1-8 新しい朝へ

ミカゲと話してひと段落ついた頃には空はすっかりオレンジ色に染まっていた。


「今日はひとまず宿に入りましょうか。」


リルの一言でとりあえず宿を探し、丁度今それぞれの部屋に腰を落ち着けた所だ。


「はぁ、サツキのおかげで姉ちゃんと部屋別れられて良かったぜ」


「あぁ、そうか二人旅の時は一緒だったのか」


「そ、一緒だとうるさいんだよほんと。アレしろだのソレするなだの」


「姉弟ってそんなもんだよな。俺も姉さんいるからわかるよ。」


「サツキも弟なんだなー」


ーコンコン


メリと皐月がそんな他愛もない会話をしていると部屋のドアがノックされた。


「寝巻き姿でごめんなさい。明日の計画を立てましょ!」


「おじゃまします〜」


ドアを開けるとリルとミカゲが寝巻き姿で現れた。


リルは薄紫色のヒラヒラしたネグリジェを着ていてとても旅人とは思えない愛らしさを醸し出している。アバウトな性格からは考えられない優雅さや気品を感じる。

ネグリジェは身体のラインをよく出しておりリルの場合スラッとしたスマートさを引き立てていた。

ミカゲはリルから借りたのか色違いのピンクのネグリジェを着ていてこちらはなんというか・・・曲線美だ。リルと同じものを着ているはずだがまた違ったラインを描いていた。メリもその姿に釘付けだ。


「こんな可愛い寝衣を着るのは初めてで・・・なんだか照れちゃいますね〜」


ミカゲが照れくさそうに笑う。


「似合ってる!姉ちゃんより全然似合ってます!」


メリがすかさずミカゲを褒めた。


「えへへ、ありがとうございます〜。弟くんにはわからないかもしれないけどリルちゃんも大分キュートなんですからね〜。ね、サツキさん?」


突然のフリに一瞬固まるが。ここは紳士らしく。冷静に・・・咳払いをひとつして


「んんっ!まぁそうだなお姫様って感じだな。」


それを言うとメリとリルがすごい勢いでこちらを見た。2人の視線が痛いくらい突き刺さる。何かまずいことを言っただろうか。


「え、な、なに?」


「いえ・・・なんでもないわ」


「お、おう姉ちゃんがお姫様とかそんなことないだろ」


2人は気まずそうに笑うとため息をついてそっぽを向いた。よくわからないが触れない方がいいのだろうか。


「それより明日なのだけど!」


リルが気を取り直してとばかりに大きな声で話を戻す。いや、話を逸らしたと言った方が妥当だろうか。


「まず日が高く登る少し前に『陰りの森』に入るわ。それで、その後はノープランよ。」


「「はあ!?」」


メリと皐月の声が揃う。


「ノープランってどういうことだよ!」


「迷う森なんだろ・・・迷った時の対策とか、魔物に出会った時の対策とかは?」


「サツキ、いい質問ね!今回の目的はズバリ魔物に会うことよ。だから迷っても歩き続けて魔物にエンカウント。倒せそうなら戦闘。無理そうなら退避。そして話が通じそうなら対話。強いて言うならこれがプランかしら?」



「それでつまりはノープランってわけか。」


「そういうことね。」


「えーと、すみません話に付いて行けてなくて〜」


すっかり置いてけぼりを食らっていたミカゲが申し訳なさそうに手を挙げる。


「そうだったわ!ミカゲさんはよくわからないわよね。」


「はい、すみませんです〜」


リルはミカゲに昼間店で聞いた陰りの森の事をざっくり説明した。


「なるほどです〜、それなら私も『陰りの森』に入る事は賛成ですね〜。そこで手がかりを見つけてからレブリックへ向かっても遅くはないと思いますよ〜」


これで賛成と反対が2対2という形となったが、圧倒的に女子の権力が勝っているため男2人は大人しく従うしかないのであった。


「・・・という感じでいいかしら?」


「まぁ俺はついていくだけだしぶっちゃけ怖いけど反対する由もないな。」


皐月がそう言うと全員の視線がメリに集まる。


「・・・うぐぅ。わかったよ。行けばいいんだろ!そうなんだろ!でも僕・・・俺は戦えないからね!」


メリは半ば泣きそうな顔でそう言うと唇を噛み締めベッドにボスンッとダイブした。観念したようだ。


「さてと全員の同意を得たことだし。明日に向けて今日はもう寝ましょうか。」


リルが伸びをして少し眠そうな様子を見せる。


「そうですね〜。メリくんも寝ちゃいましたしね〜」


「え?」


ベッドを見ると今さっき勢いよくベッドにダイブしたままの格好ですやすやと気持ちよさそうに寝ていた。脅威の速さだ。そんな姿を見ているとなんとなく伝染したように眠気を覚え、全員がなんとなく就寝準備モードへと突入した。


「それじゃあ明日朝は食堂集合ね。」


「了解。んじゃおやすみ。」


「おやすみ!」


「おやすみなさい〜」


リルとミカゲが部屋から出ていき皐月も

メリに借りた寝巻きに着替えベッドに腰掛ける。


「・・・と明かり消さなきゃ。そっか電気じゃないんだった。」


こちらは自分の住んでいた世界より文化レベルが低いのだろうか。いやそもそも魔法が存在する世界だ根本的な所から違う。

そんな事を考えながら壁に取り付けられた蝋燭立てでユラユラと闇を照らしている蝋燭に近づき火を勢いよく吹き消す。蝋燭は全部で4つあった。最後のひとつを吹き消そうとすると。不安定に揺れる火を見て突然に気持ちが同じように揺れた。あぁ自分は本当に違う世界に来たのだなと。そう言えば今日は起きてから怒涛の展開過ぎて考える暇もなかったが全然知らない場所に1人手ぶらで放り出されたのだ。皐月の恐怖と不安は闇に助長されその存在を徐々に増していく。涙腺が久々の使用に向け準備を進めているのがわかった。ジワリと熱いものがこみ上げてきた。


「・・・嫌だ!森ぃ・・・こわぃ・・・ムニャ」


突然の声に驚き振り返る。どうやらメリの寝言のようだ。


「はは、そっか。怖いよな・・・」


メリとリルは見た目的に幼い。(リルは俺と同い年のようだが。)この世界のルールはよく分からないが。行き当たりばったりの姉弟二人旅。何か事情があるはずだ。

不安だし怖いだろう。

ここで泣いていても仕方がない。それこそ歩き回って手がかりを少しずつ集めてこの状況を打破するのだ・・・行動するしかない。

今は寝て、新しい朝が来ればまた気持ちも変わるはずだろう。

最後の蝋燭を吹き消し、手探りでベッドへ向かう。いつの間にか不安な気持ちも一緒に吹き飛んでいた。


「おやすみ。」


誰に言うでもなく自分に言い聞かせるようにそう呟くと皐月は間もなく深い眠りへ落ちた。新しい朝へ向けて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る