1-3 道中の考えごと
どれだけ歩いただろうか。照りつける日差しのせいで喉は乾くし頭痛もしてきた。目眩も少々・・・普通に脱水症状のようだ。
「っていっても、周りに川も湖もないな。こういうのって歩いたらすぐお助けキャラとか街に辿り着くとかあるもんじゃないのか」
皐月は本当に平凡な大学生だ。サバイバルな知識はないに等しい。渇きへの対処も痛みへの対処も何も出来ない。だからーー
「もう、嫌だ。頭痛いし、喉乾いて死にそうだし何より足痛いし。」
皐月はなりふり構わず草原に体を投げ出した。砂漠じゃないのが唯一の救いだ。背中が少しひんやりとした。
見渡してもひたすら草原。歩けど歩けど景色は変わらず、人っ子ひとりすれ違わない。
流石に平和ボケした皐月でもこの状況では死について考えざるを得ない。
はぁーと長いため息をついて目を閉じる。まぶたの裏では先程の爆発が幾度となく繰り返された。やはりその後のことはよく思い出せない。
「そういえばあいつらは・・・無事なのか?あいつらもこっちにいるのかな」
爆発が起こった時に周りにいた実験メンバー、皆ももしかしたらこっちに来てるんじゃないだろうか。目を覚ました時周りにいなかったということはバラバラに飛ばされたか。もしくは本当に自分1人がここに来たのか。まあ今は考えても仕方の無いことだが。まずは自分が生き抜くことを考えよう。
目を開きゆっくり起き上がるともう1度行くべき方向を真剣に考える。
「っていっても、なんのヒントも無いんだけど。人里がありそうな方向・・・。そもそもこの世界に人はいるのか?」
誰も人がおらず、ひたすら草原だけの世界に来ていたとしたら・・・自分に生きる術はない。
持ち物は着ている白衣と防護メガネ・・・それとマッチだ。食べ物も水分もないとなるとそこら辺の草を食べたとしても一週間もつかどうかわからない。
死が現実味を帯びてきて初めてゾッとした。とりあえず止まっているよりはましだろうと歩き始める。
歩き続けていると更に足の痛みも渇きも飢えも増してくる。
「・・・考えないようにって思ってたけど、やっぱダメだ・・・もっと普段から体力つけときゃ良かったな」
皐月は人生最大の疲れに襲われていた。ひたすら歩き続けて、気づけば夜だ。一日中歩き続けて終わったことなど今までにあったろうか。急激な眠気に皐月はその場に倒れ込んだ。夜の草原は思ったより冷える。
「・・・寝ちゃ・・・ダメなんだっけ?・・・や・・・それは雪山か・・・じゃあ・・・いっ・・・か」
不安を感じつつ、眠気に負けて皐月はゆっくりと目を閉じた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
すっかり明るくなったころ皐月は空腹で目を覚ました。まだ意識が朦朧としていたが、目の前の光景に眠気も疲れも空腹さえも吹き飛んだ。
「・・・すげえよアキ。これが異世界ファンタジーってやつか」
アキは大学の友達。いつも一緒に昼を食べている仲間の1人だ。アキはいつも皐月に自分のオススメのマンガや小説、アニメの話をしてきていた。アキの作品紹介は面白く、普段そういった類のものを見ない皐月も話を聞くたび興味を惹かれたものだった。
『皐月ぃ異世界もののいい所ってさ、まずは超絶可愛い女の子が出てくる所なんだよな。女勇者や魔法使いこっちじゃ考えられないような属性の子がわんさかいるんだぜ。』
『女で勇者なんているのか。全然強くなさそー』
『バッカ、そこはロマンてやつだよ。凛としててクールビューティな女勇者。こういう世界では王道なんだよ!』
『そういうもんなのか。戦いとかは見所じゃないのか?その、異世界ものってやつ?』
『異世界ファンタジーな。戦いも確かに・・・まあ、でも男としての見所はハーレムだな。色んな属性の女の子に囲まれるっていうのが夢だよ。皐月は興味ないだろうけど』
『そんなことないよ。アキがよく見せてくれる女の子の絵とか可愛いし、囲まれ・・・たくはないけど会ってみるのは楽しそうだよな。』
なんて会話を交わしたのを覚えている。その後属性別に攻略法だかなんだかを叩き込まれたがあまり真剣に聞いてはいなかった。
さて、今何が起きているのかというと。昨日人っ子ひとりいない草原で寝落ちたはずなのだが。
起きたら目の前にーー美少女が眠っていた。
それはそれとして先程から身動きが取れない。空腹で動けないわけではなさそうだ、なぜならお腹のあたりに後ろから手が回されていて動けないのだから。後ろからもスヤスヤと寝息が聞こえてくる。これはもしかしなくても前にも後ろにも美少女といういきなりの異世界ファンタジー展開じゃないだろうか。アキに教えてあげたい。
これはきっと美味しいシーンというやつなんだろうが、起き上がりたいのでとりあえずゆっくりと回された細い手を持ち上げる。
その瞬間、持ち上げた手が素早く動き逆に手首を掴まれた。
反射的に振り返ると目の前に顔が現れ、少しのけぞる。振り向いたせいで手首が変にねじれ痛みが走る。
「いててて・・・っ!」
痛いと言っているにも関わらず相手は体勢を変えようとはしてくれない。
目の前では宝石のような紫色の目がこちらをいぶかしげに見つめている。
紫の目に綺麗な金髪。右耳の少し上の髪を二つのピンでばってんにしてとめている。
綺麗な顔立ちの
「男だ・・・」
「・・・?男だけど」
後ろから抱きついてたのは男だった。
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