1-5 必要な休息

「このペースならレブリックまではここから半日もかからずに着けるはずよ。」


小一時間ほど歩いた頃、リルは振り返り2人に笑顔でそう告げた。容赦ない日差しが3人を襲う中、汗だくの男2人をよそにリルは涼しい顔で歩き続ける。


「姉ちゃんちょっとタンマ・・・」


たまらず声を上げたのはメリだった。立ち止まり休憩タイムを提案する。


「まだ少ししか歩いてないのになんで疲れてるのよ。」


リルが呆れたとばかりに首を振りながらメリを見つめる。


「や、俺も休憩したかった所なんだ。リルはなんで汗一つかいてないんだ?」


「サツキまで!うーん、よくわからないけど私にはこの気温丁度いいみたい。」


リルは一応軽く鎧を身に付けている。メリや皐月よりも蒸れて暑そうだ。にも関わらず汗一つかいていない。そして元気も有り余っているようだ。


「男2人揃って情けないのね。」


リルはへたり込むメリと皐月を見下ろしながら余裕とばかりの準備運動を始めた。


皐月はへたりこみながら視線を上げ、リルの準備運動を眺める。自然と斜め上方向に伸びをしているリルの腰に目がいく・・・しっかりくびれていて細すぎず、程よい筋肉がついていていいラインだ・・・。そう考えているとリルの動きがピタリと止まる。リルの微笑んでいた顔が一瞬にして険しくなった。視線に嫌悪を覚えられたのか。皐月の緊張が高まる。次の瞬間、目にも止まらぬ速さで剣を抜くと皐月の方へ一蹴りで距離をつめてきた。


「あ、違っ!筋肉すごいなって!思っただけです!」


顔の前を両腕で覆い咄嗟に言い訳を並べる。


「ん?サツキ何か言ったかしら?」


皐月の後ろでリルが聞き返す。振り返ると見たことのない動物を剣で串刺しにしているリルの姿が目に入った。


「ぷっ・・・」


肩をワナワナ震わせ指を指してくるメリが鬱陶しいが、これはかなり恥ずかしい。メリにリルの体をまじまじと見ていたことを知られてしまった。話を逸らさなければ、、


「・・・なんでもない。それよりリル、それはなんだ?」


「え?これ、見たことないかしら。こういう所によくいる魔物だし料理にも使われてるわよね。野生のラビラプトよ。」


「ラビラプト?」


よく見ると見た目はウサギににている。決定的に違うのは耳が4本もあるところだ。しっぽも長くその先端にポンポンのようなものがついている。こちらの世界もモフモフには変わりない。


「俺の知ってる動物に似てるけど・・・こんなのは見たことがない。というか魔物を見たことがないんだ。」


こちらの世界で魔物を見たことがないというのは変なのだろうか。これはまずかったかもしれない。二人がキョトンとした顔でこちらを見てくる。


「魔物が出ない地域なんてあるの?サツキほんとに今までどこに住んでたのよ。」


聞かれたくない質問がついに来てしまった。正直に答えてもごまかしても怪しまれそうだがどうしようか。


「えーと・・・」


「もしかして名前のない村なのか?」


メリが思わぬ助け舟をだしてくれた。


「そう!そうなんだよ、辺鄙なところにあるからさ〜。自分の住んでる村に名前とかついてないって感じ?」


「そうなのね。聞いたことはあるわ、辺境の小さな村は名前がついていないことがあるって。」


姉弟で勝手に俺の故郷を解釈してくれたようなものだが助かった。

それにしても次々と決まる自分の嘘設定。しっかり覚えておかなければならないな。


「とりあえずこのラビラプトは後で食料にするのに捌いておくわね!サツキ、こういうの苦手なら向こう向いてていいのよ。」


「そうだぜ、サツキ〜。苦手そうな顔してるもんな」


リルの言い方には皮肉ひとつ感じられないがメリの言い方には悪意しか感じられない。


「悪いなメリ、こういうのには慣れてるからお気づかいなく。」


実際学校でも解剖実習を問題なく終わらせている。蛙の解剖しか見たことがないが小動物でも問題ないだろう。


「そう、なら遠慮なくやるわね。」


メリの少し悔しそうな顔を横に涼しい顔をしたリルが一気にラビラプトの腹をかっさばく。正直異様な光景だ。


リルが滞りなくラビラプトを処理し荷物に加える頃には、皐月もメリも十分な休息を終え回復していた。


「じゃあ、あともうひと踏ん張りいきましょう!」


「はぁ、早くベッドでよこになりたい」


「メリ〜情けないわね、街についたらすぐに情報集めするんだから休んでる暇なんてないわよ?」


「ええ〜・・・ご無体な!あ、そうだ!サツキ、ただで宿泊めてやるからさ〜、俺の仕事代わりにやって?」


「街まで連れてきて貰えるだけでもありがたいし、もちろん手伝うけどリルに怒られるんじゃないか?」


「サツキには申し訳ないけど手伝ってもらえたら嬉しいわ。人手が多い方がいいんだからメリもちゃんとやるのよ、見てるからね!」


案の定メリはリルに怒られている。


「ふえーい」


不機嫌そうに返事をするとメリはまた、ちんたらと歩き始める。リルはため息をついてそれを一瞥すると少しペースを落として歩を進めた。


ーーどれくらい歩いただろうか。感覚にして3時間ほど。実際にはそれ以上かもしれない。日が傾き始めた頃、眼前にようやく街らしきものが現れた。


「あれが、レブリックか?」


「ええ、そのはずだけど」


「やあっと着いたー、はぁ・・・姉ちゃん街の入口も見えたとこで一旦休憩求むー」


「またなのメリ・・・」


3人は目的の街が見えた所でまたメリの提案で休息を挟むことにした。といっても今度は立ったままメリが水を補給した程度に留まる。


「さてと、メリ。十分でしょ?もう着くんだから。行きましょ」


「はーい、あともうちょっとだしな・・・」


メリが水をしまい込むと。ゴールが見えているからか先程よりも速いペースで街へと歩きだした。

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