1-11 戦闘開始

3人が戦い始めたのか森の静かな空気を穏やかならない音が駆け抜ける。

皐月は離れすぎずかつ安全な場所を見つけ、ソワソワしながら隠れるように座っていた。


「戦えないとはいえ、俺はこれでいいのか。・・・ハァ、とはいってもな」


すぐそこでは先程自分を襲った化物と女の子2人、それに自分より年下の男の子が戦っている。我ながら1人だけ安全な所へ隠れて情けないと思う。そしてさっきは結局迷惑をかけてしまった。なんとか自分でも役に立つ方法を探したいと思い悩む。しかし自分はこの世界の住人と違い魔法が使えるわけでも武器が扱える訳でもない。あいにく生まれてこの方武術に手を出したことはなく中学、高校、大学と文化部だ。


「何か、何かないか。武力を使わずに今役に立つ方法。」


皐月は腕を組み集中すると今一度敵の姿をしっかり捉えるために木陰から少し顔を出し、戦闘中の様子を伺った。


ーーーーーーーーーーーーーーー


「やあああっっ!」


敵が振り下ろした植物の塊で出来た腕をリルは軽く剣で切り落とす。

切り落とされた塊は地面に落ちるとただの絡まった植物へと姿を戻す。木の魔物はそれが切り落とされるとまたすぐにメキメキと身体から腕のようなものを伸ばし攻撃に転じてきた。

先程からそれの繰り返しだ。


「何度切り落としても生えてくるわ。これじゃキリがないわね。」


その動作の繰り返しはリルの体力を確実に、着実に削っていた。

木の魔物の攻撃速度は遅いが、その再生能力はすこぶる速い。どこにどんな攻撃を加えてもすぐに再生してしまう。


「何か弱点とかがわかればまた状況も変わるのですが〜」


リルが木の魔物の腕を切り落とし続けている間、ミカゲは魔物のあらゆる箇所に打撃を加えていた。何か弱点があればと思っていたがどこに攻撃しても傷ついてはすぐ再生するの繰り返しであった。


「ううう、私は魔法苦手でして・・・お役に立てず、すみませんです〜」


「そんなことないわ!それなら、よいしょ、この攻撃を防ぐの手伝ってもらえるかしら!」


「はい!」


ミカゲは弱点探しをやめるとリルが斬撃を繰り出しやすいように腕の攻撃をいなすことに徹し始めた。しかしこのままでは体力に限界があるリル達が不利になっていく一方だ。


「姉ちゃん!ミカゲさん!一瞬だけそこの軌道あけて!」


今までどこかに身を潜めていたメリが木々の隙間から飛び出し、掌を木の魔物へ向ける。そしてーー


「ウェルフレイア!!」


メリから魔物に一直線に炎の線が描かれた。魔物は炎を避けるため攻撃の直線上から外れようと動く。


「逃がさないぜ。」


メリが手に持っていたロープを引っ張るといつの間にか木の魔物の回りに張り巡らせられていたロープが引き締まり魔物の動きが封じられた。メリの姿が先程から見えなかったのはこれを仕掛けていたからだったようだ。

魔法が標的に直撃する。


「よっしゃ!当たった!」


魔物は動けないまま魔法の炎でその身を燃え上がらせた。


「げっ」


しかしよく見ると燃え上がったように見えたのは魔物の身を拘束していたロープだけだった。当の魔物は焼け焦げひとつなく。メリの攻撃は自分で拘束した魔物を解放するという残念な結果に終わった。


「ウェルアクオ!!」


「ウェルサンドラ!!」


続けざまに水系魔法と電撃魔法を打ち込むが魔物にはやはりダメージをおった様子は見受けられ無かった。よく見ると大量の水がかかったにも関わらず濡れてすらいない。魔物はケロッとした様子で間髪入れずにまた単調な攻撃を続けてくる。今度は3人でそれに対処する。しかし、やはりキリがない。


「魔法すら効かないなんて逃げるしかないじゃないですか〜。」


「もう俺は打つ手ないぜ。」


「木の魔物でこんな強いのはいないはずよ。」


3人は何をしても無駄な魔物に戦意を喪失しかけていた。出せるだけの手は出したつもりだ。


「でもこいつかなり速いし逃げるにしたって・・・」


「さっきみたいにロープで一旦足止めできないの、メリ!?」


「・・・それが、あれ使い回してたのに燃やしちゃって・・・」


「もう!馬鹿!」


「しょうがないじゃん!俺はあれで倒せると思ってたし!」


「姉弟喧嘩しないでください〜!」


先程から繰り返しの攻防戦がダラダラと続いている。戦線離脱も試みたがすぐに追いつかれて単調な攻防戦がスタートしてしまい膠着状態が続いた。


「もーーっ!!」


リルが何百回切り落としたかわからない魔物の腕を乱暴に切り落とす。体力の限界が近づいてきたのか息が上がり険しい表情を見せていた。それはミカゲもメリも同じだった。


「くそっ!なんとかこの状態を変えないと・・・このままじゃこっちがっ・・・」


「足元が草で埋まってきて動きにくいです〜!」


切り落とされた植物の塊は積み重なってリル達の移動の邪魔をする。何度も足をもつれさせたり滑りそうになりながらなんとか攻撃を凌いでいた。


「あの!二人ともちょっといいでしょうか・・・」


「なに!?ミカゲ!ごめんなさい、手短にお願い!」


「なんだか足が動かないと思ったら、この足元の植物が自分で動いて足に絡みついてますう!」


「うわっ、ほんとだ!」


足元に積み重なった植物の塊は意思を持ったかのようにウネウネと動いて3人の動きを制限していく。足からのぼりどんどん上へと侵食し身体の動きを奪う算段だろうか。


「これもっ切っても、切っても絡んでくるわ!」


「ひゃっ・・・!」


ミカゲが体制を崩すと地面に着いたところから植物が這い上がり、腕や首に絡みつく。


「振りほどけません〜!」


「ミカゲさん!くっ、助けに行けない。」


ミカゲが苦しそうにもがくがメリもリルも動けない。その間にも攻撃は止まない。

次第に2人の動きも鈍くなり始め。


「・・・っ!」


攻撃を防ぐことが叶わなくなり。受け止められない打撃が襲う。

目をつぶり顔を庇うように手を上にあげ、衝撃に備える。


「・・・あら?」


リルがそっと顔を上げると、敵は攻撃をやめジタバタと唸り声をあげながらもがいていた。


「何をしているの?・・・!?」


よく見ると敵の背中側から煙が出ている。


「火?あれ、火がついてる!さっき俺の魔法でつかなかったのになんで・・・」


火は魔物の努力も虚しく、もがく度にどんどん燃え広がってゆく。特に激しく燃えたのは地面に切り落とされた枯れ草、枯れ木だ。みるみるうちに広がり高く、広く侵食していく。


「これ・・・私たちもちょっと危ないのでは〜?」


ミカゲが少し冷や汗をかきながらまったりとそう問う。


「・・・ちょっとじゃなくてかなりやばいぜミカゲさん!!」


「私達もよ!これ・・・よっっいしょっと、早く外さなきゃ!」


火の手が迫る中、身動きの取れない3人は必死にもがく。3人の動きに答え先程より絡む力の衰えた植物の塊は少しずつ緩んでいく。


「今手伝う!!」


「サツキ!!」


そこに魔物の後方から皐月が慌てて走ってきた。1番身動きの取れないミカゲから絡む植物を取り除くのを手伝う。


「ありがとうございます〜。サツキさん」


外からの力が加わると案外簡単に植物ははずれた。

ミカゲが自由になると今度はそれぞれリルとメリの植物をはずす。


「ありがとう!助かったわ。急いでそばを離れましょう。」


「ありが・・・熱っ。ほんとに燃え広がるの早いから早く逃げようぜ。」


四人は走って安全圏まで逃げると魔物が燃え盛る様を見つめていた。

火のせいか先程まで濃くかかっていた霧も薄くなっている。


「それにしてもどうして突然燃えたのかしら?」


「あぁ、それはこれだ。」


「サツキ、それなんだ?」


皐月がポケットから取り出したのは小さな1本の棒。その先端は赤く塗られている。いわゆるーー


「マッチだ。」


「マッチ?ですか〜?初耳です〜。」


「これは火をつける道具で先端を擦ると火がつくようになってる。あ、俺の村の特産品で!」


説明の後、誤魔化すように設定をつけた。怪しまれないだろうか。


「見たことない魔法道具だわ!こんなに小さいのにあれだけの火をつける魔力をしまっておけているなんて。火をつけるものは確かに見た事あるけど結構大きいもの。」


「ま、まぁな。うちの村には特殊な技術がさ。はは・・・」


「すっげえ!今度サツキの村行ってみたい!」


「機会があれば。来ればいい・・・と思う。」


メリがきらきらした目でこちらを見ているのが心苦しい。自分の村が誤魔化す度、必要以上にすごい村になっていく。名もない村最強すぎる・・・。


何はともあれ持っていたマッチが戦いで役に立つとは思ってもみなかった。

この世界に来た原因でもある物だから少し複雑ではあるが。

皐月は持っていたマッチを見つめ、少し口を尖らせると鼻で軽くため息をついてそれをポッケにしまい込んだ。

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