第58話 前途多難過ぎる恋 15

 凄く気分が落ち込んだまま城に帰ってきたフィニアは、イシュタルやロットーが心配する中「疲れたし一人になりたい」と言ってさっさと部屋に篭る。

 イシュタルが自分を凄く心配していたのはよくわかったし、彼女に心配かけてしまっていることは申し訳なかったが、だけど妹にいいパンチもらったことでだいぶ心が折れてたフィニアは、イシュタルを含め今は誰かとまともに話せるような精神状態じゃなかった。




「……しにたい」


 ベッドにダイブしたフィニアがそんなどん底に暗い一言を発すると、フィニア一人しかいないはずの室内に突然フィニアとは別の声が響く。


「それは駄目だ」


「ひぎゃあ!」


 驚きのあまりフィニアは、ロットーが聞いたら『お前どこから声出したんだ』と突っ込みそうな奇声を発する。

 声の主を探してうつ伏せになってたフィニアが仰向けに転がると、彼女を見下ろすように魔人二人がふわふわと部屋の中央で浮かんでいた。


「せ、セーレ!」


 突然の魔人の登場に、フィニアはあんぐりと口を開けたまま上体を勢いよく起こす。「どしたの?」とフィニアが聞くと、赤と青の魔人は揃った口調でこう彼女に答えた。


「死ぬ、と不吉な事を言うので心配になって出てきたのだが」


「……あ、そう」


 なんだか色んな人(?)に心配されてるなと思いつつ、フィニアはちょっと笑って「ごめん、冗談」と返す。


「心配してくれてありがと……いや、ちょっと落ち込むことがあってさ」


 頭を掻きながらフィニアが答えると、魔人は「見ていたから原因はわかる」と答える。また驚くフィニアに、魔人はこう言った。


「お前が落ち込むのはわかるが、勝手に死なれては我々が困る。今我らはお前と契約をしているから、主であるお前が死を迎えると我々も消滅することになるのだ」


「え、そうなの?!」


 魔人二人は全く同じ動作で頷く。フィニアは「じゃあ俺一ヶ月は絶対死ねないじゃん」と言った。


「うわ、プレッシャーだな……事故とかホント気をつけるよ。いや、いつでも気をつけてるけど尚更気をつけるって意味ね」


「……さっき『死にたい』と言ってたのは気のせいか?」


「だからあれは冗談だって。ちょっと大げさに落ち込んでみただけ」


 フィニアの言葉に魔人二人は顔を見合わせ、そして視線をフィニアに戻すと「心臓に悪い冗談は控えてくれ」と言った。


「お前と契約している間は、我らはお前に命の危険が迫ればお前を守る為にこうして姿を現したりもする。それを覚えておくように」


「え……あ、はい……わかりました」


 よくわからないがあと最大でも二十日間ほどは、自分は物凄いボディーガードに守られてることになるのかと、フィニアはそんな認識の仕方をする。


「なんだか安心感あるね、魔人に守られてるっていうのは」


「……我ら魔人は魔術を使う者の監視と魔術使用の許可が仕事だ。それ以外のことでこの世界に干渉する事は極力避けたいと、そういうことを覚えておいてもらいたい」


「わ、わかった」


 魔人はフィニアとそれだけやりとりすると、また唐突に姿を消す。魔人が音もなく消えた場所を、フィニアはしばらくボーっと見つめた。




◇◆◇




「フィニア、落ち込んでたみたいだけど大丈夫かな」


 そう呟いたのはイシュタル。彼女は隣に立っていたロットーに、彼女は聞いていた。

 城に戻り、イシュタルはフィニアを心配しつつも、『一人になりたい』と言う彼女の言葉を聞いてフィニアと別れる。しかしやはり心配なのか、代わりに彼女を良く知るロットーに色々話しかけていた。


「どうでしょうね。でも単純な方なんで、直ぐまた元気になりますよ」


 フィニアとそれなりに付き合いの長い彼のその言葉なので信じるイシュタルだったが、それでも会った時から明るく元気だった彼女が、帰りの馬車ではうって変わって静かで口数も少なかったのがどうしても気になってしまう。


「……フィニアとコハク王女は、そんなに仲は悪くないんだよね?」


 確認するように問うイシュタルに、ロットーはどう答えるべきか迷う。そしてちょっと考えた後、こう返事した。


「少なくともフィニア王女はコハクちゃん大好き状態ですよ。でもコハクちゃんはちょっとドジなお姉さんが頼りないからか、あまり好きではないようです」


 ロットーは、今度はフィニアとコハクの関係をそう正直に話す。ただコハクがフィニアを嫌う理由はもっとたくさんあるのだが、そこだけは説明すると不都合があるので省略しておいた。


「王女も王女なりにコハクちゃんに好かれようと頑張ってるんですけど、どうも空回りしちゃってて」


 自分から話しを振ったことなのに、ロットーの言葉に返す言葉が思い浮かばず、イシュタルは難しい顔で沈黙する。ロットーは小さく笑い、何も言葉を返せないでいるイシュタルに「もう少ししたら、フィニア王女の様子見に行っていただけますか?」と言った。


「え……?」


「俺が行くより、王子が行った方がフィニア王女も喜ぶと思うんで」

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