1-4 道を教えて

しばらく変な睨み合いが続いたが、皐月はいつまでたっても手を離さない金髪に苛立ちを感じ手を振り払った。


「あ!おとなしくしろよ!」


手を振り払うと金髪はすごい勢いで飛びかかってきた。


「うわっ!やめろ、別に暴れたりしないし逃げる元気もない!」


「ほんとうか・・・?」


金髪はジトッとした目でこちらを見るとそっと離れた。それと同時に気が抜けたようにため息をつく。そして今の大声にも動じずスヤスヤと寝ていた美少女に目線を移した。そして隣に移動するとゆさゆさと揺さぶりだした。


「姉ちゃん起きろよ!この人起きたよ。姉ちゃんってば!」


少女は何回目かの揺さぶりでやっと目を覚ますと、ゆっくりと起き上がると金髪と同じ紫色の目をパチクリさせた。


「ふぁ〜あ。よく寝たわ・・・あら、メリおはよう。・・・あ!そうだわあなた!」


伸びをしてから金髪あらためメリと皐月を交互に見ると。思い出したように飛び上がり皐月の前まで移動する。


「そうそう、変な格好のあなた!あなたが起きるのを待ってたのよ。お願いがあるの!」


薄紫色の髪をなびかせて少女はランランとした目で皐月に詰め寄る。


「俺に何か用があるのか?」


初対面なのに一体何を聞きたいのか。皐月は突然のことに理解がまだ追いつかない。寝ているところを起こさず、更には横で寝はじめるような不用心さのある2人。変な要求はしてこないとは思うが・・・。いやむしろ変なのか。なんにせよ少しドキドキする。皐月はゴクリと唾を飲み込み質問を待つ。


「魔王城への道を教えてくれないかしら?」


少女は笑顔で聞いてきた。もちろん即答だ。


「ごめん、知らない・・・」


行き倒れてる人間に何を聞いてるんだ。俺だって街への道が知りたい。皐月からの当然の返答にメリはやっぱりという顔をした。


「姉ちゃん、だから言っただろ!こんなとこで寝てるやつが道なんて知ってるかよ!ただの迷子だろ」


金髪は割とまともなようだと皐月は思う。その点少女のほうは・・・


「そう・・・じゃあ、あなたただの迷子なのね!可哀想に」


笑顔でそう言った。なぜこの状況で笑顔なのか皐月は理解に苦しむ。天の助けとも思ったが、結局は迷子仲間が増えただけだ。いぶかしげな顔をしている皐月の顔を覗き込みリムは言葉を続ける。


「あら、そんな顔しないで。魔王城への道は知らなくても、私達次の街への道は知ってるから」


「それがもしかすると逆に魔王城から遠ざかってる道だとしてもな・・・」


メリは何度目かのため息を、諦め気味な顔をしながらゆっくりとついた。金髪は天真爛漫なこの少女に日々振り回されていそうだと皐月は思う。


「あ!そうだわ、自己紹介がまだだったわね。私はリル!昨日街を出発して旅の途中よ。こっちは私の弟のメリ!少し生意気だけど許してね?」


リルは思いついたように手を叩くと笑顔で自己紹介をした。この状況ではあるが丁寧に自己紹介をしてくれたのだからこちらも答えねばなるまい。


「・・・ああ、よろしく。姉弟の2人旅だったんだな。俺は皐月。相田皐月って言うんだ。」



「サツキがファーストネームでいいのかしら?素敵な名前ね!よろしく!」


ほのぼの自己紹介タイムにメリがまたため息をこぼす。


「で?どうするわけ。サツキを引き連れて次の街・・・レブリックまで行くの?」


「ええ、行きましょう。」


「・・・僕は反対だけどな。」


メリがぼそりと呟く。皐月の耳にははっきりと聞こえたが反対された所でついて行かない選択肢はない。その一言が聞こえているのかいないのかリルはメリに指示を飛ばす。


「・・・と、その前に腹ごしらえしましょ!メリ、用意して。」


「まぁ、そうだね。そこの・・・サツキもお腹すいてるだろ?」


腹ごしらえ、その言葉に途端に空腹を思い出し皐月の腹が盛大に鳴いた。恥ずかしさよりも思い出した餓えと渇きに支配され渇望した目で鞄をごそごそしているメリに少し近づく。


「サツキそんなにお腹すいてたのね!メリ、サツキに早くパンを出してちょうだい。」


少し訝しげな表情を見せながらメリは鞄からパンを探す。


「ちょっとまってね・・・あったあった。はい・・・どうぞ。」


メリから差し出されたパンが輝いて見える。こんなにパンが美味しそうに見えるのは初めてだ。大量のだ液が出るのを感じつつゴクリと喉を鳴らしメリからパンを丁寧にいただく。


「あ、ありがとう。」


一気に食べたい所だが気持ちとはうらはらに中々口に入らない。久々の食事とはこういうものだろうか。一口目をゆっくりと噛んで飲み込むと。その後はスムーズに口に入るようになった。


「これ、水も飲みなよ。」


メリから差し出された水筒のようなものを受け取り残りのパンを水と一緒に流し込んだ。生き返った気分というのはこの事だ。こんなにがっついている姿を他人に見られるのは普段なら気恥しいがそんなことを気にする余裕は無かった。皐月の食べっぷりをリルは微笑みながら眺めていた。


「お腹すごい空いてたのね。いっぱい食べていいのよ。」


「サツキ昨日から何も食べてないの?ていうかさ、こんな所歩いてるのに手ぶらなのが謎なんだけど。旅してるわけじゃないの?」


リルに比べてメリはまだ皐月の事を怪しいやつだと疑っているようだ。

なんと説明すればいいのか自分でも分からない。気づいたらここにいたなんて怪しまれるに決まってる。ここで置いていかれてしまうのは避けたい。異世界なら魔法とかもあるだろうか。ならばそれで言い訳がつくかもしれない。ここは一つかまをかけてみようか。


「なぁメリ、転移魔法って知ってる?」


「ん?あぁ、習ったことはあるよ。上級魔導師しか使えない大技だよね。」


やっぱりこの世界に魔法は存在するようだ。ならばこれでなんとかなりそうだ。


「実は・・・昨日故郷の街を歩いてたらさ。突然ここに転移したんだ。そんで、転移前後の記憶が曖昧でさ・・・昨日1日ほんとに怖かったよ。」


半分嘘で半分本当のカミングアウト。皐月は悩ましげな顔で俯き気味に言ってみせる。チラとメリの表情を伺うと額に汗を浮かべ難しい顔をしていた。何かまずいことを言ってしまったか。メリの返答が来るまでしばし落ち着かない時間を過ごした。少しの間をおいてメリが口を開く。


「転移魔法が使えるやつって世界で限られてるし、その1人が魔王の手下にいたよな・・・姉ちゃん。」


「ええ、確かいるらしいわね。それがどうかしたの?」


「じゃあこいつの存在、結構魔王城へのヒントになったり!?」


リルがハッとした顔で皐月を見つめる。皐月は突然の展開に戸惑いを隠せずにいた。


先程は突然の質問だったから受け流してたけど。この世界には魔王とその手下がいるということがわかった。魔王の存在自体今さっき知ったのだから当然関係などしているはずがない。そしてヒントになるはずがない。


「待ってくれ。俺ほんとに田舎育ちでその魔王?のこと自体よく知らないんだ。だから魔王城との関係なんて・・・」


「もしかしたらサツキをなんかの目印に手下がくるかもしれないじゃん!」


「その発想は無かったわね!」


さっきまでの警戒はどこに行ったのかメリが輝いた目で皐月を見つめる。

あぁ、薄々思ってはいたがこの2人かなり頭がお花畑なのではないか。弟のメリはリルよりもまだまともだと信じていたがそんなこともなさそうだ。

俺が魔王の手下と関係がありそうならもっと警戒するべきだと思う。まぁ、でもこれで置いていかれずに街まで行けそうだ。下手なことは言うまい。


「でも、待てよ。サツキが嘘ついてて本当は転移魔法が使える手下だったりとか。」


メリがまた警戒の色を出した。メリはたまにまともなようだ。しかし、ここで発揮しなくても良かったのにと皐月は唇を噛み締めた。


「あのね、メリ。魔族の人達って耳がちょっととんがってて。人から見てみんな美男美女らしいわよ?」


少し小さな声でリルは言っているが。やはり皐月の耳にははっきり聞こえている。


「じゃあ大丈夫だな!」


メリのいい笑顔が皐月の心に追い打ちをかける。


「疑って悪かったよサツキ。これからよろしくな!」


「よろしくねサツキ!さあ、街を目指しましょう!」


「あ・・・あぁ、2人ともよろしく。」


2人の爽やかな笑顔に比べ大分引きつった笑顔で皐月は答える。先が思いやられるが、こうして3人は一つ目の街を目指し歩き始めた。

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