。
(リベンジャーズかぁ…どんな映画になるんだろうなぁ…)
俊にとって、ヒーローは物心ついた頃からの憧れ。それを一般より先に映画館で見れるのは何よりの喜びだった。
「ん?」
俊は目の前の何かに気づき足を止める。
その何かは、白い四角の中に油を垂らしたかのような曲がった楕円形がいくつも散りばめられていた。
「対象ヲ検知シマシタ。転送ヲ開始シマス」
四角い光は片言で何かを言うと、光は目では捉えきれぬスピードで俊に向けて近づき、俊はあっという間にその光に飲み込まれてしまった。
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