りあの魔法な昼休み ~空から落ちてきたステッキを振って望みを叶えようとしたら大変な事になってしまったんだけど!~

にゃべ♪

第1話 空からステッキが落ちてきた!

 木下りあは少し妄想癖の激しい中学2年生。背の高さはクラスの女子の中で真ん中くらい。勉強も運動もそこそこで、趣味は小説を書く事。クラスメイト、いや、リアルの関係者には全員秘密にしているけれど、実は彼女はネット小説の投稿サイト、カクヨムに自作の小説を投稿していた。


 カクヨム内での人気はそこそこで、書くジャンルは短編のラブコメが中心。流行りのテンプレ異世界転生モノの長編も1本書いたりしている。その作品は最終更新から2ヶ月が過ぎてエタりかけているけど……。


 と、言う訳で、ネット上ではそれになりに知り合いも多く、会話が弾んだりもしているけれど、リアルの彼女はどちらかと言うとぼっちだった。暇があるとすぐにスマホで小説を読んだり書いたりしていたので、リアルの友人を作る暇がなかったのだ。


 だから嫌われてぼっちと言う訳ではないし、話しかけてくるクラスメイトが全然いない訳でもない。

 それでもやはり基本的に彼女はひとりでいる事が好きで、休み時間とかはひとりでいる事が多かった。


 ある日、りあが昼休みに何となく校庭を歩いていると、空から何かが落ちてきた。その何かはピンポイントで彼女の頭に直撃する。


「いてっ」


 その当たった何かはりあの頭でバウンドした後、そのままストンと地面に落ちた。彼女は頭をさすりながら、その落ちてきた物を確認しようとしゃがみ込む。


「ん、何これ?」


 それは女児用の魔法のステッキ――のようなものだった。どうしてそんなものが何もない空の上から落ちてきたのかサッパリ分からなかったものの、興味を持ったりあは迷いなく拾い上げて、まじまじとそれを観察する。

 材質はどこからどう見ても安っぽいプラスチックで、頭頂部にセットされている緑色の宝石も何となく模造品っぽい。どこからどう見ても玩具の魔法の杖だった。


 ステッキを握ってみて幼い頃を思い出したりあは、試しに魔法を使う体でそのステッキを振ってみる。


「えいっ」

(あら、はじめまして)


 彼女がステッキを振ったその時だった。ここで突然ステッキから挨拶される。こんな展開は全く想定していなかったため、りあは腰を抜かすほど驚いてしまった。


「うわああああああ! シャベッタァァァァ!」

(あらあらあら、元気ねえ)


 混乱して取り乱す彼女に対して、ステッキの方は我関せずと言った感じで超然としている。混乱したりあは思わすステッキをぶん投げた。


「てぇーい!」


 投げられたステッキは見事な放物線を描いて、そのまザスッと言う音を立てて見事に校庭の植木に突き刺さる。

 こうしてステッキを拾った事を彼女はなかった事にした。


「ヤバイヤバイ……何あれ……」

 

 流石のステッキもこの扱いにはご立腹だったようで、プンプンと怒りの感情を露わにする。


(ちょっと! 乱暴に扱わないで!)


 その反応に少し興味を抱いた彼女は、刺さったステッキを引っこ抜いてもう一度まじまじと観察した。市販の女児用の玩具にしてはどこにもシール的なものは貼られていなくて、安っぽい中にもどこか不思議な本格感が漂っている。

 それに、喋る機能が内蔵されているにしては、どこにも電池を入れる仕掛けが見当たらない。


「えっと……。これ本当に喋ってるの? プログラムされたとかじゃなくて……?」

(失礼ね! ちゃんと意思はあるわ! 魔法のステッキ舐めんな!)


 プログラムとは思えないその生の反応が怖くなったりあは、そっと地面にこのステッキを置いて、そのまま知らない振りをして現場を立ち去った。


「……」

(ちょ、捨てないでよ! 折角適合者に出会えたのに!)


 踵を返して3歩進んだところで、このステッキの意味ありげな言葉が耳に届き、彼女は膨れ上がる好奇心に逆らえず思わず振り返る。


「適合者?」

(私は魔法の国で作られた魔法のステッキなの。あなたには素質があるわ、私を使いこなせるはずよ)


 元々妄想癖の激しいりあは、魔法を使えると言うこの魅惑のワードに心を奪われてしまう。そうしてもう一度ステッキを拾うと改めて問いかけた。


「あなたを振れば魔法が使えるの?」

(使えるわよ。あなたの望みもきっと叶えてあげられる。あなたの内蔵魔力次第だけど)


 ステッキを握ってじっと見つめながら、彼女はステッキの言う魔法の条件について首を傾げる。


「どう言う事?」

(私は魔法を出力出来るけれど、それは使用者の魔力量に依存するの)

「ああ、私が電池みたいなものなのね。そっか、私、魔力があったんだ」


 ステッキの説明に納得が行ってひとりうんうんとうなずいていると、今度はステッキ側からりあに話しかけてきた。


(どう? あなた……えぇと……)

「えと、名前? 私はりあ。木下りあ」

(りあね、わかった。りあ、あなた魔法使いにならない?)

「ええーっ!」


 ステッキ側からのこの素敵なお誘いに彼女が驚いていると、周りにいた生徒達から怪訝な顔で見られている事に気が付いた。この事態に、りあはキョロキョロと周りを見渡して自分が今置かれている状況を整理する。


「ええっと……?」

(あ、私の声は適合したあなたにしか聞こえてないから)

「い、今頃言わないでよーっ!」


 その言葉に、周りからはずっとステッキを握って独り言を言っている痛い子状態だったと知ったりあは、恥ずかしさで一気に顔を赤らめる。よく見ればあちこちでひそひそ話が聞こえているような気もする。

 妄想癖の激しい彼女は、一度被害妄想に取り憑かれると歯止めが効かなくなるのだ。


 こうしてその場にいられなくなったりあは、一目散に走って人気のない所を目指した。定番の体育館裏まで走ってやっと落ち着いた彼女は、改めてステッキに質問する。


「ステッキさん、あなたはどうして空から降ってきたの?」

(私の元の持ち主ね、いたずら好きの女の子なんだけど、背格好はそうね、りあと同じくらいよ。あ、だから適合したのかしら?)

「いや、余計な話はいいから」


 話が脱線するのを好まないりあは、ステッキの無駄話を冷徹な口調で止めた。話を止められたステッキは少し不満気味になったものの、仕方なくリクエスト通りに話の続きを語り始める。


(もう、せっかちね。その子、マイルって言うんだけど、ある日、悪戯が過ぎて私を没収されそうになったのよ。それで焦った彼女が思わずぽいっと投げ飛ばした時に、ちょうど次元の穴が開いていたって訳)

「次元の穴?」

(結構頻繁に開くのよ。普通の人には見えないんだけど)


 ステッキの話によれば、元の持ち主がステッキを投げたら次元の穴を通ってりあの頭上に落ちてきたと、どうやらそう言う事らしい。

 こうして事情が分かったところで、彼女はステッキに気になった事を話しかける。

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