第2話 混沌の校庭
「えぇと、それじゃあ、その元の持ち主が拾いに来るんじゃ?」
(来るかもしれないけど、来たとしてもずっと先の話よ。あの子ズボラだから)
「そ、そうなんだ。じゃあ持ち主が取りに来るまでは……」
(そ、あなたが私の持ち主よ。よろしくね、りあ)
「よ、よろしく……」
こうしてなし崩し的にりあは魔法の杖の持ち主に認定される。彼女もまた幼い頃に魔法少女とかに憧れたひとりであり、この状況に胸が踊らない訳がなかった。
ステッキは魔法を使いたがっているりあの感情を読み取って、早速好奇心たっぷりに話を持ちかける。
(それで何の魔法を使う? 私頑張っちゃうわよ)
「えっと、何でも出来るんだっけ?」
(そうよ、魔力容量次第だけど)
「容量次第かぁ……。むむむ……」
条件付きの魔法の発動に彼女は頭を悩ませる。そんなりあの態度に、ステッキは優しい声でささやくようにアドバイスをした。
(何も悩む必要なんてないわ。色々試してみればいいのよ)
「そっか、そうだよね」
(さあ、あなたの望みを言ってみて!)
「じゃあ、私の望みは……」
りあがステッキにそそのかされて魔法を使う決意をした数分後、ちょうど校庭に出てきた2人組の男子生徒の姿があった。ひとりは褐色の肌でガタイのいい如何にもなスポーツマン系で、もうひとりはどちらかと言うと文系っぽい雰囲気を漂わせているメガネ男子だ。
背はスポーツマン系の彼が170cmくらいで、文系の彼はそれより数センチほど低い。2人共顔面偏差値は平均より上くらいで、漫画で言えばギリモブ以上と言った雰囲気を漂わせている。
彼らも昼休みの暇潰しにブラブラしていたものの、校舎を歩いていても特に面白い出来事もなかった為、刺激を求めて校庭に出てきていたのだ。校庭に出た2人が目にしたものは、とても現実とは思えないものだった。
スポーツマン系の彼がその光景を見て驚いて大声を上げる。
「な……何だこりゃ? どうなってるんだ?」
校庭ではこの学校の生徒ではないアニメの登場人物のような服装の人物が複数現れていて、それぞれが好き勝手な事をしていた。
剣と盾を持ってウロウロしてしている者や、どう見てもバケモノみたいな巨大なモンスターや、女子を見れば即ナンパしている金髪イケメンや、厨二病まっしぐらなイカれた格好の少年などが、己の実力を誇示するように忙しなくパフォーマンスを繰り広げている。
その状況を一言で言い表すならば、まさに
「うわあっ! 健吾、助けてくれぇ~っ!」
健吾と呼ばれた文系男子生徒が振り返ると、一緒に歩いていたスポーツマン系の彼が上空のUFOに連れ去られていた。トラクタービームって言うのだろうか? 例の空飛ぶ円盤が物を吸い寄せる為に放つ謎の怪光線が、彼の友達だけを吸い上げていたのだ。
被害が身近で発生したこの状況に、文系男子生徒の健吾は理解が追いつかずに口をあんぐりと大きく開ける。
「え、ええ~……っ」
彼が立ち尽くしていたその時、その場所にステッキを握りしめたりあがやってきた。どうやら彼女はここまで走ってきたらしく、ハァハァと肩で息をしている。
「しまった、遅かった……」
「ええっと……木下……? ここは危ないよ、早く逃げないと!」
りあの接近に気が付いた健吾は彼女に声をかける。2人は同じクラスのクラスメイトだ。彼に声をかけられたりあは、何故自分がこの場に来たのかの説明をする。
「あの……こうなったのは私のせいなの」
「は?」
全く話が見えないこの展開に、健吾の頭の中でははてなマークが大量生産されていた。
話は彼女がステッキの話を受け入れた数分前に遡る――。
「私の望み……そうだ! 私、会いたい人がいるんだけど……」
(おや? りあの好きな相手かい?)
「そ、そんなんじゃ……」
(詳しく話しておくれよ。その事情によって使う魔法の種類も変わってくるからさ)
話を急かされたりあはしばらく恥ずかしがっていたものの、少しずつ何故その人物を探し出したいのかと言う理由を話し始めた。
「私、カクヨムで小説を書いているんだけど、最近気になる先生が出来たの」
(へぇ、青春じゃないか)
「で、その先生の作品も当然好きなんだけど、先生のツイッターとかを読んでいたら、同じ街に住んでいて同じ学校の同じ学年だって事まで分かったの」
(へぇ、じゃあ普段から会ってる誰かなのかもねぇ)
ステッキは彼女の話を聞きながら嬉しそうに相槌を打つ。話は徐々に核心に近付き、りあはステッキに懇願した。
「だから、もしリアルで会えるなら実際に会って色々話とかしたいじゃない。だから協力して!」
(分かった! それじゃあ私が一肌脱いであげるよ!)
こうして魔法を使った彼女の気になる先生探しが始まった。りあは魔法のステッキを握りしめて、校庭を歩く生徒達に魔法をかけ始める。その魔法を使った結果、校庭は次第に
「……と、言う訳なんだ」
「ちょっと待って、最後の方ちょっと意味が分からない。何故その作者を探す魔法がこんな結果に?」
ずっと黙って彼女の話を聞いていた健吾は、話の最後で自分の理解を超えてしまい、軽く混乱していた。追加の説明を求められたりあは素直にその言葉に従う。
「この魔法は創作者にだけ反応するの。私がステッキを振れば創作者が一番強くイメージするキャラが具現化されるんだよね。だから、私の好きな先生に魔法を使えば、先生のキャラが具現化して答え合わせが出来るって訳」
「またどうしてそんな面倒な魔法を……本人を見つけたいなら召喚するとかでいいじゃねーか」
「だって、召喚だと一回で終わってつまらないじゃない。折角魔法使いになれたのに」
「お、おう?」
混乱の理由はその説明で分かったものの、その動機がまたしても彼の理解の範疇を超えていて思わずドン引きする。何か誤解をされているような雰囲気を感じた彼女は夢が叶った素晴らしさを力説する。
「折角魔法が使えるんだから、使うなら魔法使いらしい事がしたくなるでしょ? ほら、作者の創造したキャラが具現化するって素敵じゃない?」
その言葉の圧に圧倒された健吾はしばらく返す言葉を失っていた。それでも何とか会話を進めようと話の糸口を探す。
「ま、まぁ、確かに夢ではあるかな。……で、見つかったのか?」
「まだ見つかってない。まさか、学校の中にこんなに創作が趣味の人がいるだなんて……」
りあの使った魔法は創作者にしか通じない。つまりこの混乱は創作者がそれだけいる事の裏返しでもあった。ここまで話を聞いていた彼の中に、ひとつの疑問が浮かび上がる。
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