1-2 姉弟パーティ
時は午後3時。おやつの時間。
王国の誇るバラ庭園ではきらびやかなお茶会が開かれていた。様々な茶菓子と上品な香りの立ち上るお茶が並ぶ長机にはズラリと並んだ容姿端麗なメイド達。そして机の一番端、いわゆるお誕生日席にはいかにも王子様な衣装に身を包んだ王族。
メイダリア王国第一王子メリ・メイダリアが座っていた。
「メリ様〜!今朝庭園で取れたバラがとっても綺麗だったのですわ。差し上げますわね。」
メイドの1人が進み出てメリにリボンで飾られた一輪のバラを差し出す。メリはバラを受け取った後、メイドの右手に軽くキスをした。
「ありがとうレイベル。君がくれた薔薇も綺麗だけれど、やはり君の美しさには叶わないみたいだね・・・君の笑顔が一番のプレゼントだよ」
プッ・・・。ゥ・・・クス。メイドの何人かが少し顔を逸らした。逸らさなかったメイドの中でも唇を噛み締める者がいた。
「うーん。はっきり申しまして。気持ち悪いですわね。」
「なんで!?だってレイベルがこうしろって・・・」
メリは涙目で立ち上がる。その頬は少し紅潮している。やはり本人にも恥ずかしさがあったようだ。
「お似合いになりませんでしたね!別の方法でお誕生日会を盛り上げるとしましょう。」
メリはジトッとした目でレイベルを見つめると、どかっと椅子に腰を下ろした。
今日は今週末行われるメリの生誕パーティの予行練習を行っているのだ。メイド達を訪れる令嬢に見立ておもてなしのリハーサル。
しかし絶賛難航中であった。
「やはり柄にないことはするものではありませんわね。困りましたわ、メリ様・・・腹踊りでも!」
「しないよ!!どんなパーティなんだよ。一応僕は王子様なんだから・・・」
完全に不貞腐れたメリを余所にいつも通りのやり取りをみたメイド達から笑みがこぼれる。レイベルはその様子を満足気に見渡すとメリの後ろに視線を移す。
「あら、リル様。珍しくメリ様に御用がおありですの?」
メリの後ろには笑顔のリル姫が立っていた。更にその一歩後ろにはラーチェもいた。
「メリ様。用意が整ってございます。どうぞこちらへおいでくださいませ。」
ラーチェがメリに礼をして告げる。
「行くわよメリ!立ちなさい!レイベル、ちょっと出かけてくるわ。この弟借りるわね」
リルはレイベルにウインクするとそう言ってメリの腕を引く。
「まあまあ、姉弟でお出かけなんてとても素敵ではありませんの。行ってらっしゃいませ。メリ様、リル様。どうかお気を付けて。」
「「行ってらっしゃいませ。」」
レイベルが深々と礼をすると他のメイド達も続いて礼をする。
「行ってくるわ!」
リルは元気に返事をすると頭にハテナマークでも浮かんでそうな弟、メリを引き連れて城の中へと入っていった。
レイベルは顔を上げると目を細めてラーチェを見つめた。ラーチェは同じように目を細め身を翻す。
「レイベルは察しがよくて助かります・・・」
ラーチェの呟きはその場にいる誰にも聞こえることは無かった。
「姉ちゃんどこいくんだよ。急に・・・誕生日パーティの練習してたのにさあ。」
「それ、無くなったわ。というか無断欠席になるわね」
リルはサラリと告げる。次々と訪れる展開にメリの顔は更に戸惑った。
「それ、どういう・・・」
「さっ、これに着替えて!私はあっちで着替えてくるから」
弟の質問など気にも留めずリルは旅装束を投げ渡す。もちろんメリに理解できるはずはない。メリは渡された旅装束を持ったまま動けずにいた。
「メリ様、突然の御無礼をお許しください。あなた様とリル様にはこれから・・・その・・・旅に出ていただかなければいけなくなりました。これは陛下や女王陛下にも秘密でございます。出発は今夜。目的は勇者様を助けることです。」
メリはしばらくキョトンとした顔をしていたがため息を一つついてラーチェをしっかりと見つめた。
「なるほど、それで姉ちゃんは助けを求めて来たわけか。もっと詳しい事わかんないとなんとも言えないけど。面白そうじゃん!いいよ、それに着替えればいい訳ね。」
「メリ様・・・」
ラーチェはまた深々と礼をした。ワガママな姫様も臆病な王子様もいつの間にか成長していた。後は2人に任せるしかない。
着替えるメリを部屋に残しラーチェは旅のための荷造りを用意し始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「準備完了〜!」
「僕も出来た。これ、なんかすごい服だな」
リ ルは身体にピタッと合った軽い甲冑をつけ
ラーチェが用意した荷物を背負い準備万端とばかりに胸を張っている。
メリの服は左側の袖は短いが逆に右側の袖が異様に長い。それが気になってずっとゆさゆさ揺さぶっている。
「リル様よくお似合いですよ。その甲冑にはまじないをかけておきました。きっと守ってくださいます。メリ様のその袖はこれを入れるためにあります。」
ラーチェはそう言うとメリに一つの袋を差し出した。ズシッと重く、受け取ったメリは一瞬よろける。
「これは武器?というか暗器?」
「ええ、メリ様は体を動かすのが得意で更に器用でいらっしゃいます。これが一番合う戦い方でしょう」
「なるほどねぇ、ありがとうラーチェ!そういうの自分でもよくわかんないからさ」
メリは袋の中を色々物色して早速袖に装備し始めた。
「リル様。リル様にはこれを。」
ラーチェは両手に細長い箱を載せ丁重にリルへと差し出した。リルはその箱を手に取るとゆっくりとその蓋を開けた。
中には
「銀色の・・・剣・・・ラーチェこれきれいね」
開けた瞬間その美しい姿がリルの目を惹き付けた。曇一つない刃の表面にリルの目が映り込み妖しい紫色の光を放った。剣の持ち手にはリルを思わせる紫の宝石が埋め込まれ、細かい模様がそれを囲むように飾られている。
リルは持っていた剣を床に置くと代わりにラーチェにもらった剣を自分の鞘におさめた。
「これで魔王も敵じゃないわね」
リルは剣の鞘をそっと撫でるとラーチェに向き直ってそう言った。
「ご立派ですよ。リル様。」
ラーチェはその様子を見て静かに微笑む。
「じゃあ、もう出発するわね。」
「え、姉ちゃん今夜じゃ」
「もう準備終わったんだからさっさと行くの!ほら早く早く。」
リルは武器をしまうメリをはやしたてる。
「リル様・・・1度しか言わないので聞いてください。私の馴染みがやってる店が城下にあるんです。困った時はそこに手紙を送ってくださいね。名前は必ず『旅人リアンヌ』に。リル様だと特定されることはなるべくかかないで。」
ラーチェは言い終わるとリルに紙切れを握らせる。
「このお店に送ればいいのね?」
「ええ、そうですよ。」
「分かったわ!じゃあ・・・」
ラーチェの寂しい顔を見てリルは少し後ろ髪を引かれる思いがした。しかしそれを振り払い。
「!!リル様!?ふふっ、痛いですよ」
勢いよくラーチェに飛びつきギュッと抱きしめる。これでもう大丈夫。そっと離すと扉まで駆けだし音をたてないよう開ける。
「いってくるね!!」
「僕も行ってきます!」
メリはラーチェにハイタッチをしリルの後を追いかける。
「ご武運を・・・ですわ」
「レイベルっ!」
ラーチェの後ろからスっと出てきたレイベルにメリが少し嬉しそうな顔を見せる。
「チキンな所、直しませんと苦労しますわよ。」
「余計なお世話だよ!ちょっと留守にするねレイベル。」
「ええ、構いませんわ。後は私とラーチェにおまかせを。リル様、弟の面倒しっかり見ないと駄目ですわよ。」
腕を組んだレイベルは2人におちゃめな顔で笑いかける。
「レイベル。ふざけるんじゃありません。」
ラーチェが顔をしかめる。咳払いをするとレイベルはラーチェの横にさっと並んだ。
「「行ってらっしゃいませ」」
出来た世話係2人の綺麗な礼を背に姫と王子の姉弟臨時パーティは長い旅の一歩を踏み出した。
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