第4話 突然の乱入者
作中の彼もかなりのチート設定だったものの、それが具現化した事で更にそのチートっぷりが強調されたようだった。
「あ、そういや達也……」
全てのキャラが消失したと言う事で、健吾はついさっき吸い上げられた友人の事を思い出す。次の瞬間、空からその友人が落ちてきた。落下に気付いたスーパーエレクトロは彼を空中で優しく受け止め、その状態で健吾のもとに降り立った。
「気を失ってる。ちょうど良かった」
吸い上げられていた達也はUFOが消滅したショックで都合よく気を失っている。健吾はその後の対処を求めるスーパーエレクトロに向かってニッコリ笑いかけ、よくやったと頭を撫でると、抱きかかえている彼への対応を指示した。
「ありがとな。それじゃあ今度は達也を安全なところに寝かしておいてくれ」
「任しとけ!」
指示を受けた彼は、達也を抱きかかえたまま学校の保健室に向かって飛んでいく。昼休みは確か保健の先生はいないはず。誰もいない保健室のベッドにこっそり寝かすだけなら、創作キャラが行っても特に混乱は起こさないだろう。
こうして創作キャラ暴走事件はめでたく一件落着した。
最初の内こそ静寂の戻った校庭で2人は喜び合っていたものの、段々落ち着いてきたところで健吾の頭の中にひとつの疑問が浮かんでくる。
「なぁ、これからどうするんだ? 他のキャラはいなくなったけど、俺のキャラはずっとあのままなのか?」
「えぇっと……」
正直な所、りあはその後の事を何も考えていなかった。憧れの先生を見つけたいと言う願いは叶ったものの、そのために具現化してしまった彼の被造物をどうするか、それは今後の大きな課題となる。腕を組みながら返答に困った彼女が首を傾げていると、保健室から戻った問題の彼が指示を完了した事を報告するために2人の側に戻ってきていた。
「ちゃんと保健室に寝かせてきたぞ」
「ああ、サンキュ」
健吾がスーパーエレクトロに労いの言葉をかけていた、その次の瞬間だった。突然何処かから現れた少女が、りあの持つステッキを強引に力技で奪い去ってしまう。
「見つけた! 返してもらうわよ!」
(ちょ、マイル! まだ待って!)
ステッキのその叫び声から、その少女がこのステッキの元の持ち主のマイルだと言う事が判明した。マイルはステッキの言うように、りあと背格好も同じなら顔までもそっくりで、まるで生き写しのようだった。違うのは緑色の髪の毛とファンシーな服装くらいだろう。
この突然の乱入者の登場に、りあと健吾は驚いて一言も口が聞けなかった。
奇妙な静寂が場を包んだところで突然不気味な叫び声が轟き、それが2人を正気に戻す。
「ふごおおおおおおおおお!」
「な、なんだ?」
この突然の異常事態に2人はキョロキョロと周りを見渡した。そうしてすぐにりあがその叫び声の発生源を突き止める。
「スーパーエレクトロ君が……」
そう、その叫び声はスーパーエレクトロが発したものだったのだ。さっきまで暴走せずにまともだったのに何故? この状況に対して、ステッキを奪い去った当人がキョトンとした顔でりあに話しかける。
「あ、もしかしてまだ魔法使ってた?」
「ど、どう言う事?」
その質問の意図が分からなかった彼女はマイルに聞き返した。りあの反応にすべてを察したマイルは、大きなため息をひとつ吐き出す。
「ひとつの魔法を完全に使い終わる前にステッキの持ち主が変わったらいけないんだよ。もし途中で変わったら……」
「だから、暴走したのか……」
話を聞いていた健吾がそこで暴走の理由に気付き、2人の会話に割り込んだ。ステッキを奪われたりあにこの状況に対処する術はない。
なので、彼女は現在のステッキの所持者であるマイルに助けを求めた。
「マイル!あなたステッキの元の持ち主でしょう! 助けて!」
「えー……面倒くさい……」
この突然の頼み事にマイルは露骨に嫌な顔をする。彼女にしてみれば、勝手にステッキを使われたのだから勝手にすればと言う感情だったのだろう。
状況もしっかり把握せずに自分の都合だけでステッキを奪った結果こうなってしまったのに、それを棚に上げて知らんぷりをする彼女の身勝手な態度に健吾は腹を立てて抗議する。
「何言ってんだ、お前がステッキを奪わなきゃ……」
「分かった分かった。じゃああんた達、私が力を貸すからアイツを倒しておいで」
「……って、どう言う……?」
その言葉にりあが戸惑っていると、マイルはおもむろにステッキを振りかぶり、勢い良く振り下ろした。
「問答無用! てーっ!」
次の瞬間、りあと健吾の2人は彼女の魔法にかかり、アニメのコスプレでありがちな魔法戦士のバトルコスチュームに変身する。健吾はシュッとした紫を基調としたそれっぽいロングコート姿で、りあはカラフルでフリフリのアイドルっぽい衣装と、実に対照的な服装だ。
この突然の変身に2人共大いに戸惑ってしまった。
「何だこれ?」
「わ、私も……」
無事に魔法がかかった事で、マイルはニンマリと自己満足の笑みを浮かべる。それからすぐに体のあちこちを眺めて変化の度合いを確認している2人に、威勢のいい声で発破をかけた。
「今からあんた達2人は魔法戦士だよ! 早く行ってあの暴走キャラを止めてらっしゃい! 時間がないよ!」
「時間がない?」
気になる言葉を耳にして思わず健吾は聞き返す。マイルは両手を腰に当ててため息を吐き出すと軽く頭を振り、今の状況の説明をした。
「あの子、暴走のせいで急激に黒くなってるだろ? あれが完全に真っ黒になったら爆発するから。そうなったらこの辺り一帯は軽く吹っ飛ぶよ」
「な、それを早く言えーっ!」
自分の創作キャラがこのままだと恐ろしい威力の爆弾と化してしまう――彼女の口から語られたこの真実に彼は大声を上げる。こうしている間にも暴走を始めたスーパーエレクトロは徐々に体を黒く変色させ続けていた。
「ふおおおおおおおお!」
状況が切迫しているのはさっきの説明で分かったものの、具体的にどう対応していいのかはさっぱり分からない。タイミリミットが迫る中、焦るばかりで全く答えが導き出せないりあはドヤ顔のマイルに必死に助言を求める。
「でも、止めるってどうやって……」
「あんた達が思うようにやればいいんだよ。そう思えばそう動けるから」
懇願する彼女に対して、マイルは突き放すようにぶっきらぼうに適当っぽい回答をよこす。つまりそれは正しい回答など存在しない事を意味していた。
オロオロするりあに対して、少しでも早くこの事態を収拾したい健吾は彼女の肩に手を置いて説得するように言葉をかける。
「木下、いいからやろう! きっと出来る、俺達なら!」
「う、うん!」
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