銀河鉄道に乗って
真白流々雫
銀河鉄道に乗って
夜空には、無数の星が瞬いていた――。
辺りに灯りはない。人の姿もない。
ただ田園地帯が広がるだけで、虫の声以外に響く音はない。
遠くには、いつか弟と虫を捕まえにいったことのある山々の稜線が影となりどこまでも続いている。その麓には県道が通っていて、ときどき光が横切っていった。
腕時計を確認する。
もうすぐだ。
もうすぐ銀河鉄道に乗って、夜空の向こうへと旅立つ。
見送りは居ない。決意が揺らぎそうだから黙って家を出てきた。
でもやはり――
下を向いていると気分が沈みそうで、夜空を見上げることにした。昔聞いたことのある曲に、そんな歌詞があったっけ。
夜空には、無数の星が瞬いている。
生まれ育った故郷の夜空をこうして下から見ていられるのも、あと僅か。
そう思うと、目の奥がじんとしてくる。
涙は出てこなかった。
むしろ、今もずっと思っている。
なんて自分勝手なんだ。
実にひどい人間だ。
でもそんな人間が居なくなったら……。
親は泣いてくれるだろうか。
弟は泣いてくれるだろうか。
いつも喧嘩ばかりしていたけれど、居なくなったら一番上になるんだな。泣いている暇なんてないかもしれないけど、弟は強い。
大丈夫。
無理やりにでも後顧の憂いを絶つ。
後ろ向きな気持ちとはおさらばだ。
気持ち程度の段差に腰を掛け、線路の向こうを除く。
まだ車両は見えない。
腕時計を確認する。到着までもう間もない。
だというのに、悠久にも思えるような長い時間に感じられる。
銀河鉄道に乗ったら、何もかもが目まぐるしく過ぎていって、考えている余裕もなくなるだろう。
本で見た土星の輪っかだって、間近で見られるかもしれない。
冥王星のところまで行ったら、仲間だねなんて言ってみたり。
宇宙の果てまで行って、誰も知らない世界を見ることだって出来るかもしれない。
そう、これから未知の旅に出る。
誰もが見返すような冒険の旅に出る。ばかにしてきた同級生や、相手にしてくれなかった先生だって見返すような、とてつもなく壮大で、夢のような旅。
人類が未だ辿り着けない叡智を、一足先に探求することが出来るんだ。
ドキドキが止まらない。
じっとして居られなくなって立ち上がる。
右往左往して気を紛らわそうとしたけど、やはり落ち着かない。
プオン。
そのとき、汽笛の音が聞こえた。
線路の向こうにひと際明るい星々が輝いている。
ああ、来たか。
それを確認すると、ゆっくりとその場に腰を下ろす。
それは蛇のようにうねり、列を成していたかと思うと、やがてはくちょう座のアルビレオのように二つの連星となって、真っ直ぐにこちらへと向かってくる。
ああ、ついに。
そう思った途端、息が漏れた。
鉄の音がけたたましく響いて、心臓の音も、虫の声も、自分の声すらもう聞こえない。
星はもう、手の届くところにある。
そういえば。
弟が昨日言おうとしていたことは、なんだったのだろう……。
でも、ごめんね。
これから銀河鉄道に乗って――
夜空には、無数の星が瞬いていた。
銀河鉄道に乗って 真白流々雫 @mashiroluna
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます