第3話 スーパーエレクトロ君とキラキラエレクトロ先生

「でも、そもそも何で暴走してるんだ?」

「えぇと、よく分かんない。私も魔法を使うのって初めてだから」


 彼女はそう言うと申し訳なさそうにうつむいた。その態度からこの混乱を生み出した責任を少しは感じている事が分かって、健吾はりあを責められないでいた。

 仕方がないので、彼はそのまま話を進める。


「で、その被造物を生み出した作者達はどうなったんだ?」

「みんな驚いてすぐに逃げ出しちゃった。てへ」

「そ、そっか……。取り敢えず、まずはこの騒動を止めないと。出来るんだろ?」


 誤魔化すように笑う彼女に健吾は事態解決の方法を尋ねる。この場にわざわざやってきたと言う事は、その方法があるからだろうと、そう判断しての発言だった。

 問い詰められたりあは彼から顔をそらすと、言い辛そうに言葉を絞り出す。


「そ、それが……具現化したキャラは同じ具現化したキャラでないと止められないみたいなんだ」

「おいおい、何だよそれ……」


 彼女の口にしたその方法に健吾は言葉を失った。つまり、彼女が現場に戻ってきたのは、新たな創作者を見つけてその人のキャラを具現化させ、事態を収拾させようとしていたと言う事のようだったのだ。

 そんな魂胆が浮かび上がったところで、改めてりあが健吾に話しかける。


「ところで、健吾君は……」

「分かった、俺にその魔法を使え!」


 彼女の問いかけに健吾は意を決して訴える。この突然の告白に戸惑ったりあは思わず聞き返した。


「えっ?」

「言いたくなかったけど……誰にも内緒だぞ。実は俺もカクヨムに小説を投稿してるんだ」


 彼のそのカミングアウトにりあは動揺する。自ら秘密をバラした健吾も恥ずかしさから耳まで赤くなっていた。この告白によって微妙な空気が流れる中、彼女はずいっと身を乗り出して彼の至近距離まで顔を近付けると、鼻息を荒くしながら自身の興味を優先させる。


「な、なんて名前で?」

「名前とかどーでもいいだろ! 早く! このままじゃ学校がもっとおかしな事になっちまう!」


 健吾は頬を真っ赤に染めながら、やけくそ気味に叫んだ。その勢いに飲まれたりあはすぐにステッキを振りかぶる。


「わ、分かった! えいっ!」


 魔法をかけられた健吾の体から、細胞分裂するアメーバのように彼の創作キャラが作られていく。やがて姿が固定化された彼は開口一番、この世界に具現化出来た事を喜んだ。


「おおおっ! ここが神様の住む世界!」


 そのキャラに見覚えがあったのか、彼女はひと目見た瞬間に目を輝かせ、口に手を当てた。


「えっ? スーパーエレクトロ君!?」

「うん、そうだよ。でもよく分かったね」


 健吾の生み出したキャラは、名前を言い当てられて照れくさそうに鼻の下をこする。りあが一発で当てたこのスーパーエレクトロと言うのは彼が創作した小説キャラのヒーローで、名前の通りに光の速さで動き、電撃を必殺技にしているキャラだ。

 アメリカンヒーローっぽいタイトなスーツに身を包んで、実に頼りがいのありそうな作中小学五年生のショタキャラ。そう言う特徴があったから、彼女もすぐに見分けられたのだろう。


「て事は……もしかして健吾君は?」

「き、木下も読んでたのかよ。そうだよ、俺がキラキラエレクトロだよ! ハズいんだよこの名前!」


 健吾はキャラバレをしたと言う事で、観念して自分のHNをやけくそ気味に叫んだ。この名前を聞いたりあはパアアと頬を染め、声を弾ませながら彼の手をがっしりと掴む。


「先生! 作品、いつも楽しく拝見しています!」

(ふふ、りあ、良かったわね)


 彼女の喜びようにステッキも祝福する。そう、目の前の健吾ことHNキラキラエレクトロこそ、りあが探していた小説家の先生だったのだ。

 実際、プロではないので先生と表現するのも少々大袈裟な気もするけれど、彼女はネットに小説を投稿する人を分け隔てなく先生呼びする性格なので、そのままそれで押し通す事にする。


 ちなみに彼はカクヨムにこの小説1本しか投稿していない。連載話数は100話を超える長期連載作品で、総文字数は20万文字を超えていた。


 りあが浮かれている中、その雰囲気に馴染めない健吾は一向に話が進まない事でイライラして思わずまた叫んでいた。


「や、今そんな場合じゃねーだろ! これから何をしたらいいんだよ!」

「あ、そっか、ええとね……」


 この叫びで正気に戻った彼女は、生まれたばかりのエレクトロ君の顔をじっと見つめる。


「スーパーエレクトロ君、お願い、力を貸して!」


 りあは目の前の彼に事態を収拾するように懇願した。具体的に言えば、彼の必殺技を使って既に具現化している他の創作者のキャラ達を破壊して欲しいと頼んだのだ。

 彼女の話によれば、攻撃が当たれば具現化キャラは紙が燃えるように簡単に消滅するらしい。

 りあの話を聞いたエレクトロ君はドンと胸を叩いて、自慢げにこの頼みを聞き入れた。


「ああ、いいぜ! 任しときな!」

「良かった。俺のキャラは暴走してないな」


 この一連のやり取りを見ていた健吾は、自身の創作キャラが暴走していない事にホッと胸をなで下ろしていた。その理由について、彼女の握っていたステッキが意味ありげにつぶやく。


(ふふ、愛の力かしら?)

「な、何を……」


 そのつぶやきを聞いたりあは動揺する。つまり、彼女の本命キャラだったから暴走しなかったのではないかとステッキは推測した訳だ。

 そのやりとりを傍で聞いていた健吾は、思わず不思議そうな顔で聞き返す。


「愛?」

「えっ? ステッキの声が聞こえるの?」

「まあ、普通に聞けるけど……もしかして普通の人には聞こえないって言うアレ?」


 そう、彼もまたステッキの声を聞ける人間だった。自分以外にも聞ける人間が現れたと言う事で、またしてもりあは興奮する。


「すごい! これって奇跡だよ!」

「な、何言ってんだ?」


 彼女の興奮の理由の分からない健吾は再び困惑する。そんな人間達の混乱をよそに、スーパーエレクトロはまず自身の能力で空中に浮上すると、両手を水平に上げて技の構えを取った。

 こうして技の発動準備が出来たところで一旦まぶたを閉じ、それからタイミングよく見開いたと同時に大声で自身の必殺技を叫ぶ。


「スーパーエレクトリックサンダー!」


 彼の得意とするこの電撃技は、校庭で好き勝手に動き回る他の具現化キャラ全員を捉え、一瞬で全てを黒焦げにする。この一撃で暴走していた具現化キャラ達は例外なく全て一瞬で跡形もなく消滅してしまった。


「すごい、一瞬で……」


 この成果に見守っていた2人もポカーンと口を開けて呆気にとられてしまう。それほどまでにスーパーエレクトロの攻撃は凄まじかった。

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