1-6 辿り着いた街は
近づいていくにつれて街の全貌が明らかになってくる。それは街というには小さくて活気のない場所だった。
「姉ちゃんレブリックって商業で栄えた街じゃ無かったのか?」
「そう聞いてはいたんだけど・・・」
「ここ、レブリックって街じゃないってことか?」
「それは街の人に聞いてみないとって所ね。・・・私達もその、レブリックの方角は知ってるけど明確な場所知らなかったというか・・・」
リルとメリが気まずそうに笑う。
皐月にとってはここがレブリックであってもそうでなくてもいい。明確な目的地があるわけではないのだから。
リル達についていく目的は一緒に飛ばされたかも知れない学友達を探すこと、そして元の世界に帰る方法を探すことだ。それならどの街に行きつこうと関係はない。むしろどの街も満遍なくチェックしたいところだ。
「俺は別にここがどこでも構わないが・・・リル達はレブリックじゃないと困るのか?」
「いえ、大きい街なら情報も沢山あるんじゃないかって思って来ただけだから別にレブリックでなくても良いのよ」
なにはともあれリル達は魔王城の場所がわからなければ進む方角も容易に決められない。
リル達一行は今は情報が命だ。
「まだ日が沈んでいないのに人ひとり歩いてないわね・・・」
街の入口に来たが外を歩いている人は見当たらない。この街には人が住んでいるのだろうか。異世界の地、初めての街の有り様に皐月は一抹の不安を覚えた。
「あまり皆出歩かないんだな・・・。店の中はどうなんだ?」
「そうだな、店なら店員くらいいるだろ。姉ちゃん、どっか店入ってみようぜ」
「そうね。近くのお店に入ってみましょ。あ、あそこ食べ物屋さんかしら行ってみましょう」
とりあえず近くにあった飲食店らしき店に3人は足を運ぶ。扉には「OPEN」の文字が下がっている。営業しているようだ。
リルがそっと扉を押すとギィィと言う扉の開く音とカランカランと乾いた鐘の音が静かに
響いた。
「いらっしゃい」
店の奥のカウンターに店員らしき中年女性が1人立っていた。薄暗い店内を見渡してみると他に2、3人の客がいるようだ。自分たち以外の人がいるのを見て3人は安堵のため息をついた。
「・・・旅の人達かい?」
店の中でキョロキョロする3人を訝しげな顔で見つめていた店員が不意に口を開いた。
「ええ、そうなの。王都から来たのだけど、ここはレブリックであってるかしら?」
「ここはブクロス村。王都とレブリックの物資中継地点だった場所だよ」
食堂のおばちゃん風の店員は言い終わると大きくため息をついた。
「だった?今は違うんですか?」
「あぁ、近くの『陰りの森』に得体の知れない魔物が住み着いてから物資の運搬用馬車や近隣の畑が襲われるようになってね。すっかりこの村に人が寄り付かなくなってしまったよ。村の人たちも違う街に移り住んじまってさ。」
「得体の知れない魔物・・・?詳しく聞かせてちょうだい!」
リルが興味深々にくいつきはじめた。得体の知れない、それに魔物なんて出来ることなら関わりたくはない。と、皐月とメリは首を振る。しかし好奇心旺盛な姫様は身を乗り出して店員に情報を求めた。
店員は少女の食いつきに一瞬面食らいながらも周りをチロっと見回すと声を潜めて話し出す。
「・・・ここだけの話ね、あまり大きい声では言えないんだけど。ほら、あの魔王の手下達が1枚噛んでるんじゃないかって噂さ。一年ほど前に目撃情報が出てから森に瘴気が発生し始めたらしいよ」
「へえ、やっぱり色んなところで動いてるみたいね・・・」
「まあ、そういうことだから、旅人さん達。レブリックに行きたいならぐるっと迂回して森を避けていくといいよ」
「そうですねぐるっと回っていきます、教えてくれてありがとうございました!」
皐月がそう言うとリルがキョトンとした顔で1歩前に出て言い放つ。
「何言ってるのサツキ。せっかく有益な手がかりが見つかりそうなんだから森に入るに決まってるでしょ?」
当たり前のようにそう言ったリルに店の全員が驚き、声を上げる。
「お嬢ちゃん聞いてなかったのかい!?魔王の手下や魔物がでるんだ。森には近づくなって!」
「命を粗末にするもんじゃないよ!」
「お嬢さんがどれだけ強いかは知らないけどあの森は道も複雑でなかなか抜け出せないんだ。魔物もそうだが迷って出られなくなったら・・・」
そう言う人達にリルは軽くお辞儀をすると腰の剣に手を置いて自信ありげに立ち直した。
「心配してくれてありがとう。確かに私はそんなに強くないけど、私の目的は魔王城に行くことなの。その行き方が分からないから少しでも情報が欲しいのよ。調べないわけにはいかないわ。」
店員以外の客達は自分が何を言っても無駄だと感じたのか、ため息混じりに自分の食べていた料理に向き直る。店員のおばちゃんはまた面食らった顔をしてリルを見つめると観念した様子で頷く。
「お嬢ちゃんには何か深い理由があるみたいだね?だったらこんな場末の定食屋がとめてもねえ・・・」
正直もっと全力でとめて欲しかったメリと皐月は店員のおばちゃんに懇願するような目を向ける。
「お兄ちゃん達も大変そうだねえ。まぁこの芯の強いお嬢ちゃん守ってやりな」
「姉ちゃん俺より強いんで・・・」
「俺も武器とか使ったことなくて・・・ハハ」
男二人の情けない発言に店員も客達も気まずそうに肩を竦めた。
「ま、まぁ付いていてあげるだけできっとお嬢ちゃんも助かるさ」
「大丈夫よ2人とも!期待してないわ!」
そんな店員のおばちゃんの慰めとリルの発言が男2人の心に追い打ちをかける。
「・・・さてと、で何を食べるんだい?定食屋に入ってきて何も食べずに帰るのかい?」
おばちゃんが悪戯っぽく笑う。
「そうね、丁度お腹もペコペコだし。沢山頂くわ。2人も好きな物頼みなさい。」
その言葉通りリルは1人で4人前程をペロリとたいらげ満足そうに食後のお茶をすすっている。メリと皐月は1人前をゆっくり味わって食べた。
「ごちそうさま!腹ごしらえも済んだし、情報探し続行ね。ついでに宿も探さなきゃ」
「え!情報は今ので十分じゃんかあ」
メリが机に伏して手をバタバタさせる。
「まだまだ足りないわ。聴けるだけ聞かなきゃ。さ、いきましょ」
リルはサッと立つとメリの腕を引っ張って席からたたせる。
「いててて、姉ちゃんの馬鹿力で引っ張んなよ!」
無理やり立たされたメリは引っ張られた腕をさすりながら渋々と店の出口へ向かう。
皐月も立ち上がりあとに続く。
「ご馳走様でした!あと情報ありがとうございました。」
「あいよ、またこの村に来たらいつでも寄りな」
皐月は店員にお辞儀をすると2人に続き店を出た。店の扉を閉めて前を向くと店のすぐ前で2人が立ち止まっていた。
「メリ、リムどうしたんだ?」
「あぁ、サツキ見てよこれ」
「どうしたのかしらね。」
メリが指さしたのはすぐ足元。皐月はメリの指さした所を後からのぞき込む。
「え!?2人とも何立ち尽くしてんだ!」
姉弟の反応があまりに淡白で一瞬理解できなかったが。
2人の見る先、店のすぐ前にはピクリとも動かない人が倒れていた。
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