1-7 一行の行き先
「こ、ここここれやばいんじゃないか?」
皐月は咄嗟に倒れている人に駆け寄った。こんな時は動かしちゃいけないんだったか。そうだ救急車呼ばないと。そんな思考が頭の中を駆け巡る。
「リル、救急車呼んでくれ!」
「きゅうきゅうしゃ?」
リルは皐月の言葉に首をかしげた。この世界には救急車はないのか。ならば・・・
「・・・医者!医者は?」
「お医者さん呼ばなくても大丈夫よ。この人サツキと同じ。お腹すいて倒れてるだけよ。」
「うん。サツキもこんな感じだったよな?さっきから定期的にグーグー聞こえるしさ」
よくよく見ると静かに肩が上下していて息をしていることは確認できた。しゃがんで耳を近づけると確かにお腹の音らしきものも聞こえる。皐月はひとまず安心した。
「サツキにしてもそうだけど・・・今日会う倒れている人は見たことない格好してるわね。」
リルの言葉に皐月は倒れている人の格好を確認する。少なくとも自分のいた世界の服ではない。とりあえず自分と同じように飛ばされた大学の人ではないようだ。上は薄紅色の甚平のような服を着ていて腰には紅色の帯を締めている。下は膝上までの長さの黒のスパッツをはいていた。おかっぱに近い髪型をしている黒髪の少女だ。こちらの人達の服装は皐月の世界で言うコスプレに近い。例に漏れずこの少女も現代版忍者・・・みたいな格好をしている。
「大丈夫かー?」
メリが突然倒れている少女を激しく揺さぶる。
「・・・うぅぅぅ・・・ぁああ」
揺さぶられながら少女は呻き声をあげる。
「ちょ、メリ具合悪そうな人に何を!」
「起こして話聞きたいから起きてもらう。」
度々思うがこの姉弟は本当に常識的な行動をしない。
「・・・ぅぐう・・・」
少女は先程よりもぐったりした様子で横たわり続ける。
「悪化したじゃねーか!」
メリは一切悪びれた様子なく肩を竦めた。
ふと見るといつの間にかリルが少女の傍らにしゃがみこんでいる。その手には・・・
「パンっっっ!!!」
そう、リルの手には皐月がもらったのと同じ丸いふわふわのパンが持たれていた。・・・のだがそれは一瞬で消え去った。
「ご馳走様です〜」
倒れていた少女はいつの間にか起き上がって口の横についたパンくずをパッパと払っていた。
「はぁ〜生き返りました〜本当に本当にお腹がすいてたんですよ、ありがとうございます〜」
少女はさっきの素早さとは裏腹におっとりとした口調でお礼を述べる。
「それは良かったわ!」
リルはニコニコとして2個目のパンを取り出す。すると少女はキラキラした目でそれを見つめていた。
「もうひとつどうぞ?」
リルがそう言うと少女はまた目にも止まらぬ速さでパンを胃におさめた。
「すごい速さね!お腹すいてるならもっとあげるわ。あ、そうだその前に聞きたいことがあるんだけど」
「なんでも聞いてください〜!知ってることなら答えます〜」
「魔王城へ行きたいのだけど道を知ってるかしら?」
リルがそう聞くと少女はおおっと手を叩いて目を輝かせた。
「私もそこに行きたくて〜。手がかりを掴むためにレブリックへ向かっていたんですよ〜。」
「あら、じゃあ同じね!それなら一緒にいかないかしら?」
リルはニコッと笑って少女に手を差し出す。
「いいんですか〜!?ぜひ、お願いします。1人では心細かったんです〜」
少女はリルの手をとると地面から立ち上がり丁寧にお辞儀をした。流石綺麗な日本式だ。
「よし決まりね!お互い助け合いながら頑張って辿り着きましょ!」
こうしてリル達のパーティーは一気に4人に膨れ上がった。
「しっかし姉ちゃん昨日の今日で旅の仲間が増えたな。俺たち姉弟に始まり得体の知れない2人・・・しかも情弱役立たず。」
そう言われてしまえば身も蓋もない。皐月も少女も倒れていた所を助けてもらい更に食べ物を与えてもらっているだけで今のところ特に役には立っていない。
「でも人が多いと心強いじゃない?楽しいし!」
「姉ちゃんはお気楽でいいな。」
「褒め言葉と受け取るわね?」
メリは深いため息をつくとパンの余韻に浸る少女に向き直る。
「で?そこの人名前は何?どっからきたの?なんで魔王城目指してんの?」
「いきなり質問攻めだな・・・」
そこは皐月もリルも聞きたいところだ。そういえばリル達が魔王城を目指す理由も聞いていないことを思い出し皐月の気になる点が増えた。後で聞いておかなければならない。
「失礼しました〜。私の名前はミカゲ・キリュウ、ダイジュの国から来ました〜歳は18です〜。で、魔王城に行く目的ですね。それは・・・魔王の手下さんの1人に弟子入りするためなんです〜。」
少女、ミカゲの口からは思ってもみない理由が飛び出した。メリの顔が引き攣るのを皐月は横目で確認した。リルは笑顔を崩さない。
「あら、私と同い年ね!」
「リルちゃんも18なんですね〜」
・・・なんてほんわかな女子トークが展開し始めた。メリは咄嗟にリルを引っ張り耳打ちする。
「姉ちゃん!何のほほんと話してんだ・・・魔王を討伐したい俺らと理由が真逆じゃないか。こんなの一緒になんていけねえよ」
「うーん、そうね。ミカゲさんも弟子入りする人を倒されたら困るものね・・・」
「そうだよ、俺たちが倒すなんて言ったら何してくるか・・・」
「・・・あっ!そうです〜思い出しました。」
「ひっっ!!」
突然ミカゲが声を出したのでメリが一瞬ビクついた。それを見て皐月はフッと笑う。いつかのお返しだ。メリは気恥ずかしそうに顔を逸らした。
「ミカゲ、何を思い出したの?」
「あのですね〜私が探している人がもう1人!いるんですけどその人も魔王城を目指しているようなんです〜」
「その人に会えたら魔王城の場所がわかるかもってことかしら?」
「多分わかると思うんです〜!」
「どうしてその人のことも探してるんだ?」
皐月は単純に疑問に思いミカゲに聞いた。
「私が魔王の手下さんに会いたいのは魔法の秘薬の作り方を教えて欲しいからなのですが〜その魔王城を目指す旅人さんもその作り方を知っているみたいなんです〜」
「じ、じゃあその人に会えたら魔王の手下に弟子入りしなくても!?」
額に汗を浮かべていたメリが心底嬉しそうに言う。
「そうなりますね〜手下さんに弟子入りする方がリスキーなので出来ればその旅人さんに会いたいところです〜」
「その人の居場所はわかるのかしら?」
「レブリックを越して少し行ったところにある港町に向っているという情報を聞きました〜」
「じゃあ、なんにせよレブリック?に向かうべきってことか?」
皐月は街の名前もまだうる覚えなままに話の腰を折らないよう次の行き先を問う。
「結局のところ、そうなるわね。」
「よし!姉ちゃん目的地も改めて定まったし。有益な情報もつかんだ!陰りの森とやらを避けて早いとこその旅人探そうぜ!」
メリがリルを探るように提案する。しかし、付き合いの短い皐月でもわかる。リルの答えは
「NOよ!陰りの森は絶対に行く!はずせないわ。」
「ですよねー・・・」
「うぐぅサツキも反対しろよな」
メリは先程とは打って変わって心底残念そうに顔を曇らせる。本当に表情がコロコロ変わるヤツだ。
こうしてリル一行は陰りの森を通りレブリックへ向かうという今後の目標がしっかりと決まったのだった。
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