第57話 前途多難過ぎる恋 14

「フィニア、よかった見つかって……」


 予め決めておいた集合場所で、レジィに連れられたフィニアと、メリネヒと共に彼女を捜していたイシュタルが再会する。フィニアは迷子になったのが恥かしく、俯きながら「すいません」とイシュタルに謝った。


「な、なんか勝手にいなくなってしまって……ごめんなさい、イシュにも皆にも迷惑をかけました」


「ううん、気にしないで。フィニアは街に慣れてないって聞いたし、やはり一人にした私たちにも責任がある」


「えええぇ、いやどう考えても私が勝手にふらっといなくなったのがいけないです! 全然、皆さんは悪くないです!」


 そんな感じでイシュタルとフィニアが話しをしていると、ロットーがやって来る。彼は怒りのオーラを隠した笑顔でフィニアに近づき、「やぁ王女、ずいぶんと捜しましたよ」と言った。そのロットーの静かな怒りの様子に、フィニアは「ひぃ!」と短く悲鳴をあげてイシュタルの後ろに隠れる。


「ろろろ、ロットー様、お馬鹿なわたくし迷子になり申し訳ありませんでした……っていうか冗談抜きで顔怖いよロットー」


「なに言ってるんですか、俺超笑顔じゃないですか。そうそう王女、さっき俺街でいいもの見つけたんですよ。勝手にどっかいって皆に迷惑かける王女にぴったりの鎖付きの首輪、これ今度から付けましょうかあはははっ」


「うああぁぁん、ロットー目がマジで怖い! 助けてイシュ!」


「え? え?」


 フィニアとロットーのやり取りに巻き込まれたイシュタルがおろおろしてると、他の者も集まってくる。コハクもマリサナと共にフィニアの元へやってきた。


「あ、コハク……」


「……」


 コハクがちょっと怖い顔をしているのに気づき、フィニアは物凄い怯える。これはもしかしなくても、彼女はとても怒っているんじゃないだろうか。


「あの、コハク……ご、ごめん、ね」


 フィニアは怯えながらも、コハクに今回迷子になって迷惑かけたことを謝る。するとコハクはフィニアに近づき、おもいっきりグーの拳でフィニアの頬を殴った。


「ひゃっ!」


「うわっ!」


 マリサナが小さく悲鳴をあげ、レジィが大きく口を開けて驚く。フィニアはなにが起きたのかよくわからないのか、痛む頬を押さえてぽかんとしていた。


「コハク様……!」


「マリサナは黙っていてください。私はすっごく怒ってるんですから」


 有無を言わさぬ気迫を放つコハクに、マリサナはおろかロットーもイシュタルも何も口出しできなくなる。コハクはまだ幼さの残る十四歳の少女だが、とにかくやたらと怒りに迫力があって怖かった。


「お姉様、今回お姉様が勝手にどこかに行ったことでどれだけ皆様に迷惑をかけたのか、お姉様は本当にそれを理解して反省しているんですか? 私にだけ謝っても仕方ないんです」


 強い口調で厳しいことを言うコハクに、フィニアは何も言い返せずただうな垂れる。元々誰かに対して何かまともに言い返す勇気も根性も無いフィニアだが、この何も言い返さない反応が無反応に思えてコハクをさらに苛立たせた。


「なに黙ってるんですか! お姉様を捜してくださった皆様に謝るとかしてください! 皆様すごく心配もしていたんですよ!」


「あ……ご、ごめんなさい……」


 もう完全にマジ泣き寸前なフィニアを見て、さすがに可哀相になったロットーが仲裁に入る。


「コハクちゃん、フィニア王女はすでにかーなーり反省してました。王子にもちゃんと頭下げて謝ってましたし。だからお叱りはそれくらいにしといてあげてください、王女泣いちゃうとまた面倒だし」


 ロットーのその言葉に、コハクは不満げな顔のままこう呟いた。


「そうやってお父様やお母様、ロットーがお姉様を甘やかすからお姉様はいつまでも駄目なままなんですわ。ちゃんと反省してもらわないと、お姉様のことだしまた勝手にいなくなったりしますよ」


 コハクの言う事ももっともだと思ったロットーだが、でもフィニアがドジで『絶対やるなよ!』と言った事をお約束のようにやるのは仕方ないことだとも思っている。


「フィニア王女も悪気があって迷子になったわけじゃないし、初めてのことで失敗してしまうのは誰にでもあることだと俺は思いますよ」


「それはそうですけど……」


 するとイシュタルも「私からも、それくらいで許してあげてもらいたい」と言葉を挟み、それでやっとコハクも不満な顔ながら頷いた。


「……わかりました。なんだか私が悪者みたいなことになっていますし、これくらいにしておきます。でもお姉様、今度こんな迷惑を皆様にかけたら私これ以上に怒りますから」


「……はい」


 なんだか自分のうっかりのせいでコハクにブローチあげるどころじゃない雰囲気になってしまったことに、フィニアは大いにへこむ。コハクも想像以上に怒っているし、自分のせいで場の雰囲気が最悪だとフィニアは自覚していた。

 せっかく久しぶりの街だったのに、楽しむどころかイシュタルともろくに話が出来ずコハクにはさらに嫌われた。頬がまだじんじんと痛んだが、それ以上に胸が痛くてフィニアは俯いてちょっと泣いた。


(なんか俺、本当に全然駄目だな……)




◇◆◇

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る