1-12 灼熱と決戦と

「それにしても。魔法攻撃が通らないなら魔法道具の攻撃も通らないはずなのに。どうしてサツキの攻撃は効いたのかしら?」


「それは多分この道具が魔法じゃなく物理的な火を産むものだからかな。」


「物理的?」


「リルが剣で敵の腕を切り落としてただろ?言ってしまえばあれと同じ攻撃ってこと。」


そう、皐月がリル達の戦闘を見て気づいたことは単純だが魔法攻撃は通らず物理的な攻撃は通っていた、ということだ。

すぐ再生するとしても再生速度を追い越すスピードで本体を破壊したならどうだろうか。そんな速く強い攻撃を繰り出すことは皐月には出来ない。

では、どうするべきか。考えながらポッケに手を突っ込んだ時。これがあったのだ。


「幸い枯れ草が足元に沢山散らばってたからそこからこっそり火をつけることが出来たんだけど。魔物の後ろにまわって3人が見えない間にみんなが枯れ草に絡まれてるとは思わなくてさ。ほんとごめん。」


「結果オーライですから大丈夫ですよ〜!」


「でも死ぬかと思ったぜ。」


ミカゲが両手を顔の横でGoodのポーズにして皐月に笑いかける。

メリは自分の胸を撫で下ろし安堵のため息をついていた。


「サツキ、隠れててって言ったのに!・・・って言いたいところだけど。そんなこと言ってる場合ではないわね、本当にありがとう。貴方は命の恩人よ。」


リルが笑顔プラス上目遣いで皐月にお辞儀をする。満点に可愛い。


「それはお互い様ってところだよ。巻き込みそうになったし、昨日の恩返しには程遠いけど。」



「サツキは善い人だわ。旅していると色んな人に出会うけれど、サツキみたいな人には中々出会わなかったもの。不思議でとても優しい人なのね。お家にいた時は分からなかったけれど無償の優しさを与えるってとても難しいことみたい。」


旅をしている間に色々と苦労があったのだろう。少し眉をひそめリルが苦笑いしながらそう言った。

今回皐月は無償の優しさで助けた訳では無い。命の恩人だから助けたのだ。きっと知らない人達が襲われているのを見れば見て見ぬふりをして去っただろう。


「善い人なんかじゃ・・・」


「見ず知らずの人でもサツキはきっと助けたわ?」


優しく笑うリルに反して皐月は少し悲しそうな顔をする。自分の複雑な気持ちに整理がつけられない。


「でも俺はーー」


不安げに開いた唇から漏れた言葉は。森に突如吹いた突風にかき消された。


ーーザァァァァァァァァ


風は木々を揺らし激しく音を立てる。


「ーっ、すごい風!」


枯れ草や先程燃えた灰が飛び、目が開けられない。


「やっとおさまりました〜。あら、明るいです〜」


風が収まると今まで暗い森を覆っていた霧が晴れ、森全体に光が差していた。


「霧が晴れたんだ!」


メリが嬉しそうに空を見上げる。木々の隙間から見える青空が全員に安堵をもたらした。



「いやああン!最悪なのン!アタシのウィースレッドウッドちゃんが!せっかくいっぱい食べて育ってくれてたなのにン!」


「!?」


突然後方から甲高い声が響き渡る。声のするほうを向くとクリクリした目に少し涙を浮かべ地団駄を踏む少女がこちらを睨めつけている。整った顔立ちにふわふわ巻いた緑の髪の毛。一瞬見とれてしまうーー


「サツキ!下がって!その子・・・魔族だわ!」



「酷いお姉ちゃん達にはお仕置きが必要なのン!」


リルが叫ぶのと同時に動いた少女の視線は確かにリルを捉えていた。しかし、その掌から放たれた炎は悲しいかな無力な皐月に向かう。

先程のメリの魔法より遥かに大きな炎は皐月に向かい一直線に飛んでいった。


「アクオブラスト!!」


メリが炎の攻撃を相殺するように水魔法で対抗する。しかし一瞬でメリの魔法が蒸発し炎は勢いを落とすことなく皐月へと到達した。


「・・・ぁ・・・っ!!」


声にならない声を出して皐月の体は炎に飲まれ、衝撃とともに後方に吹き飛ぶ。自分の身に何が起こっているのかーー何もわからない。


「サツキ!!」


悲痛な叫びが森に響き渡る。

あの業火で焼かれればきっとーー

あの距離であれば3人の内、誰もが皐月を庇うことが出来た、魔法による防御が使える3人ならば無傷とは 行かないまでもある程度防ぐことか出来ただろう。

動けなかったのは。


「くそっ!またこの植物!」


全員の足を絡めとりその動きを封じていたのは地面から生えた丈夫な木の根。

焦って動けばその分だけ余計に絡みつく。



「えっへへン、この世にある形ある全てのものはアタシの可愛いお人形さン!みーンなアタシの味方なのン。」


一見すると無邪気に笑う愛らしい少女は嬉しそうにそう言い、得意気に3人を見据えている。


「ーーゲホッ!ったた、死ぬかと思った、、」


「・・・!サツキ!良かったわ!無事なのね。」


「無事ではないけど、死んでない。」


皐月は尻についた土を払い、体を打った痛みに顔を歪めながら立ち上がる。


「な、なンで!消し炭にしたはずなのン。防ぐ暇もなかったでしょン?!」


「いや、俺に聞かれても、、」


少女は余裕な顔から一変、目をヒクつかせて引き気味に皐月を見る。


「お前なにも・・・ンっ!」


少女の一瞬の動揺に生じた隙は3人を束縛から放つのには充分すぎた。

3方向からの攻撃を上に飛ぶことで回避した少女は華麗に身を翻し木の枝に着地する。


「なんなのン。気味が悪い。まぁ今回はいいのン。いまお前達に割いてる時間はないのン。でもウッドちゃんの恨みは忘れないのン・・・」


少女は木の上から目を細め一行を見渡すと捨て台詞のようにそう言い放つ。


「のんのん煩いですね〜。一方的にそちらこそなんなのですか〜?逃げるのですか?」


今まで黙っていたミカゲが突然挑発的な態度をみせる。

一瞬ぶれたミカゲの手から何かが放たれ、少女に向かって飛ぶ。


「あぁン?逃げるんじゃない!見逃してやるのン!口に気をつけるのン!」


少女が明らかにイラついた様子で乱暴に木を叩くと、意志を持ったように木の枝が動きミカゲの投げた物を弾く。


「・・・お前の顔は、いっちばンよく覚えたのン。よく見ると嫌いな奴によく似た忌々しい顔なのン。」


少女は唇をギリっと噛み締めると軽く手を挙げた。

一同は攻撃が来ると踏んで構えたが、少女の周りの空気が一瞬揺らいだかと思うとその姿は跡形もなく消え去った。

とりあえず敵はいなくなったようだとそれぞれ構えた武器を下ろす。


「どうしちゃったんだよミカゲさん。らしくないぜ。」


予想外の言動、行動をとったミカゲに視線が集まる。


「すみません、みんなを危険に晒すような行動をとってしまって〜。なんというか余裕が無さそうだったんです〜、あの子。今戦うのは避けたいようにみえたから叩くならいまかなって〜。」


「私もそう見えたわ。ミカゲの判断は間違ってない。そ、れ、よ、り、も!」


リルが勢いよく皐月の方に向き直る。皐月の目の前までづかづかと歩いていくと、思慮深い顔でフムフムと唸りながら皐月の全身をペタペタ触った。


「ちょ、え、リル?」


「姉ちゃん、それはサツキも困るだろ。」


困る皐月とメリの言葉にもおかまいなしにリルは皐月の周りをクルクル周り、眉をひそめ考える。


「尻もちついただけでほぼ無傷じゃない。サツキすごい防御魔法が使えるのね。」


「俺、防御魔法なんて使ってない!一瞬熱くて、後ろに吹っ飛んで驚いて、尻もちついて・・・よくわかんないけど炎が消えてたし。特に怪我も・・・」


皐月は自分に何が起きたのか考えても理解できなかった。3人の様子からして誰かが皐月を助けたわけでもなさそうだ。


「本当に何ともないんですか〜?サツキさん。それならそれでいいんですけど〜」


「あぁ、ほんとに特になんとも・・・ん、待って、あれ暑い・・・熱いっ!なんかこう、内蔵というか内側からすごいあっつい!」


皐月の顔はみるみるうちに真っ赤に染まり大量の汗が流れ落ちた。耐え難い暑さに着ていた白衣を脱ぎ息を上がらせる。


「サツキ?大丈夫かよ!いきなりどうしたんだ。ーーあっつ!」


皐月の肩に手を置いたメリが反射的に手を離す。


「もしかしてさっきの攻撃は遅効性のものだったのかしら!?」


「いえ、それだとおかしいですよ〜!だってさっきのあの子消し炭にしたはずなのにって驚いてましたから〜!とにかくサツキさんどうしたら・・・」


皐月のただならぬ事態に全員が狼狽えている間にも、皐月の息は益々浅く速くなる。


「そうだわ、氷。氷魔法!」


そう言って皐月にむかってリルが手を構えたその瞬間ーー


「ハッ・・・クッシュッン!」


「げっ!」


突然のくしゃみと共に皐月の全身から炎が噴き出す。その勢いは先程の少女の攻撃よりも増してみえた。


「アイ・・・ガレッドウォールっ!!」


リルは氷魔法を放とうとしていた構えから咄嗟に防御魔法の構えに変更し全力で防御に徹する。

皐月の全身から放たれた炎は皐月を中心に円状に広がり周囲の樹木を激しく燃やす。

数秒ほどだろうか、激しい炎の噴出が終わるとその中心には気まずそうな顔をした皐月だけが残っていた。


「すっ・・・きりしたけど。なんか・・・ごめん。」


自分の周辺の焼け野原具合に驚き。森にもリル達にも被害を与えたことに 皐月の豆腐メンタルは罪悪感に押しつぶされそうになっていた。それ以上に何が自分の身に起こったのかわからずに疑問符ばかりが頭に浮かぶが・・・


「ふうぅぅ。なんとか防げたわ。サツキ・・・大丈夫?かしら。」


「すっーーげえ!サツキ!無詠唱で上級魔法だせんのかよ!」


額に汗を浮かべ心配そうにこちらを伺うリルと。目をキラキラさせるメリに少しだけ皐月の心は軽くなる。ミカゲも心配そうにこちらを見ていた。


「これは本当にどういうことだろうか、、」



ーー皐月の突然の発火により生まれた焼け野原が、後々近隣の街のフェス会場になったのはまた後のお話。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る